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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第一章
26/94

黒との邂逅

ようやく書けました。あまり一話に長く掛けると、文がごっちゃになりますね。


反省するものであります。

メアリーに抱き締められ、頭をひたすら撫で撫でされた後、満足したらしい彼女に、武闘会の予選、本戦について具体的な話を聞いた。


「先ず、このメダルはねー・・・」


この銀色の、直径十二センチ、暑さ五ミリ程の重厚なメダルは、参加者の証であると同時に、予選突破の鍵であるそうだ。


予選が始まると、参加者はこのメダルを人から見える位置に身に付ける。


街中でも何処でも、このメダルを身につけている者から、コレを盗んででも殴ってでも殺してでも奪い取る。正々堂々と闘うなら、街の至る所にある広場に設置された、リングと上で決闘する。


一人三枚集めて、受付まで持ってくると、取り敢えず予選突破となりますよ、との事だった。


「登録した時の名前?いやいや、名前は本戦に出る人だけ聞かれるんだよね。だから、このメダルは誰が持ってても良いの」


本戦の話はまた今度。というか、メアリーから聞くより、予選を突破すると係りの人から教えられるので、其方の説明を聞いた方が良いとの事だった。


「じゃ、頑張ってねー。期待してるよー」


ニコニコと、何時もの営業スマイルに見送られ、彼女の店を後にする。にしても、武闘会か。軽く引き受けてしまったが、今更不安感が物凄い勢いで押し寄せて来ている。・・・生きて今年を終える事が出来るのだろうか。


「エリアスちゃん!!髪!髪留め!忘れてるぅ!!」


・・・お先真っ暗、である。













「ええっ!?エリィちゃん!出場するの!?」


場所は自室、カルセラとツィーアの二人を呼び、三人でお茶を飲みながら談笑していた時だ。サラッと切り出したつもりだったのだが、カルセラが過剰反応してしまった。


「・・・止むに止まれぬ事情があってな」


不安が無い訳では無いが、お金と今後の消耗品費は美味しい。もう、此方も覚悟は決めた。


「らしくないわね。目立つわよ?ただでさえ、巨漢みたいな奴ばっかなんだから」


言外に、俺の様なチビ娘は目立つと。俺だって好き好んでこんな事をしようという訳では無い。仕方ないではないか。金とか、金とか、金とか、一億オルドとか、金貨百枚とか、白金貨一枚とか。


「まあ、偶には、な」


実はこの話は前戯である。人目の無い、自室に二人を呼んだ本当の目的。コレを話すから、出場する事も明かした。


「なあ、カルセラ」


突如真剣な顔付きになった俺を見て、カルセラもふっと意識を切り替えたらしい、目付きが明らかに変わる。口調や口角は変わっていないが。


「なぁに?エリィ」


ツィーアも、空気の雰囲気が変わった事を感じ取ったらしい。口を閉じる。チラリ、とツィーアに流し目をする。彼女は知っていたな。一度素で会っているし。


「カルセラは・・・その・・・噂の銀髪赤眼の人物を・・・どう思う?」


ツィーアは其れを知っているからか、はっとした顔をし、カルセラといえば、何故その話?と訝し気な顔をする。


この銀髪赤眼の人物・・・要は俺なのだが・・・その噂は生徒の歓談でも時折登場する。王国や真人教が血眼になって探しているだとか、修羅がどうだとか、様々な噂、憶測が飛び交う。もう十年以上昔に世に流布された話らしいが、未だに其の人物が見つかっていない、其の話は世にも名高い予言書プラフィットが出という事もあり、長くに渡って、市民のポピュラーな話題の一つだ。


当然、カルセラも其の話の殆どを耳にしているだろう。しかし、この話はあくまで噂。眉唾物として、真面に受け取る必要も無い物。


「どうって・・・別に居るかもわかんないヒトの事なんて・・・考えるだけ非生産的じゃない?」


ごもっともである。カルセラはかなり現実主義な人間だ。そんな噂程度にどうこうされる人間では無いのかもしれない。少し、安心した。


「そうか」


長ソファと、長テーブルの置かれた、一般的に言う応接間。客と主人は、必ず対面、向かい合わせに座る事が基本だ。・・・カルセラは最初、堂々と横に座ろうとしたのだが。


席を立ち、カルセラとツィーアが座っているソファの方に周る。カルセラといえば、キョトンとした情けない顔。そして何を勘違いしたのか、あん・・・こんなところで・・?とか呟き出したので、さりげなく足を踏んづけておいた。うっ、と呻き声が漏れたが、それ以外は微動だにしない。顔は強張っているが。・・・これは面白いな。その内またやろう。


「えーっと・・・エリィ?」


カルセラの横、肘掛けの所に腰を下ろす。間近から彼女を見下ろす形だ。彼女の顔に、紺色の髪が掛かりそうになる距離。彼女の蒼い瞳に、自分の紅い瞳が映り込む。


「驚くなよ」


毟る様に、髪留めを取った。














武闘会予選当日。街は何時もとは比べ物にならない程、浮かれ、お祭りムードが漂う。露店が賑わい、各地の広場に、闘いを観戦しようと、人が集まる流れが目に見える様だ。


「さて、先ずどうすべきか」


決闘が行われている広場の一つ、この街で最も大きな広場。中央が魔力障壁に囲われ、其の周囲には市民が集まり輪を描く。そんな光景を見下ろせる、少し高めの尖塔。重錘の重さを用いた初歩的な機械式時計が設置されている時計塔の上、展望台の様になったフロアの窓枠に、俺は腰掛けていた。


今日の格好は、既に武闘会スタイル。金属製ののっぺりした仮面を被り、頭から黒地のローブをすっぽりと羽織る。足元は腿迄、腕は肩迄、胴は胸元を中心に、金属製の、物凄く分厚くて重い・・・場所によっては最厚部である胸部で七ミリを超える・・・鎧を身に付けて・・・いや、縛り付けている。重さは、前世の身体、大の男の身体でも、立ち上がることすら難しい程。大して支障も無く動けるこの身体が怖い。カルセラやツィーアに事前に見せた所、カルセラは手甲を持ち上げる事もやっと、胴鎧を持ち上げようとした所、危うく足の上に落とすところであった。胴は鉄板の貼り合わせの様な形で、フルプレートアーマーでは無い。腕と足はフルプレートだが。其の関係で現在、俺の重量は平素の二倍以上となっている。鎧の方が、俺の体重よりも遥かに重いのだ。自分の身体ながら、恐ろしいパワーウェイトレシオだ。


また、手甲脚甲は肘、膝等の関節を保護する役目もある。今回、恐らく今迄に無い程に激しく関節を酷使するだろう。其れで腱が伸びた〜だとか、脱臼しそうに〜だとかは御免なのだ。


・・・見た目は何かの悪役、少なくとも、かなり怪しい。勿論、コレを用意したのはメアリーだ。趣味が悪過ぎる。流石元賊(略






そうといえば、カルセラだ。三日前、俺は彼女に己の正体を明かした。其れを見た彼女の反応は、至って単純だった。


「・・・ふふっ、ふふふふふふふ」


表情を歪め、何が面白いのか、ひたすら嗤う。彼女の本性を知らぬツィーアの唖然とした顔が、更に彼女の気を良くする。


「やっぱりエリィは・・・ふふっ、只の人間じゃないって最初っから分かってたけど・・・貴方には驚かされてばっかりよ」


クスクスと、大抵の者に不快感を与える、嫌らしい嗤い声を洩らす。歪んだ眉の内に見える、ギラついた瞳、口が裂けているのでは無いかと思う程、吊り上がった口角。何故こうも黒い、危ない表情が出来るのだろうか。・・・やはり中身がアレ過ぎるのだろう。


「"悪魔は自分の影に居る"って諺があるけど、正しく其の通りじゃない・・・勿論、エリィが悪魔役だけど」


ニヤニヤしながら、中々失礼な事を言ってくれる。誰が悪魔だ。否定も肯定もするつもりは無いが。・・・もしかして、先程考えた悪口への意趣返し?其れは考え過ぎか。


「・・エリィは大抵考えている事が顔に出てるから・・・気を付けてね?」


やっぱりこの女怖いわ。無駄に艶っぽいし。子供相手なのに、ドキッとさせられてしまう。表情は果てし無く意地悪っぽいのに。


「で、別に私はどうこう言う気は無いから。寧ろ・・・噂の修羅を招く歴史の鍵、そんな人が将来、私の所に来るって決まっているんだもの。付加価値が上がって、私は嬉しいわよ?其れに・・・」


・・・カルセラはやはりカルセラだったらしい。全く気にして居ない様だった。いやはや、友達を無くさずに済んだ。良きことだ。


「・・・こっちの方が可愛いからっ!!」


「!?」


突如、元に戻ったカルセラは、俺の肩を抱き寄せ、頬を擦り合わせて来る。ぐえぇ、頬が捩れるぅ。


「ああっ髪綺麗っ!!すごい!すっごくさらさらだっ♪ おのれっ!どんな香油を使っているのっ!白状しなされ〜♪」


髪をわしゃわしゃと掻き回して来たり、頬をぷにぷにされたり・・・オモチャにされている?


「くぅ!?この玉肌!!なんでっ!どんなお手入れをしているの!!?もう、もう我慢出来ないッ!舐めちゃえぇー!!!・・・ぐえっ」


流石に度が過ぎるので、襟首を引っ掴んで引き離した。ツィーアも目を白黒・・・いや、完全に停止しているし。あまりに早く転じた状況に、思考が追い付けなかったのだろう。カルセラをぽいっと投げた衝撃で、漸く我に返った様だ。


「えっと・・・ベッドは、そっち、よね?」


色々と、ずれにずれている、ツィーアであった。





と、まあ、そんな事があったのだった。カルセラとツィーアの頭は何処かおかしい様だ。


さて、ずれた話を戻そう。予選を突破するには、三枚のメダルを集めねばならない。其の入手方法に関しては、最も推奨されているのが、決闘による駆け引き。まあ良いとされているのが、相手を不意打ちでもなんでもして強奪する事、勿論、不用心な者から盗んでしまっても良し。最悪殺害してしまっても、大会参加者なら免じられる。


眼下には、メダルを賭けて闘う参加者達と、観客共。


・・・顔を隠しているからか、何時もよりも大胆な事をしたくなる。マスクを締めているベルトを再確認。このマスク、存外息苦しくはない。不思議である。前世、この手の仮面は息で蒸れ、顔が暑くてあまり付けたい物では無かった。・・・何の仮面か?祭りのアレに決まっている。まあ、余談になってしまうな、此れは。さて、そろそろ行こう。


では、状況開始だ。


地上迄、四十メートル近くある尖塔。其の壁を、蹴った。













つまらん。


彼女が先ず思ったのは、そんな事であった。目の前のリングで行われている、武闘会予選の仕合。一般市民を楽しませている其れを、無機質な光を湛える金色の玉眼で睥睨する。


あまりに稚拙、御粗末、脆弱、無様。


一々武器を交えてみる迄も無い。其の価値も無い。其処らの野盗よりはマシかも知れないが、彼女からすれば、何れも等しく有象無象。其の彼女からすれば闘いですらない、子供の棒遊び程度にしか見えぬ其の催しは、彼女に深い失望感を与えた。


「・・・期待外れ、か」


首に下げた銀色のメダルを毟り取り、踵を返そうとする。折角、長路わざわざ此処迄足を運んだのに、折角強者と合間見える事が出来ると思ったのに、この有様。心の中では期待していたが、其の一方では、やはり、という念が渦巻く。高々見世物の武闘会。この程度であったのだ。心なしか耳と尾を力なく垂らし、落胆しながら立ち去ろうとした時であった。


凄まじい激突音。


尋常では無い。少なくともあの雑魚二人が発せる音では無い。反射的に振り返り、リングの内が見える所迄走り寄る。


其処で見えたのは、妙に地味な仮面と、真っ黒いローブを着けた小柄な人物と、リングの端で地に伏す先程迄チャンバラをしていた男二人。


其の黒い人物は、ずしり、と重々しい足音とは裏腹に、スタスタとまるで平服で街を歩く娘の様な足取りで、二人の敗者からメダルを取る。


あまりの出来事だったのか、観客達と立会人は、暫し沈黙していたものの、なんだ!?と騒ぎ始める。言葉を拾う限りでは、突如、此の謎の人物が乱入、二人を瞬時に吹き飛ばし・・・今の状況に至ったらしい。


ふと、其の人物と目が合った。


紅玉を思わせる真紅の瞳。


魅入られたとは此の事だろうか。


ローブの下に、チラリと見えた"銀色"に輝く髪。


仮面の隙間より垣間見えた首筋は、今は亡き故郷の新雪を彷彿とさせる白。


其の人物は視線を外すと、人間、引いては下手な獣人でもあり得ない跳躍力を見せ、近場の建物の屋根に飛び乗る。再び此方を一瞥すると、まるで崖を跳ぶ馬の様に屋根屋根の間を飛び、瞬く間に姿を消す。


流石の彼女も驚きの為か、暫し呆然と黒い人物が去った方を眺める。ふと、我に返ると、今見た物の実感が、ふつふつと湧き上がって来た。


「・・・ククッ、なんだ、居るではないか」


己が挑むべき、刃を交わすべき相手が、と言外に含む。先程迄の覇気の無い、無気力な態度とは一変、口の端を吊り上げ、其の赤い唇を舌で湿らす。


「・・・そうか、此れは早計だったか」


悠然と、しかし、一般人が凍り付く程の覇気を纏わせ、彼女はリングの中央へと進む。そして、羽織っていたローブを脱ぎ捨てる。


艶やかな黒髪、黄金の瞳、手足を細身の黒ずんだ装甲で包む。胴は鎧を着けておらず、エリアスが見れば、「チャイナ・ドレス?」と言いたくなる様な露出の多い衣装。袖から覗く二の腕、腰迄のスリットから覗く大腿。何方も見るからに柔らかそうで、其れでいて動く度にしなやかな筋肉が脈動する。腰から臀部にかけての線は既に芸術の域。其の上には古今東西凡ゆる男を悩殺するであろう、豊満な乳房。十人居れば、十人が美女と認めるであろう、其の女。しかし、側頭部からピンと伸びた獣耳と、ドレスの後ろから覗く、黒い尻尾が、彼女が人間では無い事を主張する。


「さあ、私と遊んでくれる男は・・・居ないのか?」


無意識的に、蠱惑的、挑発的に身体をしならせ、潤んだ金眼から放たれた視線が、挑戦者であろう、男達の身体を舐め回す。


相手は獣人。此の国では人間の下、奴隷としてしか基本存在しない存在。其れでも、此れでいきり立たぬ予選参加者、市民の男は居なかった。


我先にとリングに上がろうとする男共。自ら口に飛び込んで来る餌の様な彼等を見、笑みを深くし舌舐めずりする彼女。


「(さっさと予選程度は抜けねばな)」


意識は既に本戦出場後の事。何やら目の前で男が何やら宣っているが、頭には入って来ない。


「(・・・一匹目はあまり簡単に潰し過ぎると二匹目が釣れないな)」


まあ、こんな相手、片手で鼻糞を穿りながらでも嬲れる。こうして同じ場に立っているだけで、感謝して欲しい物だ。いや、後悔か?


「御託は良い、さっさと殺るぞ」


地を爪先で抉り、踏み出す。


二つ、地に染みが出来るのに、そう時間は掛からなかった。













時計塔から飛び降り、着地したのは斬り合いをしていた男二人のすぐ傍。ずん、と重そう・・・いや、実際重い音を立てて着地した俺に、二人は、更に観客、立会い人は一斉に目を向ける。


「(・・・結構、緊張するな)」


全方位から、痛い程に視線を浴びせられる。まあ、正体は隠れているので、辛くなる程では無い。正体が知れないって、気楽なのだなぁと思う。


さて、此処からはスピード勝負だ。不意打ち、強奪。瞬時に地を蹴り、先ず向かって右側の男、重装甲な方の腰に回し蹴りを叩き込む。脚甲と男のプレートアーマーが激突し、凄まじく耳障りな音を発する。蹴り飛ばされた男は、正面に居た、もう一人の軽装の男の方へ吹き飛ぶ。プレートアーマーを着込んだ大の大人だ。其の重量や如何に。二人は絡みながら吹き飛ばされ、リングの外縁、魔力障壁にぶち当たる。軽装の男は重装の男に押し潰される形となり、地面に赤黒い染みが広がる。重装の方も、腰部背中側の装甲が紙の様にひしゃげ、内側から赤い液体を流し、ピクリとも動かない。


「(・・・やり過ぎたか)」


武闘会での殺生は許可されているとはいえ、あまり後味の良い物では無い。


重量増加の効果は、かなり出ているらしい。単なる打撃が、一撃必殺。なんという事か。・・・次からは加減しよう。


が、今ぐじぐじしていても仕方が無い。二人の残骸からメダルを回収、さて、何処から撤収しようか、と思い、周囲を見回す。


其処で一点、ある人物に目を奪われた。


周囲から完全に浮いている、漆黒のローブ。背に長大な・・・恐らく長柄武器。ローブの下から覗く白い肌と、ローブに負けず劣らず黒い髪。そして、満月を思わせる、金色の瞳。周囲の観客と同じ、呆気に取られた表情をしているが、其れでも、明らかに異質、全く違う雰囲気を醸し出している人物。そして、何より。


「(・・・綺麗だな)」


顔立ちが俺の好みど真ん中だった。いや、俺、今は女だが。心の内の男心が、彼女に惹かれるのだ。男の性である。


しかし、其処でふっと我に返る。さっさと此の場を抜け出さねばならないのだ。頭の中身は大慌てで、周囲を見回す。女に見惚れている場合では無いのだ。


結果、選択したルートは、屋根伝いに受付迄行くもの。・・・飛び乗った時、屋根瓦を叩き割ってしまった。いや、重いから、仕方ないだろう。雨漏りしたらごめん、と心の中で謝る。器物破損か・・・やりきれん。


そうは思いつつ、屋根瓦を叩き割りながら、屋根屋根を飛び移る。受付の建物は、街の中央部に存在する闘技場、其のすぐ近くらしい。


遠くに見えた、円形の巨大な建物。其処に向かい、ひたすら跳ねる。


「(あの女も武闘会に出るのか?)」


少し、情けない煩悩が心中を渦巻いていたが。





「戦闘職?」


「はい、簡単に説明致しますと、貴方の戦闘方法ですね。剣を使うだとか、魔術を使うだとか」


受付にて、銀色のメダルを渡し、予選突破の証らしい、金色のメダル・・・真鍮製らしい・・・と交換された。その後、事前にメアリーに言われていた様に、名前、年齢、職業等身元を確認する情報を聞かれた後、戦闘職は?と、そんな質問をされたのだった。


因みに名前は偽名で、エリスと名乗った。エリアス・スチャルトナ・・・エリス・・・我ながら安直だとは思うが。年齢は嘘も無く八歳、職業学生。年齢を言った所、訝しげな目をされたが、実際にメダルを持って来ているので、特に文句も言われなかった。


しかし、戦闘職か。俺・・・なんだろうか。


「戦闘職には、どんな種類があるのですか?」


良く分からんので、例示して貰う事にした。武闘会に出るのも初めて、と言うと、幸いな事に、受付の愛想の良い女は、気前良く説明してくれた。


「決まった型はありませんよ。大抵の方は、剣士だとか、魔術師ですとか、珍しい方ですと、拳闘士だとか、其々の得意な戦い方が分かれば、何でも宜しいです。あ、隠したいという事であれば、これに関しては虚偽でも構いませんよ。・・・其れですとブーイングは避けられないでしょうが」


成る程、要は適当なのか。別に適当で・・・魔術と剣術で言えば魔術、格闘も其れなりにやれる・・・面白そうな物が思いつかないな。無難に魔術師で良いだろう。


「魔術師でお願いします」


「分かりました」


此れでよし。因みに、俺は予選突破第一位らしい。まあ、少々卑怯な方法だからな。実際、馬鹿正直にやるのも面倒だし。


「では、本戦についての説明ですね」


そうだ、其れを聞かねばならなかった。


「本戦は一週間後、此処の目の前にある、闘技場で行います」


円形の巨大な建造物。コレが闘技場らしい。分かり易くて何よりだ。


本戦の要項を纏めると、先ず、試合は大会運営側の決めた組み合わせで、トーナメント方式で行う。試合中のルール。観客席に被害が出る様な魔術、技は使用禁止。当たり前だろう。別にそれ以外ならば、嬲ろうが殺そうが好きにしろ、との事。


「本大会で敗北し、生存してしまった場合、勝利者に、其の者の身元が奴隷として譲渡されてしまいますので、ご注意ください」


負けて生き残ってしまうと、要は勝者の奴隷になってしまうらしい。因みに要らない場合は、其の場で撥ねてしまっても構わない。・・・絶対に負けられないではないか。此れは如何なる手を使ってでも勝たねば。


本戦の説明を良く吟味し、理解した所でで帰路に就く。まだ日は登る途中。午前中だ。


チラリと、懐の真鍮製のメダルに視線を落とす。本戦は、基本手の内を隠しつつ、本気を出す。まあ、相手にも依るが。


何者と当たるかは、当日になる迄分からない。お楽しみ、と考えれば気が楽だ。まあ、負けたら人生終了に近いが。


受付のある建物を出て少し歩く。闘技場、受付の前の広場においても、本武闘会の予選。其の決闘が行われている。ふと、先程の異様な雰囲気の女を思い出す。・・・と、噂では無いが、思い浮かべれば、だ。


漆黒を纏う、金眼、黒髪の獣人。手には血濡れた銀色のメダル。・・・背に担ぐ斧槍の先には、何者か、男の首が兜ごと、串刺しにされている。中々危ない姉ちゃんの様である。一気に関わり合いたく無くなった。綺麗なのに。・・・目が合った。見られていた様だ。さっさと退散しなかったツケかも知れない。次からは気をつけよう。


「・・・お前の名前は?」


落ち着いた調のハスキーヴォイス。やっている事と態度の差が著しい。平常心で串刺しなんて悪趣味な事をしているのか。俺には無理だ。


「・・・エリス」


偽名で良いだろう。どうせこの限りの付き合いだ。


すると何が気に入ったのか、凄まじい形相、壮絶と言うに相応しい笑みを浮かべ、ずい、と顔を近づけて来た。


「覚えておけ。私はスィラ・レフレクス。精々人生最後の一週間を有意義に過ごすのだな。・・・来週、闘技場の石畳の染みにしてやる」


そう言い放つと、黒いローブを翻し、受付の方に歩いて行く。


・・・面倒そうなのに目を付けられたな。第一印象はとても良かったのに。


まあ、良い。負けない。というか、負けられない。最後に会ったアマが少々ド迫力だったが、負けぬ。


決意も新たに、寮への道(屋根)を急ぐのだった。













その日の夕暮れ時。闘技場の正面フロア。其処に大きな張り紙が貼られていた。




本戦出場者



第一位:エリス(魔術師)


第二位:スィラ(武芸者)


第三位以下省略。




誤字脱字etc御座いましたらお申し付けください。

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