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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第一章
24/94

逢着の息吹

気分が入ると、恐ろしく文章がすらすら出て来ますね。いつもそうありたいものです。

波乱の特別課外活動は、多少・・・いや、命を狙われる様な事を多少というのは少々アレだが。まあ、誰もが帰って来る時には無事に、馬車に乗った。・・・他の班には怪我人が出たらしいのだが、今年は死者は出なかった様子。何よりである。


今日は其の特別課外活動より帰還した翌日、休息日だ。疲れも溜まっているだろうし、特別課外活動の思い出と余韻に浸りながら、学業の再開迄に英気を養え、という事だろう。


久々に大いに楽しい一週間だったな。新たな事を発見する楽しさと、自然の中で生活するという懐旧の念が入り混じり、此処数年分のストレスがリセットされた様だ。此れだけでも、此の学校に入って良かったとしみじみ思う。此の学校は良い学校だ。本当の良い学校というのは、子供達が学びたい事を、学びたいだけ学べる場所を言うのではないかと思う。子供達が己のやりたい事を見つける迄待つ必要はあるが。


で、今日はメアリーの所に行こうと思っている。刃物も結構斬ったので、研いで貰っても良いかと思うし、銃開発の進捗状況も見たい。そして・・・今回の戦利品である突撃銃。此れは銃自体には然程価値は無いと思っている。其の価値は、あくまでアイディアの塊として、教科書的な価値にある。


金属製のカートリッジと雷管、鋼芯入りのボルトネック状の形状の弾丸。このアイディアを考案した人物は、素晴らしい才能の持ち主だ。


銃本体にも、ジャイロ効果を生み出し、弾体を安定させる、ライフリングが刻まれた銃身、発射ガスの圧力を用いてボルトを後退させ、スプリングの弾性力でボルトを前進、爪で弾を弾倉から引っ掛け、次弾を薬室に送り込む、自動射撃機構。他にもこの銃には、反作用の性質を利用した反動抑制機構、点射モード等、面白いアイディアが満載だ。メアリーには良い刺激・・・いや、強過ぎる刺激かも知れないな。まあ、良いインスピレーションが浮かぶ事を祈ろう。


して出掛け支度を終え、門を出ようとした時だった。


「エリィ〜!どっこいっくの〜!」


この調子の良い、おちゃらけた声は素面のカルセラ・コウ・エーレン・ベルキアだろう。ふと振り向けば、空色の髪をショートにした、蒼色の瞳を持つ、美少女が駆けて来る。


「此れから・・・買い物だ」


近づいてきたカルセラは、さも当然の様に腕に絡み付いて来る。近くを通る生徒や教師が、ぎょっとした様な目で見ていくが、面倒事に巻き込まれたく無いのか、足早に去って行ってしまう。


「えへへ〜。じゃ、私と一緒に行こっ♪」


ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべるカルセラ。其れを指摘すると、此れが素の笑い方なのだと言う。・・・やはり此れは性格の悪さが滲み出て・・・。


「何と無く失礼な事を考えてるのは分かるから・・・ね?」


物凄く、妖しい手つきで俺の太腿を撫で付けながら密着し、本性モードの声で、サラッと怖い事を言って来た。今のはぞわっと来た。やはりこの女はやべぇな。あと、顔近い。


「じゃ、行こっか♪付き合うよ!」


一瞬で切り替わるというのも、中々怖い。寧ろこっちが切り替えられないわ。


「長いぞかも知れんぞ」


「へーきだよっ!」


そんなこんなで、カルセラをメアリーの所に連れて行く事になってしまった。いや、俺は別に困らないんだが。












「はい、分かりました。此れで本会議を閉会とします。お疲れ様でした」


講堂の一つに集まり、今回の特別課外活動の報告会が開かれていた。内容は、各班の食料事情、人間関係、対魔物の戦力状況、・・・其れから危機対処能力等。各班に随行した教師に規定の項目を満たしているか、細かく何をしたか、等を報告書に纏めて貰い、其れを発表するという物だ。


朝早くから開かれたこの会議が閉会する頃には、前日迄の疲れが溜まっている教師も多く、皆眠そうな、疲れを隠せない様子であった。毎度の事ながら、彼等には同情するケイト・ヴァシリーであった。


「ネメシア先生。少し良いですか?」


其の疲れている者の一人を引き留めるというのも、中々罪悪感が呼び起こるのではあるが、予定、やら目的というのは、其れを達成するプロセスに必要な、人間の体力の事迄は考慮されていない物だ。若干眠そうな眼を擦りながら振り向いたネメシア・リィ・クロチャトフの、徹夜明け特有の眼の下の隈と、若干荒れた肌と、艶が薄れた黒髪が、なんとも悲壮感を漂わせる。彼女等は今日の報告書を書くため、帰って来てもすぐには休めず・・・班の状況に依っては、書くことが多過ぎて徹夜近くになってしまう事もある。其れでもしっかりと会議に間に合わせて来るあたり、此のネメシアの教師としての能力の高さを思わせる。


「あ・・・ケイトさん・・・」


声も少し掠れている様な気がする。彼女伴い校長室へ。眠気覚ましと喉に良いお茶を出し、話を進める。


「そうでしたか・・・いえ、中々賑やかだったのですね」


自分が付いて行けたらなぁ、と何度途中で思った事か。校長という職に在る限り、其れは叶わないのだが。


「ふふ・・・《スウィフトオストリック》の肉・・・を引き摺って来た時は・・・何事かと・・・思いましたから・・・」


思い出を話すネメシア先生も、何時もの張り詰めた陰険な雰囲気は何処へやら、楽し気に、懐かしみ惜しむ様に目を細める。口調は相変わらずであるが。


「・・・で、襲撃者ですか・・・」


楽し気な思い出に水を差す様に切り出す事に、少々気が引けるものの、どうしても触れねばならない。


「はい・・・狙いは・・・エリアスさんの様・・・でした」


古代武器を持っていた襲撃者。不自然な事此の上無い。そもそも古代武器というのは、王侯、一部の貴族・・・そして直接対峙する者。其れぐらいでないと、手にする事は疎か、目にする事も叶わない代物だ。其れが其処らの学生を襲う様な、野盗、犯罪者程度の輩が持っていたというのは、少々言い訳としては無理がある。


遺体の身元は不明だった。特徴的にアリエテ人の人間である事は確か。して、恐らくは何者かに使役された可能性が高い。其れもかなり高位の人間だ。彼我の実力差を測りきれておらず、証拠を残してしまうあたり、あまりお頭は宜しく無い様だが。


「さっさとエリアスさんが射殺してしまった・・・と。其れにしても無意識に肉体強化術ですか・・・いえ、其の程度の怪我で済んだのは幸いですが・・・」


エリアスは異様に身体能力が高い。無意識に肉体強化術を行使しているのかと思っていたのだが、どうやら"アレ"で普通らしい。肉体強化術についてはつい先日、初めて行使したとの事。


「無茶苦茶ですね」


「・・・同意」


本当に人間なのか疑う所だ。シレイラの相手は誰なのだろうか。次回の手紙で其れとなく聞いてみようか。


「成る程、分かりました。疲れていらっしゃる中、貴重な時間を頂き申し訳ありませんでした」


「いえ・・・わたしも・・・楽しかった・・・ですから」


ネメシア先生が退出し、一人残ったお茶を一気に飲み干す、ケイト・ヴァシリー。


「・・・はぁ・・・」


溜息。面倒事と厄介事の匂いしかしない。


「・・・今日は早めに上がりますか・・・」


貴重極まる、古代武器を供給出来る程の人物が、うちの生徒を狙っている。


「・・・本人にも其れとなく警戒する様に・・・」


ぶつぶつと、今後の方針を練るのであった。












「むむむ・・・此れを・・・」


メアリーは案の定、突撃銃を与えると、目の色を変えて弄くり回し始めた。特に重要なのは弾薬である、と言ったのではあるが、新たな玩具を与えられた子供の様に、ガチャガチャと弄くる。完全に自分の世界に入り込んでいるな。やはり、何処かネジが飛んだ者なのだと、改めて認識する。


店の奥からは、時折乾いた突発音。カルセラが一般向け短銃を試射しているのだ。


共に店を訪れたカルセラは、何故かこの銃という武器を通じてメアリーと意気投合。銃という武器の先進性と有用性について語り合う事約二時間。その後、俺では測れない、普通の人間のテスターとして、短銃の扱いを習い、今テストと言う名の"射的遊び"をしている。筋は良いのか、先程覗いた時には、かなりの命中弾を出していた。適性が高いのだろうか。


その二人が何やら夢中になっている間、俺といえば指の先で小さな炎や水流をくるくる回す一人遊びに興じてみたり・・・少し最近思っているのは、離れたところにある物を、魔力の塊の様なもの・・・俗に言う念力の様な事が出来ないかと、少し試行錯誤していた。途中、何やら感じ取ったらしい、メアリーが飛び上がったり、カルセラの座っていた椅子や、棚類をひっくり返したり、店中の壁に掛けてある武器類を撒き散らしてしまうという様なハプニングもあったが。中々制御が難しいのだ。許して欲しい。


何故こんな事にチャレンジしているのかって? ・・・ソファーに座りながら、冷蔵庫の中のドリンクを取りたいと思った事は無いかな?


と、まあ楽をしたい根性でそんな事をマスターしようと頑張っていた訳だ。結果から言うと、未だ研究の余地は有り、だ。


メアリーの店の、壁に掛けてある武器類。其れを念力で取り寄せてみようと頑張っていた。徐々に魔力を放出するにつれ、カルセラと話し込んでいたメアリーが突然、「そ、そんなに魔力をぶち撒けて、何をするつもりなのかな?」と吃りながら言い出したのだ。魔術の実験、と言って引き下がらせたが、どうも落ち着かない様子だった。その少し後、遂に物を動かす事に成功したのだ。


・・・まあ、店の中が大変な事になったのだが。


なんとか片付け、再び練習した。今度は小さな金属部品を動かそうと、ひたすら魔力を送ってみたり、不可視の腕を想像したり等、色々と試みた。最初はカタカタと揺れるだけだったり、中々動かんと思えばとんでもない勢いで吹っ飛んだりと、メアリーとカルセラの肝を冷やす事故を起こしまくっていたのだが、最終的には重い物も軽い物も、関係無く持ち上げる事が出来る様になった。勿論、引き寄せたり、何処かに運んだり等もお手の物。ただし、どんなに大きくとも小さくとも物は一つだけ、其れもかなり集中しなければならない。・・・と言うわけで要練習事項だ。毎日頑張ろう。楽をする為に。人間とは楽をする為に苦労する、不思議な生き物なのだ。改めて考えてみると奇妙な習性だな。・・・まあ、其れはどうでも良いか。


カルセラはこの試作品の短銃(普及向け)を購入し、銃の運用法の研究をしてみるらしい。他にも立場の許す限り、古代武器をメアリーに供給してくれるとの事。メアリーからしても美味しいのでは無いだろうか。・・・カルセラはかなり払ったらしいが。金色のコインが見えた・・・様な気がしないでもない。金貨って、銀貨の上だったか?何オルド?少なくとも一万オルド以上だよな?


俺も短剣とブロードソードを研いで貰った。やはり自分でするのとは、仕上げが全く異なる。此れが俄とプロの差なのだろう。


「えへへ〜・・・♪」


うっとりと、今日買った短銃を舐め回す様に眺めるカルセラ。そんなに嬉しいか。顔が緩みに緩んでいる。やんごとなき身分が聞いて呆れるぞ。


そうだ、メアリーの銃開発の進捗についても触れておかねばならないだろう。


なんとか、長い銃身の制作に成功したらしい。試作品の長銃を見せてくれた。簡易的な照準器も備え、射程と集弾性の程は分からないものの、形は様になっていた。肩当てが無く、グリップが短銃と同じ仕様になっていたものの、今日渡した突撃銃を触って見て、ストックの有用性に気付いて貰えた様だ。きっと次の長銃にはストックが付けられる事だろう。・・・折り畳み銃床が付いていたら、きっと噴き出してしまうかも知れないが。


オートマチック機構は流石に無理があるだろうが、弾の形状、ライフリング、給弾方式のアイディアを吸収してくれれば、更なる優れた銃を作ってくれるだろう。少し、意識的に応援する事にしたのだ。頑張って貰わねば。


「よーし!やることがたくさん出来たぞーっ!」


メアリーも意欲は十二分な様子。何よりである。


「えへへ〜・・・うへへ・・・」


段々おかしくなっているカルセラの頭の上に、念力の練習に使っていた小さな金属製の小物を落として現実に引き戻し、店を後にする。





毎度の事だが、帰る時には既に陽は傾き、空は茜色に染まっている。大通りも人は疎らになり、家々や宿からは夕食を作る、なんとも食欲をそそる香りが流れ出し、既に慣れ親しんだ・・・この街の夕方の一光景だ。


「お腹空いたね」


カルセラの横顔も斜陽に当てられ、何時もよりも三割増しで魅力的に見える。何故、夕焼けは人を美しく引き立てるのだろうか。本当に美しい物は、その照らす物をも美しく見せる、魔性の力があるのだろうか・・・と迄考えた所で、俺も随分と詩人じみた事を考える様になった、と思い、クスリと頬が緩んだ。横のカルセラは、何やらぼんやりとした表情で、ぽけーっと俺の顔を見ているが。


「そうだな」


此れが青春なのだろうか。いや、年齢的にはかなり早いのだが・・・。


「走るぞカルセラ」


「えっ・・・ちょっ!」


何と無く走りたくなる。勿論、カルセラに合わせて、遅めにだが。


夕暮れの空は、どこ迄も茜かった。













「・・・あれが・・・」


開けた平野に聳える、夕陽に照らされ、空を切り取る影の様に聳える城壁。端は遠く、彼処迄行くには、其れこそ一日は掛かるだろう。


「・・・"自由交易城塞都市"、又の名を"学園都市"エルクか」


黒装束に身を包み、荒布に包まれた長大な大斧槍を携える、その人物。街道を人知を超えた速度で駆け抜け、遂に見えた目的地を前に、暫しの旅の余韻に浸っていた。


「・・・夕陽、か・・・」


初夏の突き抜ける様な空を、茜く、巨大な夕陽が染めてゆく。


ふと、己の手に視線を落とす。


最初に他人の命を刈り取ったのは何時であっただろうか。


十年程前か。集落を追われ、野に放たれ、自らの細腕一つで生きて行かねばならなくなった時。あの頃は生きるのに必死だった。


名も知れぬ苦い草を食み、何とか突き殺した魔物を、泥と血に濡れながら、生で食らいつく。石に枕し、川に身体を濯ぐ。灼熱の荒野に喘ぎ、雪山の厳しさに凍えた。


「だが・・・」


今は違う。絶対の、生きる力を手に入れた。堂々と、胸を張って言える。


斧槍の石突を地に叩き付ける。其れだけで、自分が立っていた大岩が砕け、崩れ落ちる。


危なげなく着地、再び足を運ぶ。


「感傷的になり過ぎたか」


そんな己に苦笑した後、表情を消す。


「・・・行くぞ」


口の中で呟くと、彼女は疾風の如く駆け出す。


後に残るは静寂・・・。


初夏の風が吹いた。




誤字脱字、不適切な言い回し等が御座いましたらお申し付けください。

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