表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第一章
21/94

過ぎたるは自爆のみ

グロテスクな描写が御座います。ご留意下さい。


ソフト(?)なグロを目指しました(謎)

魔物。古くから人とその勢力圏を巡って争う、意思疎通が困難な生物。種によっては、人が手名付ける事によって、騎獣となったり、家畜となったりするものも居る。総じて繁殖力が高い、攻撃的である、等の特徴というか弊害はあるが、一部では、生活には欠かせないものとなりつつある。時に富を恵み、時に人から奪う。そんな彼等は、この世界の人々のライバルと言えるだろう。


で、そんなヤツが今、目の前に居る。


犬、いや狼に近いか。四足歩行の大柄な獣。体毛は灰色で、大きな口には、ズラリと鋭そうな牙が並ぶ。デカイ。かなりデカイ。全高だけで二メートルくらいありそうだ。此れが魔物?コレを倒すの?


「お食事中みたいだね」


そいつは何やら小さな"緑色の人"の様な生き物。其れと争っている、というか蹂躙していた。あ、また一匹食われた。


「《ゴブリン》と・・・《シルバーウルフ》かぁ・・・ちょっとキビシイかなぁ・・・」


《ゴブリン》、は何と無く聞いた事がある。あの緑色の小人っぽい奴らだ。手に手に短い木彫りの棍棒を持ち、何かの獣の皮で作ったらしい衣類を見に纏っている。《シルバーウルフ》此れはあのデカイ犬っころだろう。いや、ウルフだから狼か。メディアでしか見た事が無かったな。


で、その《ゴブリン》達はなんとか《シルバーウルフ》を追い払おうと、棍棒を振り回したり、逃げ惑っている。《シルバーウルフ》はまるでボール遊びをする犬の様に、尋常ではない跳躍力を見せ付けながら、一匹、また一匹と《ゴブリン》を食いつまんで行く。《ゴブリン》も統制も知性も無く、ただ向かって行っては、灰色の狼の口に飛び込む様に食われて行く。なんとまあ、弱肉強食どころでは無い、一方的な食事である。あんなちっこい物つまんでも、そんなに腹は膨れないとは思うが。というか、棍棒とかそんな物ごと食っているが、大丈夫なのだろうか。


「今の内に逃げた方が良いわ。ゴブリンが全滅する前に」


所で何処かの国では、犬を食う文化があった様な気がする。そういや食った事は無かったな。


《シルバーウルフ》なる狼っぽい生き物を見る。四足歩行だから食えない事は無いだろうが。いや、どうも肉食っぽいしなぁ・・・臭そうだな。辞めとくか。


「って気付かれたわよ!?ああっ!もうっ!!」


ツィーアが隠れていた茂みから飛び出し、火属性下級魔術『ファイアボール』を発射する。するとゴブリン共を食い尽くし、此方に駆け出していた灰狼が反応、サイドステップを踏んで回避する。


「ちっ!これだからすばしっこい奴はッ!!」


咄嗟に撃ったとはいえ、攻撃を躱され悪態をつくツィーア。灰狼も灰狼で、中々頭は回る様だ。今度は狙いが付け難い様に、鋭角的にサイドステップを踏みながら、駆け寄って来る。


「・・・あんまりコッチは得意じゃないんだけどなー・・・『アイスアロー』!!」


カルセラも水属性下級魔術『アイスアロー』を三本程放つ。中々の弾速だ。しかし此れは直撃させようとするのではなく、行動を制限させる意図を持って、微妙に散らされて発射されている。彼女の狙い通り、狼はサイドステップを辞め、真っ直ぐ突っ込んで来る。カルセラが、今よ!という風に流し目をして来る。俺の番か。


「『フローズンアロー』」


言わずと知れた、既に十八番となりつつある、水属性中級魔術を発動する。其れを一本一本が長剣の様なサイズの氷の槍を、精製と同時に発射のプロセスを高速で繰り返す。具体的なファイアレートは測った事が無いのだが、弾体の質量と弾速的に、二十世紀中盤程度の機関砲に匹敵する威力があるではないか、とは思っていたりする。射程と発射迄のタイムラグはご愛嬌。仕方がない。努力はしているのではあるが、どうしても、な。


少し拡散させ、弾幕を張る様に発射、流石の灰狼も、足が着かない跳躍中に方向転換をする事は出来ない。瞬く間にその殆どがその身に突き刺さる・・・どころか着弾と同時に弾体がめり込み、衝撃で肉が弾け・・・相当グロテスクな有様に・・・。


「うっわぁ・・・」


「・・・」


そういえば、魔術を生物に命中させたのは初めてかも知れない。・・・此れはえげつないな。オーバーキル気味。使い勝手良いのに。自粛するか。


ズシャァ!ビチャビチャ、と不快極まり無い音を立てながら、灰狼だった毛皮が付いた肉塊が、 転がる。良く吐かないなこいつらは。やはり時代が時代なだけに、慣れているのだろうか。


「・・・これ、食う?」


一応聞く。


「ごめん、食欲失せた」


「いやよこんなの」


案の定、であった。


・・・次からは剣を使おう。


そう決意させる、どうしようもない光景があった。


因みに、他の肉食獣が寄って来るかも知れないので、ツィーアが火属性魔術で焼いた。手伝う?何が起こるか分かったものでは無いので、辞めておく。二人の心臓にも悪いしね。














「・・・ネメシア先生、どうですか?」


一方、アイクを初めとした、拠点設営、川での食料調達班である。ネメシア氏は、なんとその場で釣竿を作り出し、魚釣りを始めたのだ。餌は其処らを這っていた芋虫。見た目とは裏腹に、何気に多芸な教師である。


「・・・これ・・・」


川の石を積んで、急遽作られた生簀には、二匹の川魚の姿。


「おお!!釣れたのですか!今日はご馳走ですね!」


この世界では、魚というのは海岸部、川の沿岸部の人々や、一部の金持ちの愛好家しか食べられない。この世界では、生ものは塩漬けにしたり、干してから運ぶのだが、当たり前の如く、水分が無い、塩辛い、下手したら腐っている等、あまり内陸で食べる魚は美味しいとは言い難い。金持ちの愛好家は、魔術師を雇い、氷漬けにして運ばせるらしい。其の大変さと来たら、尋常では無いが。


そんな魚を、新鮮な儘食べられるのだ。テンションも上がる物である。そして、そもそも大抵の内陸の人は、生きた魚、という物をほぼ見たことが無いのである。アイクも其の例に違わず、興味津々の様子で、生簀の中を泳ぐ魚を眺めている。


「・・・前来た時は、肉ばっかりだったんですよね」


当然、魚釣りの方法を知っている者も少ない。前回のアイクの班には、其の手の技術を持つ者は居なかった。仕方の無い事だが。


「・・・私も・・・魚食べたい・・・ですから・・・」


「・・・」


ネメシア氏の独特の雰囲気に、話好きなアイクと雖も会話が続かない。何方かと言うと拒絶する様な、近寄り難い雰囲気を醸し出している。


「(気不味い・・・すごく・・・気不味い・・・)」


そもそも、アイクとネメシアは此れまで、ほぼ接点が無かった。ネメシアはネメシアで研究室に篭り切りだし、アイクは技術畑の人間には程遠い。こんな機会でも無ければ、顔も知らない様な相手だった。


「(でも・・・綺麗だな・・・)」


艶やかな腰までの黒髪。垂れ目気味の、夜を凝縮した様な黒眼は、穏やかな印象を与えつつも、其の奥には理知的な光を湛えている。あまり外に出ないせいか、肌は白く、弱々しい印象を与える。独特の雰囲気を持つ、お淑やかな風貌の美女だ。その白魚の様な指が釣竿の絡み付くのを見ると、何か変な色気を感じて、アイクはさっと顔を逸らせる。


「(なんでこんなドキドキしてんだ・・・)」


アイクがその未だ知らぬ劣情に悶えている一方、ネメシアといえばそんな事は露知らず、釣りをしながらも、意識は自分の内に向けられていた。


「(科学・・・)」


その瞳はひたすら、日光を照り返し、時折跳ねる水面に向けられている。勿論、魚が掛かったかどうかを確かめる為でもあるが、其れ以上に彼女の内面を、ある疑問が支配していた。


即ち、光とはなんであるか。


光は魔術でも創り出す事が可能だ。だが、その正体や如何に、と考えると、其処で思考が止まってしまう。彼女が馬鹿なのでは無い。彼女が持つ魔術という手段では、実体が無く、手で触れる事も出来ない光という物を検証する方法が無いのだ。


「(だから・・・)」


身の回りの物に置き換え、魔術を使わない方法で考える。この世に支配する、絶対普遍の法則。事象という人が観測する事が出来る其れに書かれた真実。其れを己の知識という辞典と、手というペンを使って翻訳する。


彼女が身の回りで起こっていた、ありとあらゆる現象。普段は当たり前過ぎて、道端の小石の様に見過ごしていた不思議。其れに目を向け始めたのは、ある日、とある少女に諭されてからだ。


エリアス・スチャルトナ。優秀な生徒である。飲み込みも早い。美しい。聞く話では、魔術と武術にも優れる様だ。根を詰めていた私は、ある日、科学なる物の存在を示唆された。世を支える絶対普遍の法則、この世界の理、宇宙の真理。それを追求する学問と聞いて、昂らない学者が居るとしたら、そいつは本当の探求者では無いのだろう。


其の存在は直ぐに認識出来た。一度、周りを見る目を変えてみれば、当たり前の様に過ごしていたあの研究室ですら、謎の宝庫となる。其れを"そういうモノ"と見る事を辞め、初めて見る物の様に、その特性、原理を考えて行く。何故ナイフは切れる?何故重い物と軽い物がある?何故物は投げると落ちる?あの日から身の回りの全ての事象が謎で、課題となった。目から鱗が落ちた様だ。最近、そんな謎を見つけることが楽しい。そしてよく思うのだ。


此れらを自分だけでは解き明かし尽くす事は不可能だ、と。


其れ迄、漠然と人の為の道具を作り続ける、としか考えていなかった彼女の中で、大きな目標が生まれた。


この科学という学問を広め、深く、広く研究し、世に送り出す。


其の為にまず同志が必要だった。この特別課外活動から帰ったら、各地に居る旧友に連絡を取ろう、と考える。最初は戸惑うだろうが、きっと分かってくれる筈だ。


此れが後の世で、稀代の天才物理学者、近代物理学の母として讃えられ、歴史に其の名を刻む事になる少女、ネメシア・リィ・クロチャトフの、偉大で壮絶な生涯の始まりだったとされる。


「(そういえば、陽が、光が当たっているのは、何も水面だけじゃない・・・地面だって・・・この石だって・・・この身体だって当たってる・・・)」


「(ううう・・・黒髪って事は帝国の方の人なのか?うーん・・・)」


川で釣りをしながら、隣で男の子が紅い顔をしてチラチラモジモジしながら、そんな一大研究を創り出していた、とは後の世の一体誰が想像するであろうか。


歴史の真実など、大方そんな物なのである。














其れから一刻後だ。二人の荷物籠が野草と山菜で一杯になった頃、一頭の魔物と遭遇した。あの灰狼とゴブリンを発見してから、ずっと魔物を見ていない。案外数は少ないのだろうか。


「多分、さっきの《シルバーウルフ》を警戒して、みんな隠れてるんでしょ。多分、明日以降はもっと出てくるわよ」


とはツィーアの言である。まあ、あんな凶暴そうなヤツが闊歩しているのに、わざわざアホ面してほっつき歩く様な馬鹿は、魔物にも居ないという事だ。あ、其れだと俺達は馬鹿か。いや、俺達は倒せるからノーカンで。


で、その見つけた魔物というのが、一言で言うと、"飛べそうなデカイ駝鳥"である。長いすらっとした脚、大きく、力強そうな羽、長く細い首と、小さな頭。丸っこい身体など、駝鳥にしか見えない。


「《スウィフトオストリック》じゃん。アレ美味しいんだよね・・・」


小声でカルセラが耳打ちして来る。美味しいのか。食いたいな。


「やるなら逃げられる前に仕留めないと・・・難しいわよ・・・」


聞けば、その《スウィフトオストリック》なる駝鳥モドキは、恐ろしく脚が速いらしい。そして、蹴り技が多彩、更に・・・。


「風魔術、使って来るのよねぇ・・・」


この鳥モドキ、魔術まで使うらしい。ようやるわ。俺ですら苦手なのに。


「エリィ、やれる?」


相手が何れ程の身体能力を持っているかにも依るが。まあ、多分可能だろう。


「やってみる」


腰を屈め、茂みに隠れながら距離を詰めて行く。二人には残って貰った。万一もあるしね。


鳥の視野は広い。ほぼ真後ろ迄見える。しかし、聴覚は其れ程でも無い筈だ。多少茂みが擦れる音が出ても、気付かない筈、姿を隠す事を優先する。


相手は何やら地を突っついている。虫でも食っているのだろうか。未だ気付いていない様だ。


緊張感に心臓が早鐘を打つ。が、行動の妨げになる程では無い。一番近い茂みに潜んだ所で、音を立てぬ様、静かに抜剣。長剣を逆手に持ち、刺突で飛び掛かる態勢に入る。狙うは背骨、若しくは首。神経を切断すれば、仕留められずとも、逃げるも何も無くなる筈。


そして準備が整った所で、木に脚をかけ、一気に跳躍する。其処で相手も気付いた様だ。口の中で小さく舌打ちをする。


鳥モドキは即座に此方を向く。バックステップで逃げようとするが、此方の方が速い。が、背中を狙えない。仕方なく、首に狙いを変更する。首に剣を打ち付けるが、少し刃が入っただけで、それ以上切れなかった。どうやら細い様に見えて、強靭な筋肉が詰まっているらしい。細い様に見えて、案外自分の胴近く程もあった首の皮を引っ掴み反転、騎乗する様に組み付き、再び剣を振るう。


今度は抑えて居る為、あまり力が逃げなかったのだろう。さっきよりは深く入った。だが、少し血が滲むだけで、切断には至らない。・・・あまり刃が立っていなかった。未熟さ故の・・・。


鳥モドキも俺を振り払おうと、走り出しながら暴れる。"仕方ない"ので、脚をその首に回し、絞める。


抱きつく様な体勢だ。が、その実、《スウィフトオストリック》からすればたまったものでは無い。


ミシミシと、首の筋肉と骨が軋む。血流が止まり、頭がぼーっとしてくる。僅かに脚が絡み付く部位の筋肉がひしゃげているが、俺は確実に仕留めようと更に力を込める。こんな力を出したのは初めであった。当然加減が分かる筈も無い。感覚の世界で、非常に長い力というゲージを操作する様な感じだ。面倒なので、一気に、殆ど本気で、脚を閉じようとする筋肉に力を込めた。


其の瞬間、視界が真っ赤になった。客観的且つ具体的に言うと、本気で力を込められた彼女の脚が、グシャバキバキと、鳥モドキの首の筋肉と骨を砕き潰した。その結果、其の圧力で潰れた肉が上下に寄り、上下の部位の皮が耐え切れず破裂。中身をぶち撒ける事となった。即死である。糸が切れた人形の様に力が抜け、其の巨体を地に沈める。


そしてそのナカミを浴びる事となった俺である。頭から血なのか肉なのかよく分からない、柔らか生温いピンク色の物体やら、暖かくヌルヌルした赤い液体を被り・・・極めて・・・気持ち悪い・・・。


「エリィー!どこー!?」


この鳥モドキが走りまくったせいで、置いてけぼりをくった二人が、追いついて来た様だ。茂みの向こうから声が聞こえる。・・・最低限、顔と髪から滴ってるモノを袖で拭う。白い制服が大変な事になってしまっているが、もう、どうでも良い気がして来た。


「あっ!エリ・・・うえっ・・・」


会った瞬間、ツィーアにドン引きされた。


「あっちゃあー・・・」


カルセラも口に手を当て、うわあ、と言わんばかりの顔をしている。


「・・・」


俺といえば、黙々と水属性魔術『フルイド』なる、ただ水を出すだけの術を行使し、頭から水を被る。服は兎に角、染みは消えずとも、血のヌルヌルヌメヌメした感じだけはなんとかしたかった。全身濡れ鼠なり、服が少し重みを帯びたくらいになり、全身を覆っていた、水以外の不快感は消えた。匂いはちょいと残ってはいるが。


「あー・・・仕留めたのね。じゃあ解体しましょうか」


歩く度にぐしゃぐしゃと、血を吸った地面にブーツの脚が僅かに沈む。最悪の気分である。


「あー・・・ねぇ、エリィ!大丈夫だよ!今度は胴体が残ってるから!」


カルセラの慰めているのか、貶めているのか分からないフォローが、妙に虚しく響いた。つらい。


因みに解体だが、長剣でザクザクと腿、胸の肉を削ぎ落として終わった。また、汚れた。あと約五日間に渡って、この格好で過ごさなければならない。皆さんが嫌がる訳が良く分かりました。多分、慣れれば別に問題は無さそうだが。


白い所を見つける事が困難な白制服って、何なんだろうね。色が反転しているよ。赤いラインも糞も無い。赤制服?何その新しいジャンル。要らないです(真顔)。


誤字脱字、日本語おかしーのーみたいな点が御座いましたら、お申し付け下さい。


首か切断出来なかったのは、主人公の体重が足りなすぎて、運動ENが足りなかった為です。関節技等、組み技での剛力は必殺に繋がりますが、打撃斬撃に威力を乗せるのは、有る程度の体重は必要です故。



※投稿直後、おかしくなっている文を修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ