悪意と布石
短い?かもしれませぬ。
時間かかった割りに(ぉ
かつて地球を荒廃させ、汚染し尽くした、とある天才エンジニアと世界の戦争。その末期。無人機との戦いは混迷を極める。多くの名だたる都市群が廃棄され、ゴーストタウンと化す。しかし、其処にはまだ、多数の無人戦闘機械が蠢いていた。
彼等は、"敵"たる人間の消失を知り、勝利を確信する。彼等は勝ったのだ。人間を駆逐するという大義を成したのだ。創造主の意向を達成したのだ。
事実、生き残った人類は勝ったとは言えない。創造主は敗北を認めたが、世界中の廃棄された都市を取り戻すには至らなかった。
主敵足る者の居地に大量の核反応弾頭やら何やら、残った兵器を撃ち込み、宇宙へと逃げたのだ。
創造主は絶望の末自決した。
しかし、残った機械共は生き残った。
彼等の開発に、創造主は全てを注いだ。全てだ。考え得る機能の全て、敵を倒す為の全てを。
彼等の恐ろしい所は、"自ら増え"、"進化する"事だ。
廃棄された人間の航空機、戦車、野砲、銃、車、列車、凡ゆる物を元手に、"仲間"を作る。
掃除機、炊飯器、電磁調理器、凡ゆる生活用品を用いて、"進化"し、自らを"修理"する。
自分のメンテナンスアームが届かない様な小さな部位が壊れると、小さな作業ユニットを作り、修理させる。表面が錆びると、還元作業の為の炉を作り、自ら入る。そうして彼等は生き延びて来たのだ。
配下をガラクタから作り、かつて人間が暮らし、放棄された街を支配する彼等は、まさに一国の主。
何をする訳でも無い。ただ、彼等は生き続けるのだ。これ迄も、これからも・・・。
特別課外活動当日、来たる。
楽しい楽しい野宿遠足だ。いやはや、外で寝泊まり・・・泊まるとは言わないか・・・するのは何年振りだろうか。
前世、まだ十代の頃、家族でキャンプには何度も行った。家族はアウトドアな家庭で、釣り、キャンプ、軽い登山など、粗方経験させて貰った記憶がある。成人してからは、そんな暇は無く、別の楽しみを見つけたので辞めてしまった。今振り返ればもっと遊んでいるべきだったか、とは思うが。
「エリィ・・・そんな大荷物で大丈夫なの?」
心配する様な声を投げ掛けて来たのは、ツィーア・エル・アルタニク。彼女は毛布を初めとした、防寒具関係を背負っている。重量は軽いそうだが、彼女の身体には大き過ぎるサイズの荷物だ。個人的にはそっちの方が心配だが。
「問題無い」
俺の荷物は、防寒具を少し、まあ此れはそんな荷物では無い。ツィーアの言う、多い荷物というのは、俺の腰周りを中心に、ジャラジャラとぶら下がっている、武器類だろう。
右腰に、全長七十五センチ、身幅三センチ半程の広刃剣に、例の、刃渡り二十七センチ、身幅四センチの短剣、スカートの下の両太腿には、刃渡り十センチ弱、身幅四センチという、短くも刃が広い短剣を其々一本ずつ、そして左腰には・・・なんと短銃のホルスターを下げている。
全長四十センチ、口径十三ミリ、鋼製の銃身を木材で保持する形状、撃発方式は火打石を使う、フリント・ロック式だ。点火用の火薬と、発射用装薬を別々に込め、少しキツめのサイズの鉛球を弾として、ラマー(弾込め棒)で押し込む事で発射出来る。威力は其れなり。人間を相手にするなら、十二分な殺傷能力がある。炸薬はパウダーを其の儘流し込むのでは無く、口径に合わせて整形された紙袋の中に詰めてある。まあ、一々量を計るのも面倒だし、装填が楽になるからだ。其れでもラマーで押し込まなければならないのだが。
先日メアリーは、漸くマスケット銃を形にしたのだ。其れでもまだ、長い銃身は作れず、この様な短銃が精一杯だったらしい。なんでも、なかなか真っ直ぐにならないらしく、相当苦労しているらしい。まあ、気長に待つけどね。あと、後装式の銃の存在を仄めかしておいた。後々其れにも取り掛かるだろう。
してこの銃だが、かなり重く、反動と音がデカイ。俺基準に作られてしまったせいか、装薬量をかなり多めに設定出来る、というかされている。気密性を上げるため、柔らかい鉛を潰しながら込める為、かなり弾込めがキツイ。普通の人間なら真面に扱えない代物であるが、まあ、其処はご愛嬌。その点も彼女には指摘しておいた。今後は一般人でも使えるレベルにしてくれるそうだ。当たり前だが。試射の時は、マズルフラッシュと爆音で、耳目が壊れるかと思った。室内でやってしまったのも大きい。事実、立ち会ったメアリーは、離れた所に居たにも関わらず、三半規管をやられてぶっ倒れてしまった。俺とて少しの間、耳鳴りがしていた。其処で気付いたのは、この身体はそんな方向にも強いという事だ。思わぬ収穫である。
で、此れを持たされた理由は単純で、要は、コンバットプルーフ、実戦運用のデータが欲しいのだ。今回は魔物とも遭遇するかも知れないし、丁度良いと踏んだのだろう。
ホルスターは革製。此れは流石に殆ど口を出した。放っておいても何れ出来る物だし、俺が持ち歩く物だからだ。
で、この銃だが、短銃とは言ったものの、全長が四十センチもある。結構、下げていると邪魔くさい。まあ、別に気にしなきゃ良いのだが。
ツィーアには其れが大きく見えたのと、腰周りに銃の弾丸の入ったポーチや、火薬、装薬を入れる缶などをぐるりと身につけている為、荷物が多そうに見えたのだろう。実際結構重いが。厚い革製のベルトが撓んでいる。まあ、この身体からすればそんな気になる程の物では無い。
「・・・そう?ならいいけど・・・」
未だ訝し気な態度の彼女。其れに対照的なのは、カリナ・ヴァン・マリョートカだ。
「流石はエリアス様ですわ!此れなら道中も安泰ですわね!」
腰に全長八十センチ程の長剣を差し、背に色々と荷物を重そうに背負っている男の子、アイク・ベル・イオリアの腕にへばり付きながら、ニヤニヤしながら、そんな事を言う。謎の全幅の信頼。此れは何かあったらお前の責任だぞ?という意味で受け取っておこう。このアマそんな事ぐらい考えて居そうだ。あと、アイクの体力が出発前から削られている。辞めて差し上げろ。
「暑苦しいわよカリナ」
「あら?アイク様は何も言っておりませんことよ?つまりは問題無いという事では?」
其れに気付いたツィーアが注意するも、どこ吹く風だ。ツィーアも小さく舌打ちをして、知らないわよ、と呟いていた。ツィーアは強か。覚えた。そんな何時も通りの四人、其処で戸惑っている人が一人。
「あの・・・此れで・・・良いの・・・?」
「いいんですよ先生。いつもこんな物ですから」
ツィーアが間髪入れず、何処か呆れた調子で返す。言わずもがな、引率役の教師、ネメシア・リィ・クロチャトフ氏である。口足らずな彼女にまとめ役をしろというのは酷である。其れは俺もツィーアも分かっていた。
「・・・そう、ですか」
ネメシア氏も其れなりの大荷物。彼女は一人で必要な物を持たなければならない。線が細い、幸薄に感じるまでに儚い印象の彼女は、果たしてこのイベントを乗り切れるのだろうか?というか、今気づいたのだが、この班女ばっかだな。男はアイク一人、ハーレムかな?いや、使いっ走りか。女の中に放り込まれた男の哀れな事だ。
ところで、今俺達が居るのは、校舎の表、門の近くの広場の様な所だ。其処に、今回出発する生徒や教師が集められている。此れまで顔を合わせる事も無かった生徒達、庶民、貴族達同士で固まってはいるものの、平民の生徒を見るのは初めてだ。いや、俺は一応平民だったか。最近はすっかり忘れていたな。多くの生徒がごった返すその様子は圧巻だ。何処も彼処も何やら賑やかに歓談をしているだけの様に見えるのだが・・・。
「エーリーアースーちゃーん♪」
突如横合いから空色の頭が突っ込んで来た。受け止める義務も無い・・・と言いたい所だが、地面は石畳、盛大に石畳にハグさせるのは酷であると判断し、受け止める事にする。同じ位の体格の人間なので、腰を落として吹き飛ばされない様に、待ち構える。胸元に飛び込んで来た少女、カルセラ・コウ・エーレン・ベルキア。ただ受け止めるのも癪なので、少し強めに抱き"シメ"てやる。
「ぐええええ!!??ギブギブ!!!ちょっと待ってええええ!!!!」
こんな巫山戯た態度の少女だが、この姿は仮の姿。本性は・・・。
「・・・エリアス、兄が動くかも知れないわ」
恐ろしく大人びた、艶のある声で耳打ちして来る。此れが本当のカルセラ。実の家族にも見せた事が無い、彼女の正体。
「兄・・・ディスキアはきっと力で貴女を排除しようとする。手段はまだ分からないけど・・・用心しておいて」
チラリ、と彼女の兄、ディスキア・コウ・エーレン・ベルキアを盗み見る。
妹である、彼女とよく似た容姿だ。空色の髪、蒼色の瞳、鷹を思わせる鋭い容貌。どうやら向こうも此方を見ていたらしい。目が合った。何時迄も合わせている訳にもいかない故、自然に視線を外す。物凄い睨んでいた。カルセラが絡み付いて居るのを見て、更に表情を険しくしたのが、どうも彼女と彼は意見が食い違っているのか、敵対しているのか。少なくとも、俺に対する方針が異なる事は明確だ。すると目の前で起こった事に驚き、今の今迄停止していたらしい班員が、漸く再起動した様だ。
「カルセラ・コウ・エーレン・ベルキア・・・!?なんで・・・!?」
「いつの間にそんなや・・・方と・・・!?」
「・・・(ポカーン)」
上から、アイク、ツィーア、カリナの順である。ツィーアが何やら失礼な事を言いかけた様だが、本人が何も気付いて、いや、気にしていない様なので流しておく。
「・・・カルセラ・・・さん・・・自分の班は・・・どうしたの・・・ですか?」
教師らしく注意する、ネメシア氏。が、其れもどこ吹く風のカルセラである。
「うん、本当は兄様の班だったんだけどねぇー・・・昨日喧嘩しちゃって追い出されちった☆」
てへっ♪、と舌を出して笑う彼女。よくもまあ、そんな行動出来るな。演技でも、恥ずかしくて出来た物じゃない。
「だからぁ?この班に入れてくんない?」
抜け抜けとそんな事を言い出す。神経太いなぁ・・・。
「えぇ・・・えっと・・・エリィ!」
おおっと、何故かお呼びが掛かった。俺に何をしろと?
「・・・班員は"最低"四人・・・ですのから・・・可能といえば・・・可能ですよ?」
ネメシア氏が補足してくれる。成る程、ルールとしては可能なのか。
「・・・なら良いんじゃないか」
と、極当たり前の事を言っておく。此れなら不興を買うことも無いだろう。
「「「・・・・」」」
と、思ったら他三人が御通夜ムードだ。なんで?
「やった♪宜しくね!エ・リ・ィ!」
突如渾名で呼んで来た。いや、別に嫌な訳では無いのだが。ツィーアが・・・。
「・・・なんですって?」
悍ましい、そう形容するに相応しい、地の底より這い出た様な声。ツィーア、阿修羅の如き形相。流石のカルセラもドン引きである。
「えっと・・・良いよね?"エリィ"?」
こら空気読め。益々ツィーアの形相が見られた物では無くなっていってるから。
「・・・別に構わん」
多分、カルセラが助かる道は此れしか無さそうなので、許可する。・・・何故か仕方の無い理由でコイツには譲歩させられているな。策略か?だとしたらコイツの評価を改めなければならないな。
「・・・エリィが良いならいいわよ・・・」
全然良さそうでは無いのだが。むすっとしている。そんな膨れっ面をしていると・・・。
「ツィア」
渾名を呼ぶと、むっと頬を膨らました儘、しかし嬉しそうに振り向く。犬みたいだな。いや、其れは流石に失礼か。まあ、そうしてる奴には、どうしてもやりたくなる事が・・・。
「ぶっ!?」
膨らんでいる頬を、指で突っついて潰す。案の定、噴き出した。
「いきなり何すんのよーッ!!!」
がーっと、顔を真っ赤にし、身体を目一杯使って抗議の意を示す彼女。可愛い。愛でたい。腰を寄せ、少し俺よりも背が高いツィーアの顔を、下から見上げる形で、顔を近付ける。
「親愛のスキンシップだ」
適当な事を言って誤魔化す。ツィーアも、「そ、そう・・・」と誤魔化されてくれた様だ。幸い幸い。
「・・・天然のたらしね・・・恐ろしい・・・」
何やらカルセラが戦慄している様子。なんで?
と、まあ俺達も歓談を弾ませていると、時間になった様だ。馬車が到着し、其々乗り込む。目的地迄は、ゆっくりとした馬車旅だ。なんだかんだ言ってはしゃぐ班員を尻目に、目を閉じる。まあ、寝る訳では無いが、無駄に体力を消費する事も無い。要するに、テンションの上がった子供の相手など御免なのである。
カルセラ・コウ・エーレン・ベルキア。彼女は昨晩、兄、ディスキアとは決別した。
此れ迄カルセラは、兄に擦り寄り、最後の最後で権力を掠め取ろうという様な方針を取っていた。裏では舌を出しながら、四歳年上の彼に胡麻を擦っていたのだった。彼とてそんな事は百も承知だったし、彼女がその座を奪い取ろうとする迄に施される、彼女の支援だけを受け、最後には切り捨てる。そのタイミングだけを考えて置けば良かった。
しかし、彼女は、彼は見付けた。見付けてしまった。
お互いのパワーバランスを一瞬で覆す。天秤の片方を紐で縛るが如く、修正困難、いや、ほぼ不可能と言っても過言では無い差を付ける戦力。強力な魔術師というのは、一人でも其れ程の価値がある。
三メートル級ミスリルゴーレムを、魔力量で飽和させて撃破し、更に試合後に散々に鍛錬を行える余裕がある程の魔力量を保有する。魔力を用いた肉体強化術(この兄弟はその常識外の身体能力をそう解釈している)の制御に優れる。まだ何処の勢力にも属して居ない。して尚且つ、見目麗しく、象徴にも成り得る。そんな美味しい物件を、誰が見逃すであろうか。彼は其れを取り込むのでは無く、将来の脅威と成り得る其れを始末、内し歴史の表舞台に出て来れぬ様、社会的に抹殺するつもりであった。
そして、其れを妹、カルセラが籠絡したという知らせを聞いた時の兄、ディスキアの心中は如何程の物であっただろうか。
「(抜け駆けされた!)」
幾ら智謀で妹に劣る武人と雖も、彼とて馬鹿では無い。自分の権力足り得る物を囲い込む事の重要性は、此れでもかという程に分かっているし、妹が権力闘争の政敵であるという事も、百も承知であった。其れに、彼女が取り込んだとあっては、適当な理由で社会的に貶める事も叶わない。彼女が強力な身元保証人になってしまうからだ。
当然、彼は何食わぬ顔で、何時も通り近付いて来た妹に、其の是非を追求する。最初はのらりくらりと躱していたカルセラだが、遂に化けの皮が剥がれる。
「・・・付き合ってらんない」
そう言って踵を返す。余りの妹の豹変振りに呆然としたものの、慌てて後を追う。普段の雰囲気の欠片も無い、冷たい拒絶の意思を放つ其の背中。思わず言葉を飲み込みかけるが、己の其れを怯えと称し、ねじ伏せる。
「カルセラ!」
其の声に振り返り、彼を一瞥する彼女。其処らの小石を見る様な、何の感情も見られない其の瞳。そんな美しい、整えられた人形の様な顔で、彼女は言うのだ。
「あなたは私の"敵"」
其の流麗な眉、唇が醜悪に歪む。兄を侮蔑する。その目的の為に。
「皇帝となるのは、この私」
其れでも尚、其の容貌は人を魅了する、魔性の笑み。
「あなたではない」
何時かは覚悟していた決別。演じていたとはいえ、彼はその関係に心地良さを感じて居たのだろうか。悔し気に唇を噛む。しかし、その内では闘争心、そしてこの状況を招いた元凶への怒りを沸き立たせる。
「地に這いつくばって泥水を啜ってるのを、その内見に行ってあげる」
そうは行かんぞ、と内心で言い返す。その要が無くなったら、その顔がどんな苦悶に歪むか、楽しみにしてやる。
気付けばカルセラの姿は消えていた。しとしとと小雨が降り始め、彼の水色の髪を濡らす。
「エリアス・・・スチャルトナ・・・人の妹に手を出した罪は重いぞ・・・」
標的の少女、其の美貌をどう歪めてやろうか、力に酔った、悪辣な笑みを浮かべる。
陰鬱な曇り空が、何処迄も続いて居た。
「武闘会?」
「そそ、ここから北に六百キロくらい行った所にエルクって街があってね?」
アリエテ王国南部、地方都市の酒場、其処に夜を身に纏った様な人物が、店の看板娘と言葉を交わしていた。目深に漆黒のフードを被り、傍らには鈍く輝く手甲が置かれ、病的な迄に白い手で杯を傾ける。
「なんでも国内外からもすご腕の剣奴とか、騎士とかが出場するらしいよ?すごいよねぇ・・・見に行ってみたいなぁ・・・」
見世物の決闘や死闘は、娯楽が少ない庶民の数少ない楽しみだ。普段抑圧され、鬱憤を溜め込んだ庶民は、殺し合い等の過激な見世物を好む。この手の催しは定期的に開催され、大きな人気を持つ。そしてどうやら、近い内に、国内最大級の其れが開催される様なのだ。
「面白そうだな」
「おっ?お姉さん見に行くのかい?」
元気な看板娘がカウンターから身を乗り出す。黒い女は席を立ちながらカウンターに代金の銅貨を置き、数枚の賤貨をチップとして娘に握らせる。
「いや・・・」
フードの下より覗く、紅い唇が弧を描く。
「一つ闘ってこようと思ってな」
手甲を履め、コートを翻して酒場を去る。夜の街に溶け込む様に去った女を、あまりの雰囲気に、看板娘の少女は接客も忘れ、ただ無言で見送る事しか出来なかった。
誤字脱字、日本語、設定こわれてるぞーっという様な点が御座いましたらお申し付け下さい。




