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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第一章
14/94

付き従う者

ここから少しずつ展開が早くなる(と思います)

「お前が負けたらこの場でひん剥いてやろう」


不敵にも、そう言い放ったのは、白制服に濃紺の髪、世にも珍しい紅い眼を持つ少女。不快な事に、先日アイク様を誘惑した女だ。


非常に、非常に認める事も癪な事だが、彼女は文句無しの、いや、絶世の美少女であろう。其れだけの容姿に恵まれながら、仕草には乙女らしさの欠片も無い、見ているだけで頭に来る様な女。


其れに、先程の下品な言動。今すぐ口に綿花の綿を目一杯ねじ込んで黙らせてやりたくなる。


しかも、その時の表情。


まるで肉食獣が血も滴る肉を前にしたかの様な、捕食者が獲物を見るような、わたくしをただの餌としか思っていない様な、舐め腐った笑み。


不覚ながらも、一瞬ゾクッとしてしまった。が、その一時の恐怖心よりも、自分をあまつさえ侮辱した怒りが勝った。


「其れはこっちのセリフですのーッ!」


魔術に依る指示をゴーレムに出す。ゴーレムが敵たる憎っくき女を叩き潰さんと動き出す。


敵は火系統中級遠距離攻撃魔術『フレイムボール』を放つ。無詠唱、無挙動でアレを撃てるとは、あの程度の歳にしては大した物だが、その程度の魔術ではこのゴーレム、「ジョン三号(仮)」にダメージを与える事など出来はしない。


「(そんな物効きませんわ!)」


ミスリルは魔力を流す性質がある。鉄や銅にも同じ性質はあるのだが、ミスリルの流す能力、でんどーりつ?というのだったか?其れは其の他の物よりも圧倒的に高い。そして肝はそのミスリルの下、鋼製の身体に刻まれた魔力吸収の術式。吸収と言っても、其の儘吸い込んで消し去る事は出来ない。あくまでミスリルの伝導率の高さを生かして、受けた魔術を其の儘吸収、吸収された魔術を、ミスリル線を通して体内に装備された蓄魔器・・・魔力を溜める事が出来る魔道具の一種・・・に一時的に保存、好きな時に其の儘放出する事が出来るという、優れ物であった。画期的な対魔術師用ゴーレムで、即座に軍事用に転用されてもおかしくないレベルの代物であった。


「(少し容量を食いますわね・・・かなり威力が高いみたいですわ・・・)」


自分の中での敵の評価を数段上げる。成る程、確かに自分よりも遥かに強力な魔術を放つ相手の様だ。だが、其れも幾ら撃てるか?中級の術に無理矢理魔力を込めて放てば、普通に上級技を放つよりも消耗する事がある。其れは魔術師の常識。其々の術には、其々込めるべき魔力量という物が決まっているのだ。先程相手が撃った『フレイムボール』は明らかに其の上限を無視している。魔力量だけで言えば、かつてツィーア・エル・アルタニクが土壇場で放った火系統上級遠距離爆撃魔術『ブレイズバスター』にも匹敵した。が、彼女は『ブレイズバスター』を使えないのだろうか。無理矢理『フレイムボール』に魔力を込めて撃った様に見えた。大きな相手を爆破しようと考えた結果の苦肉の策という事か?


そう考えている間に、いつの間にか敵はゴーレムから大きく離れてしまっていた。あんな距離をどうやって一瞬で移動したのだろうか。


と、敵は『フレイムボール』を物凄い早さで、一瞬で何十発も放って来た!アレが一つ、二つ・・・あ、当たる。


が、今度も魔術吸収機構は無事作動し、全て、蓄魔器に収める事が出来た。この一瞬でゴーレムの体内一杯に搭載している蓄魔器の三分の一が使用状態に。なんとか耐えたが・・・かなり重い攻撃だ。


間髪入れず、水系統中級遠距離狙撃魔術『フローズンアロー』を複数、此れも凄まじい勢いで連続発射される。明らかに魔力消費を度外視した攻撃だ。


「(まだ魔力量に余裕があるのですの!?)」


『フローズンアロー』は通常、生身の生物相手にするには恐ろしい威力を持つ術だ。長さ八十センチ、自分の太腿程の太さもある、鋭い氷の矢を高速で撃ち出す。だが、所詮氷の矢である。金属でも有数の硬度と密度を持つミスリルを貫く事など出来はしない。が、何と無く、根拠も無いが、嫌な予感がした。依って吸収する事にする。


「(やっぱり・・・!)」


蓄魔器はほぼ一杯になっていた。先程の『フレイムボール』と同じ数であるにも関わらず、込められていた魔力量はほぼ二倍。此れでもし真面に受けていたら、貫通はしないでも、装甲表面を大きく削られていたかも知れない。


「(でもこれだけ魔力を使ったら・・・)」


このゴーレムの身体中に仕込まれた蓄魔器の容量は、其れこそ尋常では無い。この型の蓄魔器は大きさに比して容量は少ないと言われているが、其れでも、マリョートカ家が輩出し、現在、宮廷魔術師団・・・近衛魔術兵団には劣るが、其れでも強力な魔術師が集まった正規軍・・・の師団長にまで上り詰めた男。その男をして、「相当苦戦するだろう」という太鼓判を貰った代物だ。当然其処らの上級魔術なら何発も食らっても難なく吸収可能。即座に放出すれば、延々と魔術を無効化する事が可能なのだ。


「(もう放出しないとマズイですわね)」


本来なら相手の魔力が切れかけた所で放出する予定であったが、この際は仕方が無い。其れから、口だけは強気になっておく。わざとらしい高笑いだが、聞く人が聞けば、何処か乾いた響きを聞き取るだろう。無論、相手の少女が勘付く筈も無い。


「お返しですわ!」


今迄溜め込んでいた魔術を、一息に撃ち返す。相手もまさか自分の撃った術が其の儘返って来るとは思わなかったのか、小さく舌打ちをした様に見えた。


どうやら彼女の撃った魔術は、予想以上に凶悪な威力を持っていたらしい。着弾の轟音と爆炎で、完全に相手の姿が掻き消えた。思わず風圧から顔を庇う。


「(殺った!?いや、これ死体も残らなくない?)」


対魔障壁は基本、自らの前面からの攻撃しか弾けない。今の攻撃は完全な範囲攻撃。其れにその込められた魔力的にも、対魔障壁ごときで防御出来る様な威力では無い。


相手が死んでしまった時、学校に於ける決闘、つまりは模擬戦に於いては自己責任となる。まあ、此れはどの決闘に於いても同様であるが。しかし、死体が残らないのは少し困る。勝利を宣言する演出的な問題で。


まあ、其れは表に出さず、あくまで高圧的に振る舞うのが、カリナ・ヴァン・マリョートカであるが。


「木っ端微塵ですの?口程にも有りませんでしたわね」


実際アレだけの魔術を浴びて生きている方がどうかしている。相手だってそんな物を向けて来たのだから、自業自得だ。気分が良い。面白くない奴をこの世から消せたのだから。


「誰が木っ端微塵だって?」


その時、砂埃の中から何事も無かったかの様な美声が聞こえた時は、胸にある心の臓が止まるかと思った。


「(まさか耐えた!?そんな!アレを!?)」


このゴーレムの蓄魔器一杯の攻撃魔術の束を?どうやって?地面にボッコリ穴空いてるけど?確かこの床って、城壁とかにも使われてる滅茶苦茶硬い石だよね?そんな石も抉る様な攻撃の雨を受けて、傷どころか汚れ一つ無し?なんで?


目の前で起きた事の、あまりの非常識さに、頭が完全に回らなくなってしまった。自分でも何を言っているか分からない。


が、相手の少女が攻撃態勢に入った事で、一気に現実に引き戻される。


「(ぶ、『ブレイズバスター』・・・)」


上級遠距離爆撃魔術『ブレイズバスター』。其れが十発以上。相手はニヤリと笑うと、一発ずつ、ゴーレムに其れを放ってきた。


「(耐えられる・・・!?兎に角やるしかないですわ!!)」


一発目が着弾、吸収せんと術式が作動し始める。


「(重い・・・ッ!)」


蓄魔器の容量がみるみる埋まって行く。が、一発すら吸収し切る事が出来ない。こうしている内にも、次弾が次々に装甲表面に吸い込まれて行く。一発、また一発と着弾すると、蓄魔器の容量消費が跳ね上がる。


「耐えて・・・ッ!」


願いも虚しく蓄魔器の空き容量は埋まってしまった。其れでも命令を忠実に守り、魔術吸収のプロセスを続ける魔術回路群。


遂には蓄魔器に溜められた魔力が逆流。ミスリル表面に流れ出し始めた。


流石にこのゴーレムも、吸収と放出を同時に行う事は出来ない。魔力は溜まる一方だ。


すると、ミスリル装甲表面が、赤く発光し始めた。明らかに魔力が飽和、もう魔力が溢れ出さんと暴れているのが分かった。が、未だ吸収の術式は作動し続けている。魔力を放出する事は許されず、更に圧縮、充填されて行く。


「(マズイ!)」


ある用語が頭を過った。かつて習った、余程の事が無ければ起こり得ないとされる現象。


魔力爆発。


極めて危険な現象だ。更に、現状このゴーレムに溜められている膨大な魔力。其れが合わさったら一体どうなってしまうか想像も付かない。


「(取り敢えず離れないと・・・!!)」


この際体裁など考えて居られない。背を向けて走り出す。が、石畳の隙間、普段であれば引っ掛かるなど、あり得ない所。其処に足を取られた。


「キャッ!?」


殆ど距離を取れていない。此の儘では巻き込まれる!


「(吸収停止!すぐに全ての魔力を放出!)」


吸収作業を停止したゴーレムに迫る『ブレイズバスター』の火炎弾。同時にゴーレムの体表より、其れ迄吸収していたブレイズバスターの魔力が迸る。


火炎弾がミスリル装甲に、火炎弾が火炎弾に激突、炸裂した。


其の瞬間、音が消える。


閃光と先程打ち返しをした時とは比べ物にならない程の爆風。


其れでも自分のゴーレムがどうなったか見届けようと、頭を上げ、首を捻る。


が、その瞬間背筋に走る不快な悪寒。本能に従って頭を下げる。


頭の直ぐ上、厚さが自分の胴程もある装甲の破片が、飛び去って行った。


「ひぃッ!!?」


全身の筋が縮む感覚、嫌な汗がドッと出た。


・・・もしあと二十、いや十センチ頭を上げていたら・・・。


同時に湧き上がる安堵感。爆発も収まった様だ。あの女?どうせまた無傷でしょ?


そう考えると、安心感からか、全身が一気に弛緩する感覚がある。意識が遠い。少し股に暖かい感触があるが、頭が回らない。


終わった・・・其れだけ思って、カリナは意識を手放した。













「ふぅ〜、久々に思う存分やったわ〜」


今、俺は寮の食堂にて、レモン(?)の砂糖漬け・・・仕様をオーダーすると此処のシェフは大抵の物は叶えてくれる・・・をもしゃもしゃと摘みながら、食後の余韻を楽しんでいた。


「そうか」


レモンの砂糖漬けは疲労回復の効果があるというのは、良く知られているが、俺は其れ以前にこの味が好きだったりする。まあ、実際疲れているのだが。主に精神的に。砂糖はこの世界では高級品らしいな。食えるならどうでも良いが。


魔術の鍛錬だが、ツィーアが馬鹿みたいに的をぶっ壊しまくるせいで、思った以上に時間を取られてしまった。ツィーアはストレスをぶちまける事が出来たせいか、矢鱈と機嫌が良い。鼻歌でも歌い出しそうだ。テーブルマナーに反するからしないだろうが。


さて、鍛錬、研究の結果だが、結局『フローズンアロー』を一定目標に誘導する事迄は敵わなかった。軌跡を予め考えて、其れに沿わせて飛ばす事は出来る様になったが。弾速は亜音速で安定。こんな巨大な弾に音速超えられても、二次被害が肥大化するだけ。そんな大量破壊魔術を俺は求めていないのである。


「アレって本当に氷なの?」


俺の魔術に依って生成された氷は、何故か阿呆みたいに硬い。岩より硬い。普通に火に掛けると溶けるが。意味が分からない。


「アレは『フローズンアロー』だ」


水魔術で出してるんだから、氷なんじゃね?という意味で適当な事を言う。いや、俺も良く分からんし。氷ってなんだっけ?ツィーアも、ふーん、とイマイチピンと来ない風である。


「まあ、あたしは水魔術ニガテなんだけどねー」


彼女が使えるのは、火、風、そして光系統の術、らしい。なんでも火魔術は先天的に得意であったらしく、かなり幼い頃、大して習わずとも行使する事が出来たという。其れって天才という奴ではないか?


「まあ、火魔術のお陰で助かった事もあるし」


火魔術の力を行使しなければならない機会があったらしい。そんなもの無いに越した事は無いのだけれど。


「今は光魔術を習ってるのよ」


なんで?と聞くと、比較的得意だから、としか返って来ない。まあ、それ以外の理屈などあって無い様な物だが。


と、その時、ツィーアの後ろから近づく人影。いつしか見たな。栗毛の猫っぽい人物。いや、猫人か。使用人のメイド服を着ている。


「お嬢様」


ツィーアに話し掛ける猫の獣人。名前・・・数日前に聞いた気がする・・・み・・・み・・・。


「ミムル!もう大丈夫なの?」


そうだミムルだ。頭の片隅にはあったのだ。忘れてはいない。忘れていないったら忘れていない。


「はい、お陰様で完治いたしました」


そういや、ツィーアに最初に会った時連れていたな。倒れていたが。話の端々から読み取るに、この学校の医務室にお世話になっていたらしい。専属使用人なのか?


「えー・・・其方の方は・・・?」


彼女は小さな声でツィーアに問う。ああ、彼女とは初対面になるのか。あの時は意識が無かったらしいな。相手の立場が高い場合、使用人が直接聞くのはマナー違反であるし、現在・・・特徴的な獣耳や、尻尾は隠れているものの、彼女は獣人である。この国では、獣人を毛嫌いする人間は多く、其れらとは口も効きたく無いと思う人も多いだろう。


「彼女?この前話した、あたしたちを助けてくれた人よ」


ツィーアが振ってくれるので、自己紹介しておこう。


「エリアス・スチャルトナだ。そんなに畏まらなくても良い。それに、俺は獣人に対しても何も思う事は無い。気軽に接してくれ」


この辺りはしっかり言っておいて良いだろう。獣人は物珍しいが、別段害のある存在だとは思えない。彼等が特有の病原体を持っている、だとかがあるならば流石に気を付けるが。この世界での病気というのは恐ろしいのだ。光魔術の上級治癒魔術が使えるならば、その限りでは無いのだが。


「私はミムルと言います。奴隷ですので、姓はございません」


慇懃にお辞儀をする。奴隷という言葉からイメージ出来る仕草では無いな。まあ、この国の獣人は殆どが奴隷身分なので、中には其の様な者も居るのだろうが。


「ああ」


素っ気なく返事しながらも、内心はその身体に興味津々である。耳とか耳とか、その縦割れの瞳孔とか、尻尾の付け根とか。


まあ、其れはまたの機会にして。


「エリィは専属の使用人付けないの?」


校長が一人付けてくれたらしい使用人ちゃんは、若いがなんだかんだ有能だった。ただ、話し掛けると口から出て来るのは支離滅裂その物の様な言葉だったが。ごめんなさいばっかり言うし。


「一人付けてもらっているが・・・」


その旨を言うと、ツィーアは、うーん、と首を傾げた。


「やっぱり一人は自分の従者を雇った方がいいわよ?」


そうかぁ?従者と言ってもピンと来ない。家も広いが、使用人は居ない不思議な家だったし。そもそも雇うといって、給料とかはどうなるのだろうか。


「給金は・・・あたしは四万オルドくらい払ってるけど・・・住み込みの使用人の相場は大体月二万から三万くらいじゃないかしら」


銀貨にして二、三枚程か。払えない訳では無いな。


「ここの寮の使用人は月三万とちょっとくらい貰ってるらしいわよ。まあ、ご飯やら宿やら、使用人服の補修洗濯やらで殆ど吹っ飛ぶらしいけど」


使用人の服・・・此れも中々良い素材の服だからなぁ・・・肌触りも素晴らしい。


「ま、気が向いたら考えてみるといいわよ」


使用人使用人。面白そうな人材が居たら其処に収めようか。面白そうな人材かぁ・・・ちょくちょく街に出て物色しようかなぁ・・・。


「あ、其れからさ、特別課外活動の事聞いてる?」


特別課外活動?初耳だな。


「今度・・・一ヶ月後くらいかな?みんなで街を出て山で狩りをしたりして食べ物採ってさ、自分たちで調理したりして野宿する授業があるんだけど・・・エリィは出る?」


要はサバイバルなキャンプか。面白そうだな。後で校長に問い合わせてみよう。


「そんな物があるならば行きたいな」


そう言うとツィーアは更に笑顔になる。何か腹案がありそうだな。


「でさ、そこでは班を作らないといけないんだけど・・・あたしの班に来ない?」


上目遣い、こんな笑顔でそんな事言われて断れる奴が居るのだろうか。コレ素でやってる?だとしたらヤバイな。


「その時は是非ご一緒させて貰おうかな」


やった!と小さくガッツポーズするツィーア。なんでこいつはこんな愛嬌あるんだ。アイクの前では素っ気ないのに。アイクに同じ対応してやれば喜ぶぞ?見るからに気が有りそうだし。


「これであと一人ね!」


班は四人なのか?いや、俺の前に誰か居る可能性もあるのか。


「ん?他の人?アイクが二つ返事で了承したわよ?其れから・・・」


どうやらアイクは既に釣られてしまった様であった。男とは悲しきかな。そしてなんと驚くべき事に、カリナ嬢が名乗りを上げていた。あのアリーナでの決闘の後、目を覚ました彼女は、アイクにべったりくっ付いていたらしい。其処でアイクを誘った所、「わたくしも(以下略」という事になったらしい。当たり前だよなぁ?


「あと一人・・・どうしようかしら・・・」


チラッチラッと此方を見るのは辞めて貰いたい。あまり知り合いは居ないんだ。いや・・・あの娘を・・・いやアレは生徒じゃないぞ。


「あと一人は随伴の教師が望ましい、って書いてあるのよねぇ・・・」


あたしあんまり先生達に好かれてないのよね、とは彼女の言。まあ、先生からすれば、こんな賢い娘は面白くないだろう。ん?教師?というか条件がピッタリな人物が居るのだが、ツィーアは其れを知っているのか?いや、知っているから振って来たのだろう。全く、こういう所は可愛気が無いのだから。


「一人当たってみるよ」


そう言うと満足そうに頷く。全く、この娘は将来どんな人物になってしまうのだろうか。


其処で俺達は席を立ち、部屋に戻った。部屋に付いている、例のビクビク使用人を見やると、案の定ビクッと背筋が伸びた。ドジだしなぁ・・・まあ、其処は・・・その内、な。












見渡す限りの荒野。


草も疎らな大地と、その中に点在する岩塊。乾いた大地はひび割れ、風と共に砂が舞う。


枯れ朽ちた木々が横切る道無き道を歩く、"黒"が一つ。


背には長大な黒布で覆われた、棒状の何か。マントから覗く手は、鈍く輝く金属を貼り合わせた手甲に覆われている。乾きひび割れた大地を踏み締める脚も、同じく鈍く輝く脚甲に覆われており、歩く度に、金属が擦り合わされる音が響いていた。


フードより覗く眼は、月を想わせる金。その前で揺れる漆黒の髪に遮られるその様は朧月の様。垣間見える肌は、白魚の様に白い。


その時、行く先に横たわる枯れ木、岩塊の影から、表れる人影。手に手に錆びた剣やら手斧やらを持ち、ぼろ切れと革のベストに身を包む男たち。野盗だ。


己の行く手を阻む野盗共を睥睨するは、漆黒の影。


野盗共の中から、一人の男が歩み出る。首領であろうか、周囲よりは真面な剣と、革製の防具を身につけている。


男が、荷物を全て置いていけば命は助けよう、という口上を述べる。まあ、馬鹿みたいに相手が武装解除したところで、どうするかは彼等の自由なのだが。女なら犯すし、男なら殺す。実際考えている事はそんな物だ。


黒い影がフードを払うと、男達からは歓声と下卑びた嗤い声があがった。


光を吸い込んでいるかの様な、漆黒の髪と、其れに対照的な、病的な迄に、白い肌。頭の上には、中央のみが浅紅色の、ピンと立った獣の耳。黄金に輝く眼は、鋭い、凍てつく様な視線を放っている。誰もが認める、獣人の、妙齢の美女であった。


久々の上玉を引いた、と沸き立つ野盗たち。勿論、自分達が触れるのは、首領が使った後であろうが、其れでもなお、期待は高まる。


首領もなお内心小躍りする。此れだけの上玉だ。逃がす選択肢は無い。回し終わっても、娼館に売り飛ばせば、良い金になるだろう。そして、自らの獣欲を満たさんと、黒髪の美女に手を伸ばした。


が、今回ばかりは相手が悪かった。


賊の誰もが、何が起きたか理解する事が出来ない。


ただ、彼等の目に映っているのは、彼女が、其の身の丈の倍もありそうな巨大な斧槍を振り切り、我らの首領が首から血を吹いて、地に膝を付く姿。


更にその女は、其の儘地に伏すかと思われた首領の頭を掴み、信じられない事に、片手で持ち上げ・・・首に噛り付いた。


女の喉の動きから、首から血を啜り、嚥下しているのが分かる。


あまりの突然の事に、呆然自失としていた賊共は、投げかけられた言葉で、漸く我に変える。


「丁度喉が渇いていた。礼を言おうか」


背筋が凍る様な冷たい響きのハスキーヴォイス。首領の亡骸を放った女は、壮絶な血化粧をし、口を三日月型に歪める。首領を失った事もあり、その光景は彼等の心を完全に打ち砕いた。


「ウワアアアァァァッッ!!!」


「化け物だああぁぁぁッ!!!」


先程迄の穢れた欲望も何処へやら、賊としての統率も何も無く、武器を捨てて皆一目散に逃げ出す。結局は皆、自分の命が一番惜しいのである。


が、彼女は舌で唇を湿らせながら、尚も不敵に嗤う。


「八人・・・今度は何分で狩れるかな?」


夜叉はそう呟いて駆け出す。今宵の獲物は人八つ。狩るのは人が赤子を締めるよりも容易い。


八つ目の断末魔が荒野に響いたのは、其れから僅か二分後の事であった。



当初から考えていたキャラクターの中で、ヤバイ奴筆頭みたいなヒトをやっと出せました。


不備、ご意見などが御座いましたらお申し付け下さい。



※誤字修正6/6

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