表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第一章
12/94

無邪気な破壊者

今回は短いです。


日常回にあたりますかね?

「何それ」


俺の手元を覗き込んで、言ったのは、ツィーア・エル・アルタニク。


時は夕食。ツィーアと向かい合い、俺は量が減らされた夕食をつまんでいる。結局、昼に食べた馬鈴薯モドキは意外に腹持ちが良く、この時間になっても腹に残っていた。


「果たし状らしいぞ」


この紙の内容は、至ってシンプルだ。


2日後の午後、アリーナにて待つ。


随分と達筆な筆記体で書かれている。誰だろうか。身に覚えがあるとすれば・・・アレだ。


「恐らく、カリナ嬢からの物だろう」


カリナ・ヴァン・マリョートカの事だ。昼間に挑発してやったのが効いたか。


「カリナ?ああ、あたしにも吹っかけて来た事があってね・・・」


どうやらツィーアにも以前、カリナ嬢に決闘を挑まれた事があるらしい。案外バトルジャンキーなのだろうか?


その話も半ば迄は饒舌に語ったツィーアだったが、後半になると苦虫を噛み潰した様な顔になった。


「最後・・・お互いに魔力無くなっちゃって・・・殆ど同時に気を失って引き分けだったのよねぇ・・・」


聞けばカリナ嬢はゴーレム使いであるという。ツィーアが闘った時は、身の丈3mもの大きさの岩のゴーレムを使役していたという。


「まあ、あんたなら大丈夫なんじゃないの?」


ゴーレムなる物が如何なる物かは、想像するしかないのだが、石で出来た人形ならば、其れなりに対応方法はあるだろう。殴るだけでも砕けそうだが。気負わずにやってやろう。


「大丈夫、とは?」


無責任なのか、俺を買っているのか。少し引っ掛かった。


「あれ?話して無かったっけ?」


なんと、彼女には校長との模擬戦を見られていたようだ。校長に勝てるんだったら、カリナ嬢にも勝てるんじゃないの?という推測。


「魔術も使えるんでしょ?どんなのが使えるのかは知らないけど、結構出来るんじゃないの?」


・・・一般に伝わる魔術。火、水、土、風、光、闇。


火の魔術は母が得意であった事もあり、直ぐに上級と呼ばれる魔術迄使う事が出来た。また、オリジナルの魔術も顕現しやすい。俺の中での、攻撃イメージというのが、有り体に言えば、炎と熱からなる物だからだ。ケイト校長も火魔術を主軸にしていた。


水の魔術というのは、主に日常生活に使う魔術だ。水を出す、水の流れを操る、こんなところが大本だ。俺なりの調べで分かったのは、水の大まかな温度を操る、さらに進めば、凍った水を操ったり、水蒸気と化した水のコントロールも可能であった。あとは、原理も知れぬ治癒魔術。水の治癒魔術は、主に外傷を治癒する効果がある。使うとみるみると傷が塞がってゆくのだが、何故かは良く分からない。医療の分野は空っきしである。この良く分からない感を持ってしまっているせいか、俺の使う治癒魔術の効力は低い。ただ魔力を流せば良いという訳では無いという事だ。戦闘面での応用は・・・アイデア次第だろう。


土の魔術。これは土木作業、農業、工業等、職人や作業員の魔術だ。なんでも達人ともなると、一瞬で石垣を築いたり、石材を思うが儘の形に加工したりする石工から、畑の中から小石を取り除き、土を掻き混ぜて耕すような農地開発、鉱夫が使う、特定の鉱物の大体の位置を探知、更にその鉱物に含まれる不純物・・・この場合は炭素やら何やら等、分子レベルの不純物では無いが・・・混じった石ころや、鉄と銅を分離したりなど、経済活動に大きく関わる魔術だ。此れは中々便利だと思う。俺はというと、精々石を加工したり出来る程度。因みに母は土を捏ねくり回す程度にしか使えなかった。苦手らしい。俺も良く分からない。手を動かしてギコギコガリガリするのは得意なんだけどな。戦闘面では、ゴーレム操作等もこの魔術に依る所が大きい。恐らく件のカリナ嬢はこの土魔術が得意なのだろう。


風の魔術は其の名の通り、気流操作の魔術だ。此方は俺にもかなり理解しやすい。母も、火の次に得意であると言っていた。事実、夏季の暑い時期には、風の魔術を使って涼んでいた。これが実は中々難しい。あまりに弱々しいと、涼しくない。逆に強過ぎると、家の中を荒らしてしまう。この微妙な調節が出来るか出来ないかが、力量の見せ所という事。俺がやろうとすると、突風が起きる。しっかり計算して行使すれば、天候もある程度操作出来るのではないだろうか。いや、天気に関しては門外漢なのだが。よってノータッチで居るつもりだ。変に異常気象とか起こして、環境を破壊しても良い事は無い。


光の魔術と聞いて、最初に想像したのはレーザーでも撃てるのか?という事だった。無理があったが。光魔術は単純に明かりを灯す魔術だ。夜に勉強する時はお世話になった。光量は注ぐ魔力の量により変動。また、此方にも治癒魔術が存在する。光の治癒魔術は内的な症状、例えば関節痛、筋肉痛、毒など。高度な物は病気すら治癒する事が出来るという。なんとも便利だ。医療界も安泰だろう。あとは何やら意味不明な物が並んでいた。浄化だとか何やら。一体何に使う物なのか。で、何故レーザーだとかが撃てないのかというと、この魔術で放たれる光は、本当に照らす効果しか無いのである。指先に作り出した光球に指を突っ込んでも、何も感じない。いや、魔力の気配は感じられるが。要するに、常識的に光と共に放出される筈の熱やら何やらが、一切放出されないのだ。完全にエネルギー保存則がぶっ壊れている気がするが、説明出来ないし、此れはこれで便利なので、気にしない事にしている。


闇魔術。一般的に使われているのは、暗視やら探知等。暗がりでの視覚補助や、近くに居る生物の探知・・・此れは通常、何かが居るかどうかしか分からないのだが、達人級ともなれば、その生物の種類、大きさ、人であれば誰であるかまで判別出来るという。治癒・・・此れは何方かと言うと、治癒では無く体力の譲渡と言ってもいいかも知れない。傷を肩代わりしたり、自らの血肉を代償に人を治したり等。あまり使いたくは無い。しかし、闇魔術の行使には先天的な才能が必要とされ、俺もまともに使えた試しが無い。母は暗視と探知が使えるらしい。母の万能さを少し羨む。


個人的に得意なのはやはり、火、水、風あたりだ。イメージが掴み易いし。


「其れなりに相手して、さっさと終わらせる」


岩塊相手なら火魔術で爆破するか何かすれば終わりだろう。本体は・・・まあ適当に関節極めて捕縛して終わりと。


「結構な自信じゃない」


ツィーアはカラカラと、さも愉快そうに笑う。


「ま、頑張ってね」


いい笑顔で笑う彼女を見ていると、俺にはこの娘が将来、途轍もない大物になるような気がした。












明日に件の決闘を控えた翌日。今日からは本格的に俺の学校生活が始まる。


今日受ける授業は、魔術工学なる物。其の為の魔道具も、昨日街で買って来た。


その魔道具なのだが、昨日買った物の中でも、二番目に高い代物だった。


見た目は薄い、対角線が15センチ程の正八角錐。ずっしりとしていて、見た目以上に質量がある。値段は6000オルドと、かなり高い。これでも安い方を選んだ。高い物は8000オルド、最安値で5000オルドであった。


そもそも魔道具、つまりは魔術の効力を込めた道具類というのは、基本的に割高である。作成には専門的な知識や技術が必要であり、手間もかかりがちである為であると言う。大抵は定期的に魔力を補充しなければならないので、魔術師にしか需要は無いが。生産階級も、購買層も薄いという理由も、コレが高額である原因の一つだろう。


実は魔術工学というのは、この魔道具を扱う科目だったりする。


別に職人になる気もありはしないのだが、魔道具というこの世界に於ける高等技術を吸収せんと、俺の脳が欲した、というのが理由。ぶっちゃけ気紛れだった。いや、何せ工学と付いているし、元は技術者であった俺が学ばない訳が無いだろう。新たな体系の技術というのは、其れ程に魅力的だ。


校舎に入り、魔術工学の教室・・・随分と端の方だ。長大な廊下をひたすら歩く。街で買い物をした時も感じたが、やはりある程度の距離を歩くと、歩幅の小ささを意識してしまう。大人の身体を持った自分と比較すると、どうしても移動速度が遅い。走れば脚力の差で速いのであろうが、廊下は歩く場所である。そんな幼子が物凄い速度で爆走していたら、其れこそ目立つどころではないし。


と、そうこう考えている内に目的地に到着する。少し、いや、かなり寂れた雰囲気が漂う扉。そういえば、この辺は殆ど人が居ない。この教室に来る生徒は、ここまで一人も見なかった。人気無いのか?この教科。


「失礼します」


教室に入ると薄暗い・・・埃っぽい部屋だった。教室、といえる様な場所ではない。良くて研究室、はっきり言うと、少し広い資料室を思わせる様な部屋。壁際には、本がギッシリと詰められた、天井近くまで届く本棚。中央に四角い卓と、数脚の椅子。奥の複数個並ぶ棚らしき物と、その周囲には何に使うかも想像がつかない様な・・・ガラクタにしか見えない物がゴチャゴチャと並べてある。


中央の卓に座り、本を捲っていた人物。左眼に掛けた、大きなモノクルを抑えながら此方を向く。

艶やかな黒髪を腰近く迄伸ばし、黒い眼は深い知性の色を湛えている。如何にも出来る雰囲気を漂わせる、年若い女。相当若いな。見た目は15くらいか?


「話は聞いてる・・・エリアスさん・・・で、あってる?・・・」


消え入りそうな小さな声。あまり話す事は得意では無さそうだ。言葉もぶつ切りで、間が長い。目が隠れそうな前髪を横に除けながら、言葉を続ける。


「・・・ここの・・・管理してる・・・ネメシア、って・・・いうの・・・わたし・・・」


其れを聞いて驚いた。実は教師の名は事前に聞いている。


ネメシア・リィ・クロチャトフ。それが此処、魔術工学科の講師の名だ。


聞いた話では、数多くの便利な魔道具を世に送り出した天才であるらしい。昔から神童と謳われ、魔道具以外の通常の道具にも、彼女が手掛けた発明品が数多くあるという。


そんな風に語られる偉大な発明家、其れが目の前の少女とは俄かに信じられなかった。いや、人は見た目に依らないという事か。


「生徒・・・きみだけ・・・だから・・・楽に・・・して?」


そう言うと彼女は、流し目をして、彼女の向かいの椅子を示す。座れという事だろうか。


「・・・あの・・・校長先生に・・・伝えてたもの・・・持ってきた・・・?」


例の高い魔道具の事だろう。


「あ・・・これこれ・・・」


俺が取り出した八角錐を見て、僅かに目を見開く。


「・・・新品・・・買ってきたの・・・?」


「はい」


相手が俺の精神年齢の3分の1にも満たなくても、現状年上の存在であるので、敬語で話す。講師である事だし。


「・・・新品は・・・高い・・・中古なら・・・新品の・・・半分以下の・・・値段で・・・買える・・・よ?」


マジか。少し勿体無い事したか。


「古道具屋で・・・探せば・・・使えるのが・・・たくさん・・・」


知らなかった・・・いや、此れは仕方がなかっただろう。まず、古道具屋に行くという選択肢が出てこなかった。


「魔道具は・・・古道具屋に・・・たくさん・・・あるから・・・まず・・・見てみるのが・・・いい」


古道具屋か。少し興味も湧いた。今度の機会には探してみよう。


「成る程、有難う御座います」


礼を言っておく。この手の情報は、人から人にしか伝わらない。貴重である。


「いい・・・きみは・・・わたしの生徒・・・だから」


そう言って微笑んだ顔には、僅かに、「私、お姉さんですから」感が浮かんでいた。一見感情の起伏に乏しい様に見えても、やはり背伸びしたい年頃の少女なのだろう。


態々其れを指摘する程、俺の意地も悪くは無いが。


「じゃあ・・・コレの使い方・・・教える・・・」


自信が出て来たのか、先程より遥かに明瞭になった(其れでも小さいが)声で、この謎の魔道具の使い方を説明してくれる。


ぶつ切りの話し方と、どうも説明下手の様で、かなり解り難かったが、要約するとこんな感じだった。


この八角錐の魔道具は、プラスティカーという、此れまたよく分からない名前。プラスティシティといえば可塑性、プラスティックと言えば言わずもがな、ベストセラー石油系樹脂だが、そんな所から名付けられているのだろうか。


では何をする物がというと、先ずこの魔道具に触れて、魔力を流す。すると驚くべき事に、この魔道具の直上に、青白い六角柱型の・・・言うならば、ホログラフィック映像の様な物・・・結界と言うらしい。其れが映し出されたのだ。見本を見せる、と言って、ネメシアさんは何処からか取り出した木片を、結界(仮)の中に・・・浮かべた。


何を言っているか良く分からないかもしれないが、確かに、彼女が木片を結界(仮)内に差し入れた瞬間、その木片は虚空に浮いたのだった。


其処に驚いていては話が進まないので、納得しないまでも、兎に角は捨て置く。


其処から彼女がした事というのは、先ず、宙に浮いた木片をジーっと凝視。何をしているのかと見ていると、木片に変化が現れた。


なんと、みるみる内に削れ、整形されていくではないか。そうして、後に残ったのは、小さな木製の花の模型。何の花かは知らないが。しかし、表面は丹念に研磨したように滑らかで、正体は知らぬが、極めて精巧に出来ていた。


其れが終わると彼女は疲れた様に嘆息し、此れがこの道具で出来る事、と、自信有り気に微笑んだ。若干の疲れが見えたが。


つまり此れは、高度な魔導工作機械、という所だ。重要なのは、作業の大半が、術師の感覚に頼る所が大きいという事。勿論、形状も、寸法も、仕上げも、全てが術師のセンス頼りだ。術師の魔力、イメージ力が物の出来に直結する3Dプリンタ、とでも言おうか。


勿論、使える資材は木材だけではない。理論上は、石だろうが鋼だろうがミスリルだろうが加工することは可能らしいが、その分、硬いものを加工しようとすれば、其れに比例、いや二乗に比例するかの如く必要魔力量が跳ね上がり、更に、切削加工しか出来ない為、直しが効かないという欠点もあるという。


が、此れが最も簡単で優れた精密加工機械であるため、細工師御用達の逸品なのだとか。ネメシアさんが作ったこの花の模型の様な細工は、相当な熟練者でなければ作れないという。どこか誇らしげに言っていた。まあ、凄いけど。あと、無機物しか加工出来ないそうだ。つまりは、手を突っ込んで加工しようとしても出来ないという事。素晴らしい安全仕様だ。


因みに俺も挑戦してみた。同じく木片から、小さなカップの様な物を作ってみようとしたのだが、年輪に沿って割れるわ、カップの内側を彫ろうとしたら底まで抜けるわで、真面に出来なかった。想像以上に難しい。仕上げは綺麗だと、褒められたが。


今日のところは説明で時間を多く取られた事もあり、使い方を習って色々遊んでいる内に、昼過ぎになってしまった。授業の終了時刻を大幅に過ぎてしまっていたので、此れでお暇した。


別に他の生徒も居ないそうで、彼女は基本ここに居るそうなので・・・奥に毛布があったがもしや・・・いや、いつも此処に居るので、授業が無い時でも、いつでも来て良いと言ってくれた。暇な時は入り浸るとしよう。


部屋に戻ってからは、其処ら辺に落ちていた枝やらで、色々と遊んでいた。


気づくと絨毯の毛に、落ちた木屑が絡み付いていて、密かに掃除をする使用人達に申し訳ないと思ったのは、また別の話。


ご指摘箇所が御座いましたら、お申し付け下さい。



タイトルの雰囲気はコロコロ変わると思います(震え声)



今回のタイトルは、ネメシアちゃんを表しています。其の意味は後々・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ