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傾国の姫  作者: 安田鈴
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レオヴィスの心情。シリアスチック。

ここから先、おそらくレオヴィスの心情が読みにくくなると思うので。


 酷なことを強いているな、と内心で自嘲する。


 死神によって人生を弄ばれる少女は、そのあまりに数奇な運命とは裏腹に、…あまりに普通の少女だった。


 姿かたちは聖教画に描かれる天使に似て、稚く、夢幻のように儚く消えてしまいそうな白の美貌。

 あの死神と真逆の美は何かを暗示めいていて身構えてしまう。……彼女の言う通り、死神の趣味嗜好でしかないと楽天的に考えられなかったからだ。


 彼女の姿と運命はこの世に二人といないものだったが、その中身は拍子抜けするほどありふれていた。


 過酷な人生を背負わされるに相応しい気丈さがあるかと思えば、どこか脆く隙があっていつも迷っている。

 大人びてはいるのに、無防備な子供じみてもいる。

 アンバランスな精神状態は珍しくはあるが、その言動の一つ一つは普通だ。予想外なことに巻き込まれても、予想外な言動はほぼしない。


 彼女は、無力で無防備でいつも迷いを抱えながら動いては後悔する、至って普通の少女だった。




 その少女が、いつものように迷って揺れている。

 自分の未来を強いられ、悲しみと失望に心を閉ざしかけている……

 それが手に取るようにわかっても、レオヴィスには言葉を撤回する気はなかった。

 進むべき道は他者によって指し示され、何度抗ったか数えきれないほどにはこの人生を悟ったつもりだ。今は行くべき道も場所も自分で決め、それを後悔するような愚考をした覚えもない。

 何を犠牲にしても、誰を生贄にしてでも、と誓ったのだ。

 決して自分の道が正しい、などとは思っていない。こうして目の前で悲しみに打ちひしがれる少女がいるのだ、間違いなどないほうがおかしい。


 ―――それでも。


 それでも、己が決めた道を行くと誓った。

 ゆっくりと歪になっていく世界はたわわに膨らみ、腐り落ちるように熟れていくのが端々から感じられたから。


 俺は、俺の望む道を進む。

 どんな犠牲があろうとも。

 くすぐったいような、甘やかな心を踏みにじっても。

 風前の灯のように小さく弱い少女の想いを生贄に捧げてでも。


 それが大国の王子として生まれ育ち、世界の行く末を垣間見てしまった自分の運命なのだ、と。




 …………でも。




 いつか―――いつかでいい、たった一瞬でもいい。

 押し潰さなければならない私情の一欠けらをぶつけてもいいだろうか。

 謀ることなく、想いのままにこの腕を伸ばしてもいいだろうか。


 『もしも』と……夢想してもいいだろうか……




 考え、自嘲を深めた。

 愚かしい。

 計画に支障をきたすかもしれない私情など、ひたすらに邪魔なだけだ。

 目の前の少女は計画に必要だ。だから手の内に入れる。

 どんな手段を用いてでも手に入れる。逃れられないように囲い込む。

 ―――それだけだ。




 『もしも』などありえない。

 いつだってこの手に残るのは、現実の悪夢だ。

 少女は手に入る。それでいい。


 心などなくとも、彼女は確実に自分の腕の中に残るのだから。







 レオヴィスは深めた自嘲に歪んだ勝利の笑みを混ぜた。

 それは一滴の汚濁。本来あるはずのなかった、運命の一滴。

 ユリフィナの膝で丸まって寝ていた黒猫の目が、ちらりとレオヴィスに視線を投げ、愉快そうに細められた。


 その場の誰も知りえない未来をその奥に映して。



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