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傾国の姫  作者: 安田鈴
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第五話

 死神の高笑いなんて、これほど不気味でお目にかかりたくないものはないと言うのに。

 現在、絶賛(強制)発売及び購入中だ。今すぐに返品したい。

 ……まあ、その類稀なる美貌、という点だけは評価したいと思うけれども。


「じゃあとりあえず転生するか」

 ひとしきり笑った後、あっさりと次の作業へ移ろうとする死神…いや、鬼畜に激しく抗議の手を上げた。

「いやいやいや!ちょっと待って!!そんなあっさり転生させるの!?ていうか、私に説明はないの、説明は!玩具って何よ、これからの私の人生あんたに玩具にされるんだからそれくらい説明して……つーかしやがれ!!このドS!!」

 脳内と行動が一致しない小心者の私にしては珍しい。こんな暴言初めて吐いた。

 この男の玩具発言よりは、だいぶ…かなり…いや、別次元くらい優しい暴言だったけど。

 美貌の死神はそんな私にちらりと視線を向け、そしてにっこりと美しい微笑みを浮かべた。


 ……なんだこの究極兵器は。しばらく脳内が麻痺しそう。


 女の私がいくら頑張って体を磨き、奇跡の化粧を施したとしても、こうまで悩殺できないだろうくらい美しい微笑みだった。

 ただただ憎たらしい鬼畜の死神なのに、危うくふらふらと付いて行っちゃうところだ。

「……へぇ。根性見せるな。お前平凡なくせに見所があるじゃないか。さすがだな」

 さすが?

 あら、私のこと褒めてくれるの?なんだ、ちょっとはいいところが……

「さすが俺が選んだ玩具。こうでなきゃ面白くない」

 ……あるわけねーよな、このド鬼畜様に!!

「なんだ?」

「いいえ、別に!つくづく自分のことを馬鹿で根性無しで見る目もない不幸な女だと思っただけです!!」

 もういい加減、この男に優しさだとかそんな類のものは期待してはいけない。

 電子顕微鏡でも見れないくらい、こいつに良心などないのだから。

 怒りしか覚えない死神との会話に、分厚い壁を作るように自分に言い聞かせた。

「根性はある方だと思うがな。体がいまいちついていかないみたいだが」

「……なんか企んでる?」

「これだけは本音だぜ?俺のつかず離れずの嫌がらせにも自殺しなかったし、最後には向かってこようとしたしな。ま、それが俺の策略でもあったけど。しかも俺の美貌にも慣れて悪態をつく女なんて、生まれて初めてだ」

「ああそう。褒めてくれてありがとう」

「……お前、もう少しどうにかすれば運のいい女になれただろうに」

 哀れむような死神の顔を睨みつける。

 もう少しどうにかすれば?

 どうにかって何よ。あともう少しで運のいい女になれる?悪かったわね、もう少しで運を逃す不幸な女で!

 ホントにこの死神、絞め殺せるものならば延々と恨み事を八つ当たりして殺してやりたい。

 そんな根性も勇気も気力もないけど。

 ふんっと再びそっぽを向く私に、苦笑しながら死神は説明し始めた。

「……まあ、玩具ってのは簡単にいえばお前の転生先で、お前の人生に口出しをさせろってところだな。もちろん、お前が未来を選んでいくが、俺の気に入らない未来になりそうな時は遠慮なく口も手も出す。ちなみに159番目の玩具の最期は孤独死だった」


「…………そんなもん、できるかー!!」


 孤独死?孤独死だと?

 突然死の次は孤独死だって言うのか、この三大ドのつく鬼畜S悪魔の死神様は!!

 最高の玩具ってアレか、子供が遊んでいつの間にか親がしまったまま忘れ去られて箱ごと燃やされるような玩具のことか!!

 最悪の人生って言わないか、それ!!

 もうそろそろこいつのことを呼べる名がなくなってしまいそうな所業だ。

「あんた……あんた、いい加減にしなさいよー!?何で突然死の次の転生先で孤独死なのよ!血も涙もないの!?」

「ないが。人間じゃないしな」

「このぉ……!」

「まあ、待てよ。何も最期は孤独死って決まったわけじゃない。159番目は気位の高い奴で、たまたまそうした方が面白そうだったからだ。お前は……孤独死なんてことになっても面白くなさそうだ。なったらなったで、諦めそうだしな」

 ……確かに。

 私なら、確実に諦めるだろう。老後に一人で楽しめる趣味でも見つけて、それなりに楽しんでいそうだ。

 人生はそれなりだと思っているから、諦めることだけは異常にいい。

 諦めが肝心。素晴らしい格言だと思う。

「それなら、お前には山あり谷あり、良くも悪くも人の中で揉まれて巻き込まれて流されて、諦めることができない人生の方が面白そうだ。ギブアップが即、死につながる人生。楽しそうだな」

「……はい?」

「名案だな。さすが俺。よしそれでいこう。じゃあ転生先は……ここだな。喜べ女子供の好きなファンタジーな世界で、火種がそこかしこに散ってる大国と属国の争いに巻き込まれて来い!オプションで魔法のレベルを選ばせてやる……いや、俺の優しさで神の恩寵レベルにしてやる!これでお前に人がアリのように群がるぞ、泣いて喜べよ!」

 はっはっは、と再び高笑いする死神様。

 ……こいつ、絞め殺すだけじゃだめだ。というか簡単に殺したくない。

「いやよ!」

「だめだ、もう決めた!お前のこの人生面白そうだ!楽しんで来い!!」

「いやって言って……きゃぁあ!?」

 突然自分の足先がすっぽりと抜けたような感覚になり、何かに引っ張られていく。

 何もないこの空間だけど、ここで諦めたら諦められない人生になる。必死に何かにつかまろうとするが、やはり何もない空間なのでつかめない。

「俺もお前の前世の後片付けしたらすぐそっちに行ってやるからな、寂しがらなくていいぞー」

 ニヤニヤと笑っているこの美貌の顔を一発でいい、殴らせてほしい。

 そんな私の願いもむなしく、するりと私の体は暗闇のトンネルに引き込まれていった。


「だからいやって言ってる……!寂しいわけ、あるかーーーっ!!!!!」


 そこのところだけは言っておかなくてはいけないと、声を振り絞るが聞こえたかどうか。

 私の耳にあの高笑いだけが響いて消えた。 

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