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傾国の姫  作者: 安田鈴
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第三十九話

 謁見室を出た後、レオヴィスはこれからのことを相談する、と自分の部屋にある応接間に私を招いた。

 広く長い廊下を突き進み、南宮と呼ばれる王宮の南に位置する離宮に向かう。

 ちなみに、東には第一王子の部屋がある東宮、西には第二王子の西宮、北には王様と王妃様の住む北宮、側室と呼ばれる女性たちの離宮がある。

 謁見室などがあるのは本宮で、これらすべてを合わせて王宮と呼ぶらしい。

 ただし、今王子がちょうど三人いるから東、南、西、とそれぞれ割り振っただけで、本来王妃の息子は全員東、側室の息子は西、王位継承権に関わりの薄い王女たちが南となるそうだ。

 しかしまあ、王妃と側室の息子を対極の位置にするなんてね……

 対立してる画が簡単に思い浮かぶ。むしろ思い浮かばない人はどれだけ浮世離れしてるんだって話よ。仲良くなろうにも部屋が遠ければ行き来も面倒だろうし。

 生まれた瞬間から対立する運命なのか、結果としてそうなるのか、判断が難しいところだ。

 それが大国の王子として生まれた者の定めだ、と言われてしまえばそれまでだけど。

 毅然として歩く九歳の少年の後ろ姿。その肩に背負ったものは、平和な前世とスリファイナで生まれた私には計り知れない。

 そんなことを考えながら歩いていると、後ろから慌ただしい足音が聞こえた。

 振り向くと、同じような服を着た数人の男がこちらに走り寄ってくるところだった。

「ちっ。…もう追ってきたか」

 レオヴィスの鋭い舌打ちが後ろから聞こえ、何事かと思ってしまう。

 戸惑う私を庇うような形でレオヴィスが前に出て、彼らと対峙した。

「レオヴィス殿下、ご説明を!それは魔法省に召喚したものです」

 ……ちょっと待って。それ?

 それってどれのこと?

 まさか、まさかなとは思うけど、私のこと?

 え、私って物扱い?そんな扱いをされるような生まれでもなければ、所以もないのに?

 それ?それですって……?

 眼中にないだろうが、極力顔には出さないように努める。

 ……聞き間違いか言い間違いだと心の中で何度も呟く。そうでもしなければ心の平穏が乱れて睨みつけてしまいそうだった。

 いけない。そんなの王女の顔じゃない。ダメだ、と繰り返す。

 すると、やけに笑みを含んだ声がそれに答えた。

「それ、と不遜にも呼ぶか。属国とはいえ、第一王女だということはわかっているはずだな?」

 ……ん?

 あれ……怒ってる?

 笑ってるけど笑ってない声って言うか……きっと冷たい目してるんだろうな。この人固まっちゃってるし。……かわいそ。

 心にもない同情を一応送る。……内心、もっとへこませてやれー!とレオヴィスに大喝采だ。

「……失礼いたしました。お許しを」

「私に許しを請われても困る。それとも、属国の王女に頭を下げるなどプライドが許さないか?」

 嘲笑う口調のレオヴィスに、男たち……たぶん、魔法省の人達がピクリと顔を歪める。

 うわぁ……一瞬で空気が凍ったよ。ピリピリ電気でも走ってるみたいだよ。

 修羅場だ。逃げたい。

 ……おそらく私のことで話があるんだろうから、逃げられるわけもないんだけど。ひどいよね、世の中って。

 引きつりそうになる顔を、それでもどうにか留めようとしていると。

「……王女殿下、失礼な言動をお許しください」

 ……うん。声は低くて聞きとりにくいし、ものすごく眉間にしわが寄ってるけど、それでも謝ってるって言いたいんだ?

 視線はそらしてるし、顔にでかでかと「何で謝らなきゃいけないんだ」って書いてあるのがはっきりと読み取れるけど、謝ってるって言いたいわけだ。

 ハハハ。すごいな、一国の王女にここまでできるなんて。属国って立場は、ユーリトリアではそんなに下に見られるんだ。

 プライド高そうな、いかにも神経質な研究者って感じ。レオヴィスやシーナと並んでしまうと霞むけど、イケメンなのに。もったいない。一人の女として、私の中であなたの評価はマイナスです。

 せっかく引きつりそうな顔をとどめようと頑張ってたのに、その一言で崩れました。

 ふふふ……完全に馬鹿にしてるわけよね?私なんぞに下げる頭はないって言ってるのね。

 そういうつもりなら、私にも考えがあるわ。馬鹿にされたまま寛容な大人ぶって引きさがるのも癪だし、シーナにもレオヴィスにも逆らいづらい私には、堂々とこの権力を振りかざせる人随時募集中だし。

 ということで、あなたをいじめたいと思います。

 これ私的正義。権力万歳。恨むなら私の人生を振り回すシーナと、悪意なしに堂々と権力を振りかざして当たり前なレオヴィスを恨んでちょうだい。恨めないだろうけどね!

「……お許しできなかったらどうしますか?」

「……は?」

 は?ときたか。

 まあね、聞き間違いかと思ったんでしょうね。

 残念、聞き間違いじゃありません。あなたと今ようやく目が合った私が、聞こえた通りの言葉を言ったんです。

「私をそれと呼んだことについて、私が許せないと言ったらどうするんです?私が属国の王女だからと軽んじるのはそちらの勝手ですが、私の一言でスリファイナが正式な抗議を申し立てたら……あなたはどうするつもりなのかと聞いているんです」

「何を……」

 五歳児が何を喋り出すんだと思ってるんでしょうが、私はシーナの教育によって年齢にふさわしくない量の知識が詰め込まれた天才児。

 変なところで偏ってるし、こんなの覚えてどうすんだって知識も中にはあるけど、こんな時は便利だわ。鼻っ柱を折ってやるくらい簡単にできちゃうんだから。

 たじろいだ男を見上げ、さらに追い詰めてやる。

「謝った、というのなら、それなりの態度を示してもらいたいものです。それともそれがユーリトリアの謝罪の仕方ですか?それならば私は、ユーリトリアは大国であることに驕り、礼儀を忘れた国だと認識せねばなりません。貴方一人の言動が国を貶めたのです。その意味をおわかりですか」

 畳みかければ男はさらに顔色を悪くする。

 ふふふ、いい気味。ああ愉快よ!

 もっといじめてやりたい。もっともっとそのたっかいプライドをへし折って粉々にしてやりたいけど、これくらいにしておこう。

 多少ストレスの発散にはなったし。

 あんまり目立ちたくもないしね。

「では謝罪のやり直しをお願いします」

 にこりと笑って要求すると、男は見惚れたように呆け、そして慌てて頭を下げた。

「申し訳ございませんでした……」

「ええ、今後気を付けていただければ結構です」

 頭を上げた男は、どこか魂を抜かれたような顔で私を見ている。

 ……なんか、嫌な予感。

 ぞっとする気分でその男から視線をそらし、レオヴィスに話を向けた。

「レオヴィス様、この方たちは?」

「……ああ、魔法省の連中だ。ユリフィナを呼んだ奴らだが、シヴァインに行くことが決まった以上、何の用もない」

 レオヴィスは自力で男をやり込めた私に驚いていたが、すぐに表情を改めて冷めた顔になる。

 読み取りづらいが、どこか賛辞を送られているような気がして嬉しくなった。

 ふふ、私だってやる時はやるのよ!所詮小心者だから、自分に絶対の正義がないとやりたくないけどね!

 残念すぎる本音はしまったまま、心底不思議そうな顔で小首を傾げた。

「まあ、用がないのならいったいどうなさったんでしょう。……聞いての通り、私はレオヴィス様に招かれて、シヴァイン魔法学院に行くことが決まったようですの。国王陛下にも先ほどお話が通ったと思いますが、他にも何かあるのですか?」

「あ……いえ、その……」

「何もないのですか?でしたら、私達はこれで失礼しますわ。レオヴィス様もお忙しい身。今後のことをお話していただける時間は限られているものですから」

 にっこりと「これ以上引き止めるな」という意味を込めて笑う。

 どうだ、お前が侮って「それ」呼ばわりした女にやり込められる気分は!

 ふふふ、ちなみに私の気分は最高よ!あー愉快愉快!

 こんな風にシーナにも一発言ってやりたいけど、どうせ鼻で笑われるだけだろうし、最後には負けるしな……最低な人生だ。

 レオヴィスは……怒らせたくないからやらない。だって一回怒らせたらとんでもないことになりそうで、とてもじゃないけどやる勇気はない。

 人間、できる範囲はきっちり認識しておかないと。長いものには巻かれろ。すごくいい言葉だと思う。

 どこか呆けたままの男に嫌な予感しか感じないので、これ以上関わりたくないと、促すようにレオヴィスに視線を送った。

「……小娘だと思っていた者に言い負かされた気分はどうだ?お前らもいい加減、その無意味で無価値で無駄そのものの古びたプライドを改めたら、もう少し嫌われないと思うがな。まあ……所詮、それだけで体面を保ってる組織には無理な話か……」

 くくく、と笑い、レオヴィスが炎のような赤い目で冷たく彼らを睥睨する。

「―――失せろ。この私を前に、いつまで無礼な態度のままいるつもりだ」

「っ、……失礼いたしました」

 逃げるように元来た道を戻っていく彼らを見送り、レオヴィスは私に顔を向けた。

 楽しそうな顔でニヤリと一瞬笑う。

「……さすがだ」

 小さく、周りには聞こえないように呟き、すぐにいつもの冷めた顔に戻る。

「では行こうか。ユリフィナの言う通り、時間は限られているからな」

 カツカツ、と歩き始める背を追いかける。

 レオヴィスの部屋がある南宮はもうすぐそこだった。

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