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傾国の姫  作者: 安田鈴
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第四話

 友人に一歩引かれ、長いレポートを書かされ、気になっていた人からは避けられ……

 いい加減、頭に来ていた。

 アレさえ見えるようにならなければ、こんなことにはならなかったはずなのだ。

 脳内と行動が一致しない小心者の私では、付き合うことはできなかったかもしれない、だけど!

 少なくとも、会話ができるようにはなったかもしれないのに。

 八つ当たり?言い訳?

 同じ環境になれば、少しは私の気持ちもわかるようになるはず。

 全てはあいつのせいだと。


 近づいても来ないくせに私の気ままな生活を壊した、あの忌々しき幽霊のせいだと!


 憤然と、そしてどこかで諦めるように生活し始めた私の人生を、再びあの幽霊は揺り動かした。

 揺り動かし、しまいには揺り籠から叩き落としたのだ。


 ―――事故死という最悪の突然死でもって。




「……ああ!そう、そうだよ!私、あの時道の向こうにまたあの幽霊見て、もういい加減にしろって文句言いに行こうとしたら……」

 いつもは車通りの少ない道だった。

 時折大型トラックが抜け道に使っているのか、危ないと感じたことはあったが、まさかあのタイミングで来るとは思わなかったのだ。

 ……まあ、事故にあう人みんなそう思ってるだろうけれど。

 友人も平穏な日々も好きな人も、最後には自分の命も奪ったあの悪霊。

 近づいてこないから悪霊じゃないだろうと、温情をかけた自分が間違いだった。


「いやぁ、幽霊に温情も何もないだろ」


「うるさい、そんなもんこうなった私が一番わかってるわよ!」

 言いかえし、会話をしたという奇妙さに背後を振り返る。

 そこには男がいた。たぶん、あの幽霊と思わしき男。

 たった一つ、決定的に違う印象が別人かと思わせたけれど。

「…………え、あの幽霊?」

「そう。お前の人生を狂わせた男だ」

「変な言い方しないで。……ホントに、あの幽霊?」

「事実だろうが。そんなに疑うとこか?こんなに印象的な男、お前の人生にいなかったはずだけどな」

 確かにいない。

 そりゃいろんな意味でいなかった。

 幽霊ってだけでもいなかったし、私の人生を狂わせた男もいなかったし、こんなにガラッと印象を変えた奇跡の男もいなかった。

 何より……そう、その何よりも!


 こんな美形、テレビの中でさえお目にかかったことがない!


 人間どこかしらに歪みがあって、それが全くない左右対称な顔はほぼ存在しないと言う。むしろ左右対称に整い過ぎていると、不快に感じる人もいるほど。

 それを軽々と踏み越えるこの男はいったい何なのだろう。

 完璧だ。

 さらさらの艶やかな黒髪に、薄いブルーにも見えるグリーンの瞳。

 眉の角度から長さ、目の大きさ・位置、鼻の高さも唇の厚みでさえ完璧だ。

 幽霊だった時は恐ろしく病的な白い肌をしていたくせに、健康的な色をしてさらに滑らかで若々しい。

 幽霊に歳など関係あるのかわからないけれど、二十代半ば…もしくは後半というところか。

 いったいぜんたいどうしてこんな姿なのか。

 顔は確かに見たことはある。あるが、こんな美形だっただろうかと自分の記憶を叩き起こしたい気分だった。


 じーっと隅から隅まで観察するように凝視する私に、男は大げさな身振りで肩をすくめにやりと笑った。

「俺に惚れた?」

「……」

「無視か。……まあいい」

 完全に顔を見ることだけに集中している私に、男は芝居がかった仕草で胸に手を当て腰をかがめた。


「現世で顔を合わせたことはあるが、ここでははじめまして、だな。俺は死神。高原由梨花、二十歳。今日をもって死亡。死因は内臓破裂、及び失血性ショック。素行はそれなり。このままなら来世は……んー、平民だな。あくが強いわけでもないし。転生の時期は……150年後ってとこか。妥当だな。素行通りの『それなり』の転生だ」


 どこからか出してきた手帳らしきものを開き、そんなことを言い始める。

 自分のことを言っているのだとわかるが、突然死といういまだ受け止められない自分の死を納得できていない私には、ただの言葉の羅列に聞こえた。

 ぼーっと死神と名乗った男の信じられないほど整った顔を見つめながら、聞き流すように投げやりな相槌を打つ。

 私の人生、確かにそれなりな感じだったけど……

 今改めて言われると何か空しいものがある。

 せめて最後に幽霊なんぞ見て、ちょっとした絶望も味わったことが人生最後のスパイスってやつだったんだろうか。

 ……なんか腹立たしい。

 そう思っていた。

 ため息をつきそうになる私に、次の瞬間信じがたい暴言が吐かれるまでは。


「そんな人生つまんねーだろ?だから、俺が面白可笑しくしてやるよ。高原由梨花、光栄に思え。お前は俺の記念すべき160番目の玩具だ!」


「……はぁ!?」

「159人玩具にしてきたが、最初の50人くらいはどれもうまくいかなくてな。100人を超えてきたくらいでようやくコツがつかめてきたんだ。159番目のやつは最高だった。だから安心しろ、お前も最高の玩具にしてやる」

 尊大に言い放つ美形に、ぽかんと間抜けな顔をさらしてから、ふつふつと煮えたぎり始めていた私の感情が爆発した。

「いやよ!何言ってんの!?そんなもん、なるわけないでしょ!!だいたい死神ってことはあんたのせいで私死んだんじゃない!そんな奴のおもちゃなんか、誰がなるって言うのよ!!」

 ばかばかしい。

 そんな馬鹿なことをするヤツがいるなら見てみたい。

 それなりの人生結構。坂道なり壁なり、波ある人生なんて疲れるだけだ。

 ふんっとそっぽを向く私をニヤニヤと笑いながら見る死神。

 ……最悪の画だ。これからの展開なんて見えてますと言わんばかりの。

「ふぅん。いいのか?」

「何がよ」

「いや、お前がそう言うなら別にいいんだ。俺は次のイケニエ…おっと玩具を探せばいいだけだからな」

 生贄も玩具も、どっちにしても酷い言葉だとわからないのだろうか。…いや、知ってるな。

 顔は極上だけど、性格は極悪だ。さすが死神。

「別に俺はいいんだが……お前は困るんじゃないか?」

「だから、なんでよ」

「転生、したくねーの?」

「えっ!?」

 なんでそんなことになるのだ。

 したいに決まってる。こんな、玩具にされるために人生を狂わされ、二十歳のこれからだ!ってときに事故死。転生できるなら是非ともしたいに決まっている。

 死神なんぞに私の人生への思いを図られたくはない。

「転生したいのか?」

 したい。

 だが、この男の憎たらしいほど美しい顔が「罠だ」と言っている。

 罠以外の何物でもないと、私の直感も言っている。

 だけど、だけど……

 悲しいかな、私に転生したいという気持ちがあっても、その術がなかった。


「……したい、です」


 振り絞るような憎しみさえこもった声なのに、死神はニヤニヤと笑いをやめない。

 あろうことか、

「え?なんだって?」

 などと聞き直しやがった!

 今度は憎悪を込めて丁寧に、とびっきりの笑顔すらつけて言い放つ。

「転生したいです!」

「じゃあ、俺の160番目の玩具になるんだな?」

「ええ、喜んで!」

「よしよし、素直ないい子は好きだ。天の邪鬼で悪い子も、それなりに好きだけどな」

 はっはっは、と笑うその首を絞めてやりたいと言ったらまだ笑うのだろうか。

 ……笑うな。さも楽しそうに「どうやって?」などと言ってくるに違いない。

 ああ……

 なんでこんなことになったんだろう?

ちょっと時間があったのと、区切れないかな、と思い長めです。

細かいことも書きたいけど、先も進めたい……

微妙なさじ加減が難しい。

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