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傾国の姫  作者: 安田鈴
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第三話

 幽霊?

 この科学の時代になんだってそんなもの。


 失敗したなー、とこの日何度思ったか知れない。見ちゃいけないものは、その通り、見ちゃいけないのだ。見たら絶対後悔する。

 わかっちゃいるのに……

 なぜ見ちゃうんだろう?

 男はじっとこちらを見ている。もう私が「見えている」ことに気づいて、ターゲットを絞ったかのように見ている。

 視線を外せばいいのに、不気味すぎて外せなかったのだ。

 というか、外した瞬間横にいたらどうする。

 そんなの恐怖以外の何物でもない。

「ひっ!」

 自分で想像して身震いした。

 おそろしや。見ちゃいけないものだけど、見るのをやめるのもダメなものって理不尽でしかないと思う。

 そんな私の小さな悲鳴を聞いた友人が、訝るようにこちらを見た。

「由梨花?」

「…え?」

「え、じゃなくてさ。何?何かあるの?」

 エリが私の見ている先にちらりと視線を流すが、やはりその男は見えていないようだ。

 あんなに不気味で怪しい男なのに。

「……もしかして、幽霊でも見えてんの?」

「え!?」

「やめてよー、変な病気になったり変な宗教にはまったりするの。あ、私お金ないからたとえ幽霊ついててもノータッチでいいから。数珠とかいらないから」

「……」

 そんなの売りつけるわけないだろう。私だって信じてないのに。

 思ったけど、なんでか見え始めちゃった私にそう言いきることができなくて、笑ってその話を流す。

 友人に向けた視線を再びその男に向けると、男はうっすらと笑い消えていった。


 ……勘弁してほしい。

 アレって完全に目をつけられましたってことだよね?

 また来ますって感じの去り方よね?

 なんなの、私がいったい何したって言うのよー!




 その日からつけ狙うように、その不気味な幽霊男は私の視界に入ってきた。

 講義中に、部屋で、登下校の道端でも、果ては私がひそかに気になってる人の後ろに張り付いてたことだってある。

 幽霊にストーカー規制法とかきかないだろうか。

 閻魔大王さまとか、話を聞いてくれないだろうか。つーか地獄に連れていけ!

 でも不思議とその幽霊は私の視界に入るだけで近づいてはこない。

 一番接近したときでさえ、部屋の片隅にいたくらいだ。背後とか、横に突然いたりしたことはない。

 そのおかげか、慣らされた結果か。

 私はその男に対して不気味と思うだけで、自然に無視できるようにまでなっていった。

 ……まあ、それまでの間に友人から一歩引かれたような感じが、ひしひしと伝わってくるようになったけれど。講義の最中に幽霊を注視していたせいで、レポートを書かされる羽目になったりしたけれど。

 一番は、気になってた人が不気味そうに見る私に気分を害して、あからさまに私を避けるようになったことだけど!


 記念すべき二十歳の誕生日。

 あの日から私の人生は奇妙にねじくれていった。

 あの忌々しい幽霊のせいで!!

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