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見知らぬ世界にて、  作者: ドミノ
序章1節:召喚
13/37

◆13話

知識の無い素人が考えたものなので、色々と目を瞑ってください。

……主に、話の内容とか。



 ケーネにバレないよう、ふぅと息を吐く。どうやら無駄に王都の昔話を聞かされずに済みそうだ、と予習を怠った箇所を免れたからだった。

「さて。では、ルナヘイル王国の歴史から始めましょう」

「うん」






「まず、『ルナヘイル王国』の建国は何年前のことですか、坊ちゃま?


 ――そうです、136年前です。

 『神聖ダルク教皇国』という1つの国が分かれ、私たちの国は誕生しました。そして、分裂時に誕生したもう1つの国、『クルーエ神民国』と幾度となく衝突、休戦、冷戦を繰り返してきました。


 では、分裂の原因とはなんだったのでしょうか?



 ――教会の堕落が端を発しています。

 そもそも、神聖ダルク教皇国は今から500余年ほど前に『大陸統一の英雄』により建国されました。教皇と枢機卿が政治を執り行う『教会』の尽力と『ラピュセル教』信仰のもと、皇国は栄華を極めたといわれています。

 しかし、長い時の流れの中で教皇と枢機卿たちは次第に堕落していきました。聖職者にあるまじき欲に塗れていきました。寄付や免罪のもとに金銭を集め私腹を肥やすばかりか、高位貴族とも癒着があったのです。

 また、教会に領地を与えられた貴族たちは高位貴族に寄進した者も多く、私欲に塗れた領地運営をしようと支配権は失われることはまずなかったのです。

 その在り方に異を唱えた人物が、若き枢機卿であった『アルフレド・ルナヘイル』です。



 ――ええ、坊ちゃまのご先祖さまです。

 彼は、教会の現状を知り、教会の清浄を掲げ、達成を目指しました。その言に耳を傾け賛同する民衆も多くいました。

 しかし、教会の弾圧的な態度により彼は、彼の名が民衆に広く広まる前に異端審問にかけられ、『リュニアの丘』にて火刑に処されることとなりました。



 ――そうです、この時に『窮鼠の進撃』と呼ばれる出来事が起きました。リュニアの丘へと搬送される彼を、民衆が救い出した出来事です。

 僅か100人前後の民衆からなる武装集団が、峡谷にて待ち伏せし、多くの犠牲を払いながらも彼を救い出したのです。

 この襲撃成功の裏には、堕落した教会に染まりきってはいない少数の聖職者たちの協力もあったと考えられています。

 忘れてはならないのは、教会の腐敗を嘆き、自浄しようとする者たちも少なからずいたということです。……ですが、襲撃に加担した民は一人残らず捕らえられたのち、教会に弓引く者たちとしてリュニアの丘で火刑に処されました。


 補足ではありますが、この地に都が置かれた理由は彼らの慰霊のためということは、ご存知ですよね?



 ――……、きちんと憶えておくように。次はないですからね。



 ――処刑の地に選ばれるような地に都を置くのは不吉ではないか、ですか?

 教会は、年始に星占術を行い、一年の間様々な儀に用いる場を決めていました。処刑の地も同様に、一年周期で変更されるのです。なにも、ずっとリュニアの丘が処刑の地に選ばれていたわけではありません。なので、曰くつきの地というわけではありません。むしろ、占星術で選定されるだけの力を持った土地であるといえます。



 ――話を戻しましょう。

 窮鼠の進撃のとき、教会から逃げ延びることが出来たのは、救い出されたアルフレド・ルナヘイルと4人の男性のみでした。彼は4人を従者とし、教会から身を隠すため各地を転々とする生活が続きました。そんな折、アルフレド・ルナヘイルは『霊峰ヴァル・ハノス』へ向かう神託を聞いたのです。



 ――はい、その地で正解です坊ちゃま。大陸北東部最端の地ですね。その地が、霊峰ヴァル・ハノスです。向かう道程も厳しく、言わずもがな登ることも困難を極めます。

 その地で彼と4人の従者は、月と慈愛の女神『ルーナリュディケ』と人々を導く契約を交わしたのです。そして、彼は4人の従者と女神の前で契約を交わしました。彼らはこの時に『契約四家』と名を変えたのです。また、彼は契約の証として、女神の象徴である蒼穹色の瞳と白金色の髪をたたえる姿となりました。

 彼と契約四家は、女神の名の下に、新たな教えをもって再び教会に異を唱えました。ラピュセル教は浄化されねばならないとして改革を始めたのです。



 ――彼らが姿を眩ましている間ですか。もちろん、何も無かったわけではありません。これからお教えいたしますね、坊ちゃま。

 アルフレド・ルナヘイルと4人の従者が姿を眩ましている間、窮鼠の進撃が火種となって、民衆の反感は教会の名で抑えられぬほどのものとなり始めていました。中でも、教会浄化を掲げた『トマス・クルーエ』を筆頭とした一派が力を強めていました。辺境の地の司祭であったトマス・クルーエは、民衆の支持を得て、ゆっくりとですが確実に強めていたのです。

 教会が無視できぬほどにトマス・クルーエの力が強くなったと同時期に、アルフレド・ルナヘイルは民衆の前に現れ、改革を行い始めました。

 敬虔なラピュセル教信者であるトマス・クルーエは、アルフレド・ルナヘイルと接触を図りました。そして、教皇と枢機卿たちの処刑が成り、教会浄化改革を達成させたのです。



 ――なぜ2つに分裂してしまったのか、ですね。

 トマス・クルーエとアルフレド・ルナヘイルは、互いに浄化を掲げていました。しかし、その先に見ていたものが違ったのです。

 トマス・クルーエは『教会の浄化』を、アルフレド・ルナヘイルは『ラピュセル教の浄化』を目指していたのです。この食い違いが原因となり、トマス・クルーエ率いる『原点回帰派』と、アルフレド・ルナヘイル率いる『新約派』の対立が生まれたのです。


 坊ちゃま。旧約ラピュセル教についてはどれほどご存知ですか?



 ――旧約ラピュセル教には、それぞれの生き物にはそれぞれの神がいるという考えがあります。そして、この世界の生き物は、それぞれの神の眷属であるとしています。……例えば、犬の姿をしているのならば『狼の神の眷属』というように。



 ――えぇ、神が大勢いるなど、おかしな話です。しかし、古来の人々はそう信じたのです。

 実際、どの生き物も持たない体躯と魔力を持った生物の目撃報告が、僅かにですが存在しました。そんな生物たちこそ、眷属を束ねる神だとされていたのです。そして、神々は世界のバランスを保つため、生き物が互いに食い食われ、繁殖しては死んで逝くことを管理し、世界を見回っているのだそうです。

 アルフレド・ルナヘイルが唱えたのは、そんな神々の堕落でした。敬虔な使徒を見捨てるのでなく、最初から見てなどいなかったのだ。そればかりか、堕落した教会の暴挙に目を向けず、穢れた祈りにより地に堕ち、ただの『古き者たち』となったのだと彼は説きました。

 その中でただ1人。慈愛により人々に手を差し伸べ、夜を照らすため天に在り続ける、ルーナリュディケこそ唯一にして最も尊い存在であると、自らが受けた神託と契約のもとに『新約ラピュセル教』を広めたのです。この新約ラピュセル教こそ、新約派が掲げた(しるべ)です。

 対する、原点回帰派は堕落などしていない、精練な祈りを捧げれば神々は手を差し伸べるとしていました。

 大きく二分された意見は、やがて闘争を生み、そして袂を分かったのです。

 ここからは衝突と休戦の歴史が繰り返されました。

 そして、百年の時が流れ、大きな転機を迎えたのです。



 ――えぇ、『百年目の祈り』と呼ばれる、傭兵団が古き者を殺害した出来事です。

 当時、ルナヘイルに雇われていた傭兵団が、甲虫のような得体の知れない強大な魔力を宿した生物に遭遇し、死闘の果てに殺害しました。そしてその晩のことです。虫の形をした、魔力を持つ生き物たちが、夜明けまで鳴き続けるという現象が起きました。

 当時その現象はなんなのかと議論される中、ある仮説が浮上しました。「その甲虫のような生物こそ、古き者ではないのか」という仮説です。

 結果、その仮説が正しいとして結論付けされました。これによりかつて神と崇められた古き者は、人の手で殺せる、ただの生物だと証明されたのです。

 当時冷戦下にあったクルーエ神民国は、神殺しの咎を受けよとルナヘイルに宣戦布告し、戦争へと雪崩れ込みました。しかし、未知であった古き者を殺すことが出来ると判明したルナヘイルは勢い付き、恐れるに足らんとして、じわりじわりとクルーエ神民国を劣勢にまで追い込みました。

 そして、武王と称えられる『クロード・ジゼ・ルナヘイル』様が6年前に『ユーノランド大陸』統一を果たされたのです。

 ちょうど、坊ちゃまが御生まれになった3ヵ月後のことですよ。



 ――坊ちゃまのお父上は、偉大な御方です。坊ちゃまが思うよりもずっと偉大な偉業を達成したのですから。



 ――結局、古き者とはなんだったのかですか?

 多くはまだ解明されていない状態です。なので、強大な自然魔力を持った生物としか言えません。

 しかし、その強大な魔力を通じて、他の生物とリンクを持つことが出来るということが分かっています。このことから、明確に生き物の分類が出切るようになりました。

 『動植物』とは、自然魔力を持たず、人々と共生している生き物。

 『魔物』とは、自然魔力を大小に関わらず持ち、古き者とリンクを持つ生き物。

 そう定義されます。また、魔物は種類を分けるときに『眷属』と呼びます。例えば『古狼の眷属』種というようにです。

 そして、ここからは推測の域を出ないのですが、確認されている魔物の形から『蛇』『獅子』『鳥』『鬼』『狼』『龍』の古き者は、恐らく存在するであろうと言われています。


 話は変わりますが坊ちゃま。ここまでの歴史に関与していない一族がいることはご存知ですか?


 

 ――正解です。『アドゥルの民』ですね。

 彼らは存在こそ一般に知られていますが、多くの謎に包まれています。せいぜい、尖った耳と夜のように黒い瞳と髪を持っている、人的魔力とその制御能力が異様に高い、といった特徴を知っている程度でしょう。

 彼らとの結婚は認められていますし、子を成すことも可能です。しかし、生まれてくる子にはアドゥルの民の特徴が確認された例は一件もありません。

 また、彼らは国を持たない流浪の民です。何にも属さず、ただ世の移り変わりを見る『観測者』であるという話もあります。『アドゥルの掟』と呼ばれる規律があるらしいのですが、こちらもどんな掟なのか、そもそも本当にあるのかすら不明です。

 他にも『アドゥルの里』と呼ばれる彼らの里があるらしいのですが、一般人はまず行くことは不可能です。どこにあるのかすら、秘匿にされているのですから。王ならば里へ行くことが可能と聞きます。お父様に直接聞かれてはどうでしょう」



 ここでケーネは一息ついた。


「駆け足で説明しすぎましたか」

「だ、だいじょうぶ」


 ケーネは、代表的な事例だけ抜き出し、かつ政治的な面は省いて説明したつもりであった。しかし、これだけ一気に聞かされたら、頭に入るものも入らないだろうとも思う。やはり、1つ1つゆっくりかつ具体的に教えていかなければならない。


「分かりました坊ちゃま。最初から1つ1つ時間をかけてもう一度……」

「うげっ!」

「どうしました?」

「な、なんでもないよケーネ」







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