1-1.風来のデリヴァ
1-1.風来のデリヴァ
ゴトゴト…。中世の乗合馬車が山を越えようとしている。
一行は、山の向こうの街を目指していた。
行李をしょった小太りのひげ面の行商人と、冒険者パーティの一行だった。そして、隅っこに、スカート型の旅装をした金髪の女性エルフが座っていた。
冒険者パーティで一番目を引くのは2メートルはあるであろう、ドラゴニュートのタンクだったが、物静かな男らしく端に座って目を閉じて腕組みをしていた。
リーダーは人間の戦士で、エルフの魔法使いの女、人間の治癒師の女、後はドワーフとホビットもいた。
「初めまして。俺たち、ダンジョンに挑むパーティなんです。俺は、剣士のオブリスっていいます。」
「ご挨拶どうも。デリヴァだ。見ての通りエルフだ。」
「同族ですわね。わたくし、アリアと申します。魔法使いです。」
「ああ、どうも。私は基本的には治癒師だ。」
「どちらまでいらっしゃるんですか。」
「決めてない。」
「え?旅をお続けなんですか。」
「まあ、そんなものだ。」
デリヴァは、視線を落とした。
「素っ気ないですね。デリヴァさん。袖振り合うも多生の縁じゃないですか。」
「ありがとう。だけど私はあまりなれ合わないんだ。」
「まあ、そんなこと言わずに。」
オブリスは、食い下がった。
「あまり構わないでもらえれば助かる。」
「え?旅は道連れ世は情け。」
「すまない。そういう主義なんだよ。」
デリヴァはまつ毛を伏せた。少しさみしそうな横顔だった。
構わないでと言われたものの、女性二人はおしゃべりな様子で、何だかんだ言ってデリヴァに話しかけた。
女性の治癒師はマリスといった。同性のよしみでアリアとマリスとは、魔法論を話し合い、雑談も出来るようになった。
「案外気さくですのね。」
マリスが笑った。
「人が嫌いな訳じゃない。」
デリヴァは人なつこい笑顔を見せた。が、すぐ真顔に戻り
「仲良くなるほど別れがさみしくなるんだよ。」
と陰を見せた。
「友情は永遠ですわよ。」
アリアも笑顔で念押しした。オブリスも彼女たちの会話を微笑みながら眺めていた。
峠を越えて、いよいよ街へ入るばかりと下り始めた時だった。
雄叫びとともに山賊が現れたのだ。
「俺たちが撃退します。」
オブリスがパーティを率いた。
「じゃあ、お願いしようかな。」
「山賊なんてぶっ殺してやります。」
「ああ・・・。」
と勇んで出て行ったのだが、山賊は集団だったようで、囲まれてしまった。12~3人はいる。
「へっへっへ。有り金と女を置いていけ。」
山賊が要求した。
「させるか!」
斬り合いが始まった。ドラゴニュートのビルは既に3人に囲まれていた。ドワーフのサムは斧を振り回している。ホビットのベンも投げナイフを繰り出していたが、ジリジリと押されて包囲網が縮んで来ていた。山賊は戦い慣れているのか、こちらの1人に複数人が対峙し、徐々に押されつつあった。
ビルの脇をすり抜けて女性メンバーを襲おうとした者がいた。
「待て!」
オブリスが振り返った瞬間、もう一人がオブリスの左腕を切りつけた。
「ぎゃああ」
オブリスがもんどり打った。
「ファイアーウォール」
アリアが壁を作って後衛を守った。
「怪我しちゃったか…。仕方ないなぁ。」
デリヴァがのっそりと腰を上げた。
「粘着地面!」
途端に山賊達の足が地面に貼りついた。
「ぬっ!!」
「オブリス、奴らは動けないわ。それと、みんな、両手で耳を塞いで。」
「ん?分かった」
「龍の咆哮!」
「ブオオオオオ」
地鳴りのような龍の叫び声がこだました。
「ひぇぇぇぇ。」
山賊達は腰を抜かしてへたり込み、失禁するものもいた。
「これでいいでしょう。男性陣は御者も行商の方も、賊を縛り上げてくれるかな。」
13名の山賊が手を後ろに縛り上げられ、アリアが簡単に解けないように強化して回った。
「街に降りたら警備隊に知らせましょう。」
「いつつ…。デリヴァ、あんた強えな。」
オブリスは左腕をかばいながら言った。
「まさか。龍の咆哮なんて、子供だましだし。私は戦闘は弱いよ。それより、怪我したわね。」
「面目ない。」
「ヒール。」
マリスがヒールを掛けると、止血は出来たが、ざっくりと裂けて肉がのぞいていた。
「私のヒールじゃ、止血がやっとですわ…。」
マリスがうなだれた。
「デリヴァさん、治癒をお願いできませんこと?」
「頼めないかな、御礼はする。」
「ああ…。」
デリヴァは少し逡巡を見せた。
「何か問題でも?」
「いや、大したことじゃないんだが…。」
デリヴァは肩をすくめた。
「治すと忘れられる。」
「呪いですか?」
「副作用…かな。」
デリヴァは少し困ったように笑った。
「まさかそんなわけ…。」
「あるんだ。」
「こんな綺麗なエルフの知り合い、一生忘れませんよ。」
オブリスが言う。しかし、デリヴァは悲しそうに首を振った。
「なので、すまないが、代金を先に頂けないだろうか。金貨一枚でお願いしたい。」
「分かった…。」
オブリスが指示すると、アリアがポーチから金貨を渡した。
「ありがとう。たしかに。これはお釣りだ。」
デリヴァはポーチから、珍しい古代銀貨を出してそれぞれに渡した。
「これは?」
「遙か昔に滅した王国のレオ銀貨だ。」
ライオンの顔が刻印されていた。
「私のことを忘れてしまっても、これは持っていてくれ。君たちに危難が訪れた時、精霊が私に知らせてくれるようになっている。間に合う限り、駆けつけるだろう。」
「そうやって、旅しているのですか?」
「精霊が知らせてくれたら、駆けつける。どうしても、路銀が尽きたら換金しても構わないが、君たちとの縁は切れる。」
「そう…。なんですね。」
アリアが口を開いて何か言いかけたが、飲み込んでしまった。
ーーそれで、素っ気なかったの?
「さあ、治療を始めよう。『ハイ・ヒール』」
マリスの何倍もの光がオブリスを包むと、肉まで裂けたその傷は跡形もなく元に戻った。
「すげえ。痛くない。力こぶも出来るぜ。」
オブリスが左腕で力こぶを作って見せた。
「お役に立てて何よりだ。」
デリヴァは魔法のクッションを出すと、何事もなかったかのように元の席に腰掛けた。
やがて街について、警備隊に山賊を縛ってきたことを伝えると、デリヴァへの感謝を兼ねて一同は酒場で宴会を行った。
「私はエルフだが、串焼き肉には目がないんだ。」
デリヴァは舌なめずりした。
そして、飲めや歌えの大宴会になった。
マリスが
「あんなすごいハイ・ヒール、初めて見ました。」
「えへへへ。もっと褒めて。」
デリヴァは酔ったのかマリスに抱きついていた。
「よしよし。」
マリスが撫でるとデリヴァは小さな子のように頬を染め、マリスにぎゅっと抱きつくと、おでこをぐりぐりと擦り付けていた。
「デリヴァさん、かわいい。甘えん坊なんですね。」
「うん…。」
マリスはいつまでもデリヴァを撫でていた。デリヴァは猫のように目を閉じた。




