## 第4話「名前を呼ばれる夜」
# 『この世界で魔法を使えるのは俺だけだったが、守りたいのはたった一人の笑顔だった』
## 第4話「名前を呼ばれる夜」
夜の森は、静かすぎた。
焚き火の音だけが、小さく弾けている。
カイ・セレスと名付けられた男は、火の前に座っていた。
「……まだ慣れねぇな、その名前」
小さく呟く。
リリアは少し離れた場所で、膝を抱えて座っていた。
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「カイ……セレス」
その名前を、リリアがそっと繰り返す。
まだ慣れていない声。
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「やめろよ、それ」
カイは苦笑する。
「なんか恥ずいだろ」
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リリアは首を振る。
「でも……あなたの“名前”だから」
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その言い方が、少しだけ重かった。
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風が吹く。
森は静かで、遠くに追手の気配はない。
今だけは、ほんの少しだけ安全だった。
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リリアは焚き火を見つめたまま、小さく言う。
「……どうして、助けたの?」
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「またそれ?」
カイは少し笑う。
「何回目だよ、それ聞くの」
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リリアは視線を落とす。
「だって……普通は、逃げる」
「巻き込まれたくないって思う」
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少しの沈黙。
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カイは焚き火を見ながら言う。
「普通ってなんだよ」
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「え?」
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「普通ってさ」
「見て見ぬふりできること、なのか?」
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リリアは答えられない。
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カイは続ける。
「それが普通なら、俺は普通じゃなくていい」
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その言葉は軽いのに、妙に重かった。
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リリアは、少しだけ顔を上げる。
「あなたは……怖くないの?」
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「何が?」
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「私」
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焚き火の音が、一瞬だけ強くなる。
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カイは少し黙る。
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「最初はな」
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正直だった。
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「でも今は」
「そうでもない」
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リリアの目が揺れる。
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「なんで……?」
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カイは肩をすくめる。
「怖いかどうか考えてる余裕がないだけかもな」
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少しだけ笑う。
「お前守るの、結構大変だし」
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その瞬間だった。
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リリアの胸が、少しだけ痛くなる。
(守る……)
(私は……守られてるだけ?)
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ずっと避けてきた感覚。
誰かに“助けられる”こと。
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リリアは俯いたまま、小さく言う。
「……私は、災厄なのに」
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カイの動きが止まる。
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「は?」
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「私に関わった人は、みんな不幸になる」
「だから……近づかない方がいいのに」
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焚き火が揺れる。
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カイは少しだけため息をつく。
「そういうのさ」
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立ち上がる。
リリアの前に来る。
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「勝手に決めんなよ」
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リリアが見上げる。
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「お前が災厄かどうかなんて」
「俺が決める」
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沈黙。
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リリアの目が揺れる。
怖いのか、安心なのか、自分でもわからない。
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でも――
今まで感じたことのない感情が胸に広がっていく。
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(この人は)
(私を“理由”で見てない)
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リリアはゆっくり息を吐く。
「……変だよ」
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「よく言われる」
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少しだけ笑い合う。
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そのときだった。
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風が止まる。
森の奥に気配。
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「……来たな」
カイの声が低くなる。
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リリアは反射的に立ち上がる。
「ごめん……やっぱり私のせいで……」
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「またそれか」
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カイは振り返らない。
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「いい加減にしろよ」
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静かな声。
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「お前がいるから来たんじゃない」
「俺がいるから来るんだ」
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その瞬間。
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リリアは気づいてしまう。
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(この人は)
(私のために戦ってるんじゃない)
(“私がいる世界ごと”守ろうとしてる)
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胸が、強く締め付けられる。
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怖いはずなのに。
危険なはずなのに。
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目が離せない。
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(この人の隣にいたら)
(私は、もう戻れない)
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でも同時に――
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(それでもいいって思ってしまう)
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## ■第4話・終わり
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## ■次回予告
追手の本格襲撃。
そして初めて明かされる、“リリアが狙われる本当の理由”。
カイ・セレスは知ることになる。
守っている少女が、この世界の“中心”であることを。
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