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## 0話「普通の終わり」



# 『この世界で魔法を使えるのは俺だけだったが、守りたいのはたった一人の笑顔だった』


## 0話「普通の終わり」


 仕事帰りの夜は、いつもと同じ匂いがした。


 コンビニの光。

 車の音。

 少し冷たい風。


「今日も終わり、っと」


 暁 恒一は、コンビニの袋を片手に歩いていた。


 中身は安い弁当とペットボトルのお茶。


 特別なものは何もない。


(まぁ、こんなもんだろ人生って)


 そう思うことにも、もう慣れていた。


---


 信号待ち。


 スマホを見ながら、なんとなくSNSを流す。


 誰かの成功。

 誰かの恋愛。

 誰かの不幸。


「……世界って忙しいな」


 小さく笑う。


 でも、その笑いはすぐ消える。


(俺は何やってんだろな)


---


 ふと、胸の奥に変な感覚があった。


 理由はない。


 でも昔からたまにある。


 “現実が少しズレる感じ”。


 信号の色が、一瞬だけ遅れて見える。


 車の音が、少し遠く感じる。


「またこれか……」


 特に病気でもない。


 ただの癖みたいなものだと思っていた。


---


 歩き出す。


 帰れば飯を食って、寝て、また同じ明日。


(まぁ、悪くはないけどさ)


 悪くはない。


 ただ、それだけだ。


---


 そのときだった。


 空気が、ほんの少しだけ重くなった。


「……ん?」


 足を止める。


 ビルの間の空が、妙に暗い。


 雲でもない。


 “穴が空いたみたいな違和感”。


---


「気のせいか」


 そう言って歩き出そうとした瞬間――


 視界が、割れた。


「……は?」


 音が遅れて消える。


 信号の音も、車の音も、全部遠ざかる。


 目の前の世界が、ひび割れたガラスみたいに崩れていく。


「ちょ、待て……何だこれ……」


 足元が消える。


 地面がない。


---


「おい……冗談だろ……」


 叫びは空に吸われる。


 体が落ちていく。


 上下の感覚がなくなる。


 ただ“引っ張られている”だけの感覚。


「夢だろ……これ……」


 そう言いながら、声が震えていた。


---


 そのときだった。


 どこかで“声”がした。


『適合確認』


「……誰だよ」


『転移処理を開始します』


「説明しろって!! 何の説明もなく落とすな!!」


 声は返ってこない。


 代わりに、世界が白く染まっていく。


---


 その白の中で、なぜか一瞬だけ思った。


(……あぁ、これ、戻れないやつか)


 妙に冷静だった。


 怖いはずなのに、どこか現実味がない。


---


 そして意識が切れた。


---


## ――そして異世界


 目を開けると、空が壊れていた。


 二つの月。


 知らない空気。


 生きている地面。


「……マジかよ」


 さっきまでの世界が、もう遠い。


(夢じゃない……のか、これ)


 初めて、少しだけ怖くなる。


---


## 次回予告


普通の男は、異世界で“魔法”に触れる。

それは恐怖であり、衝撃であり、そして――始まりだった。


---



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