表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

ゴブリンは、探り出す

昼の配給は、朝より空気が重い。


薄い粥の匂いに、汗と油と、どこかの血の匂いが混ざってくる。


列は静かだった。


静かというより、みんな余計なことを言わない。


理由は一つ。


三日。


昨日、俺が取り立て屋から取った期限だ。


俺は配給の受け渡しを見ながら、頭の中で同じことを繰り返していた。


現金を、三日で用意する。


どうやる。


結論は、もう出ている。


金を持ってるやつには会えない。


でも、金が動く道なら触れる。


取り立ての途中だ。


取り立て屋は、回収した金をそのまま上に持っていかない。


途中で抜く。


誰かが、どこかで、少しずつ。


なら俺は、まず「抜いた痕」を拾う。


「ボス」


後ろから声。


ゴブタが横に来た。昼の光でも顔が怖い。


「細いのの件、聞いた」


俺は頷く。


細いの。


昨日、配給所で潰した小物だ。


俺にとっては邪魔だった。


でも、死体は使える。


死んだやつはしゃべらない。


代わりに、周りが勝手に情報を出す。


「穴がある」


ゴブタが言う。


「細いの、寝床があった。隠し場所も……たぶん」


俺は列のほうを見た。


ゴブリンたちが、こっちを見てはすぐ目をそらす。


期待と不安が混ざった目だ。


俺は距離を取る。


励ましても腹は満たせない。


安心させても、金は増えない。


必要なのは、動くこと。


「金は取りに行かない」


俺が言うと、ゴブタが顔をしかめた。


「じゃあ、何する」


「明日のための材料を拾う」


「明日、否定できない形にする」


ゴブタは少し考えて、黙った。


「役を決める」


俺ははっきり言う。


「お前は案内と見張り」


「小物は耳と足。噂を聞いて、拾えるものを拾う」


「俺は、どこまで踏み込むか決める」


ゴブタが苦笑した。


「結局、ボスが一番やばい役だな」


「やばいのは俺じゃない。三日後の取り立て屋だ」


俺は配給所の入口のほうを見て、嗤った。


---


夕方。


影が長くなるころ、俺たちは動いた。


細いのの“穴”へ行く。


洞穴じゃない。


壁の隙間。


崩れた板の裏。


誰も見ない場所に、金や印を隠す。


下層のやつらは、だいたい同じ隠し方をする。


「ここだ」


ゴブタが瓦礫の山を指した。


腐った布がかぶせてある。


臭い。


俺は手を出さない。


まず見る。


誰が触った。


誰が通った。


変な癖はないか。


小物ゴブリンが布をめくった。


乾いた音。


何かが落ちた。


「拾え」


俺は小物に言う。


俺が拾うと、こいつらは止まる。


小物が拾い上げたのは、細い紐だった。


ただの紐じゃない。


油の匂いが残っている。


端に、変な結び目。


「その結び方、覚えとけ」


「工場のやつが使ってるかもしれない」


ゴブタが眉をひそめた。


「工場って、上のほうの?」


「金を持つ側の匂いがする」


俺はそれだけ言った。


今は決めつけない。


決めつけると、話が大きくなる。


次。


板の隙間から、紙切れが出た。


汚い字。


でも数字だけは分かる。


端数。


いつも同じように減っている。


「癖だ」


俺は言う。


「抜くやつは、抜き方を変えない」


「変えると、手が狂うからな」


さらに壁。


煤と傷の中に、わざと付けた線がある。


目印。


受け渡しの合図。


「それも覚えろ」


「どこにあるか。どの高さか。近くに何があるか」


「明日使う」


俺たちは、拾えるものを拾い切った。


紐。


袋の切れ端。


端数の紙。


壁の印。


名前。


現金は出てこなかった。


それでいい。


金は、まとめて取る。


---


配給所へ戻る道。


ゴブタが小さな声で言った。


「これで、本当に明日いけるのか」


俺は歩きながら答える。


「いける形にする」


「金を抜けば、足がつく」


「寄り道をしたら、そこで確定だ」


ゴブタは、無意識に指を擦った。


「……寄り道」


「取り立て屋は真っすぐ帰らない」


俺は言い切る。


「抜いた分を、どこかに置く」


三日目に必要なのは、正義じゃない。


面子に刺さる言い方。


そして、言い逃れできない証拠。


俺は紙切れを握り直す。


明日、否定できない形にする。


三日目に交渉だ。そこまでの線を繋げる。


今日は、そのための“痕跡”を拾った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ