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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由  作者: 唯崎りいち
第三章 静かなる聖地、それは光

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物語と現実のあいだ

 僕、アイゼルは『隠された皇子とメイドの愛』を全ページ朗読した。


 宿場町の宿屋についてから、夕食を部屋で食べながら没頭していただろうか?


 以前読んでいた分もあったから、なんとか日付が変わる前に読み終えられた。


 巡礼宿と違って灯りが使えるのはいいが、使いすぎてしまったかもしれない。


 早く終わらせたい一心だった……。


 僕に罰ゲームをさせていた、クレアは途中から眠ってしまって聞いていなかったらしい。


 聞いてなかったから、もう一度読めと言われても読むつもりはないが……。


 クレアがこの物語に異常な執着を見せているのは知っている。


 暇があれば読んでいる。


『その地方は精霊の恵みにより、鉄や銀が豊富に取れた。細く険しい道の続く山岳地帯には住む人も少なく、皇子が隠れ住むには最適な場所だった——』


 本の中のこの文章が、これからマーシャルとルークの行く辺境伯家の別荘と似た場所だと僕が漏らしてから、クレアが特に気にするようになっていった。


 その前から、クレアはこの本のモデルが幼くして亡くなったとされている皇帝の息子である僕だという事で興味を持っていたが……。


 辺境伯の次男として隠されて育てられている僕と、辺境伯の別荘の場所。


 気になる共通点ではあるな。


 僕自身も、自分がモデルの本が出版されて気になって少しだけ読んでみたが、途中で読むのをやめていた。


 もしやめずに読んでいたら、辺境伯の別荘と似た場所が舞台なことに疑いを持っただろう。


 クレアのことが気になって、この共通点を疑っていなかった……。


 誰か、僕の正体を知る者が書いたのか?


 別荘の存在は知っているが僕は行ったことがないし、父である辺境伯が昔少し使っていた事があるとしか聞いていない。


 この場所に辺境伯の別荘があるとは知られている事ではない。


 単なる偶然かもしれないが、作者について調べてみるか。


 イザベラ・ド・モンパンシェ


 高貴な雰囲気の名前だが、多分、平民だろう。


 本のタイトルや作家名は高貴な雰囲気があるが、中身は親しみのある表現が多かった。


 ヒロインは強かで魅力的だけど、ヒーローが意外と頼りない。


 作家の好みなのだろうか?


 貴族だったらかなりユーモアがある方のようだ。


 調べさせるのに一番いいのは、グレンだが——。


 ……僕はクレアを見た。


『クレア様に継母からの愛情を届けられたら、俺を見てくれるかもしれない——』


 そう言ったグレンと別れたばかりだと言うのに、君はエドにあって、継母が君を気にかけていたかもしれないという希望をさらに深めてしまう。


 しかも、エドのマントの匂いが安心すると言うし、グレンを好きだと成り行きとは言え嘘をつくし……。


 考えたらドッと疲れが押し寄せてくる。


 自分自身の教会との因縁や、そもそものルークを操った者を探すってだけで大変なのに、君は僕を振り回してばっかりだ。


 規則的な寝息を立てているクレアを見る。


 髪を撫でても、頬を撫でてもまったく起きる気配がない。


 僕は灯りを消して、今だけは僕の腕の中で大人しくしてくれるクレアを抱きしめて眠った。


◆◇◆


 私、クレアが、朝起きると、アイゼルが『隠された皇子とメイドの愛』を全ページ読み終えたと宣言する。


 私が聞いてなかったんだからダメだと言うと、


「そんなルールはない」


 アイゼルは言う。


 多分、ほとんど最後の方まで聞こえてたと思うから、まあ、いいんだけど。


「本当に最後まで読みとは思わなかったわ、アイゼル」


「僕も読むつもりなかったよ……」


 アイゼルはなんだか疲れてるみたい。


「ミアとギリアムが合流するまで、宿の外にあまり出ない方がいいんでしょう? ゆっくり読めば良かったのに。他にする事ってないわよ?」


 私がいうとベッドに座ってるアイゼルが自分の膝の上を指している。


 私はアイゼルの膝の上に座る。


 アイゼルにギュッと抱きしめられる。


「こうしていれば良いよ、クレアちゃん」


 アイゼルの体温が気持ちいいけど、


「さすがに一日中は退屈でしょ」


 私は言ったけど、数日間の溜まっていた疲れがでてきたのか、抱き合ってうとうとして、寝たり起きたりをくりかしてるうちに夕方になってしまった。


 トントン


 部屋の扉が叩かれる。


 朝食も昼食も宿の食堂からコリンとダリルが運んでくれた。


 次は夕食だけど、今は夕食にはちょっと早い時間だった。


「トーマス司祭に呼ばれてこの町の教会に行ってきました」


 そう言ってコリンが入ってくる。


「トーマス司祭は三人組を連れていかなければいけないからここからは教会の者と聖都ヴァティウスに行くそうです。紹介状をいただいたので、聖都ヴァティウスには入れるようになりました」


 紹介状は教会の印章入りで正式なものだ。


「……三人組か……」


 アイゼルは何か考えているみたい。


 まだ若くて未熟な教会に所属しているらしい三人組だけど……。


 教会内の力関係を変えてしまう証拠を握っている。


 アイゼルはこのまま別れてしまうことに躊躇いがあるようだった。


「コリンとダリルは、トーマス司祭と一緒にいって、教会内部の様子を探ってくれ」


「はい!」


 そういうとコリンとダリルは宿の荷物をまとめて教会に移動して行った


 二人の宿の部屋は今日明日にでも到着するミアとギリアムに使ってもらう……?


「アイゼル、ミアとギリアムが着いたら、私とミアが同じ部屋よね?」


 私が聞くと、


「クレアちゃんは僕とずっといるんだよ」


 と笑顔でアイゼルが答える。


「ミアとギリアムが一緒の部屋になるでしょう!」


「ここまで二人で一緒だったんだから、宿の部屋くらい問題ないだろう」


 アイゼルが事もなげに言う。


 確かに二人で野宿したり、部屋なんて今更って気もするけど。


「あの二人は相性が良さそうだったよ」


「え?」


 アイゼルが意外な事を言うから驚いてしまう。


 でも、二人一緒に私の事を特別な人って言ったり、相性は確かに悪くないのかも。


「ところで、夕食だけど、コリンとダリルがいないから僕がとってこないといけないんだ」


 せっかく目立たないように部屋で過ごしたのに、アイゼルが外に出たらすぐに注目の的になってしまうわね。


「その間、クレアが一人なのも心配だから、どうせ目立つなら一緒に食堂に行こう」


 アイゼルに言われて嬉しくなる。


 多分、こう言う庶民的な宿の食堂って夜は酒場も兼ねていると思う。


 ファンタジーの世界の酒場ってちょっと見てみたかったの。


「うん! アイゼル」

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