夜明けの再会
「エド……さん……」
私は仮面の男に呼びかけた。
私を連れ去ろうとした、トーマス司祭を付け狙っていた三人組の若い男は、仮面の男によって地面に倒されている。
「……戻るぞ……」
仮面の男の声が聞こえた。
仮面の中で声が反響して、少し聞き取りづらい。
「あ、あなたは、お母様に頼まれて、私を監視しているんですか!?」
私の口から、どうしても聞きたかった事が真っ先に溢れ出した。
「……」
仮面の男は何も言わない。
私の寝巻き姿を見て、自分のマントを私にかけると、無言で私の手を引いて歩く。
私は手を引かれるままに着いていく。
マント残った仮面の男の匂いが私を安心させた。
「あなたは、どうしてここにいたんですか」
「どうして、私を助けてくれるんです」
思いつく事をポツポツと口に出すけど、仮面の男は答えてくれない。
少し進むと、声が聞こえた
「クレアー!」
アイゼルたちの声だった。
仮面の男は、私の手を離した。
「ここから動かなければ見つけてもらえる」
そう言って、去ろうとする仮面の男に、私は手を伸ばす。
けれど、仮面の男の身体は私の手をすり抜けていく。
既に手を伸ばして届く距離ではなく、追いかけても追いつけないだろう。
それでも、私は、追いかけたい——。
「……するな」
仮面の男が言う。
「危険な事はするな。あの人が心配する……」
優しい声だった気がする。
仮面の男は、もう何処に行ったのかわからなくなっていた。
もう、追いかけたい気持ちはなくなっていた。
『あの人が心配する……』
あの人は、お母様……。
お母様が、私を心配してくれている。
ずっと私に冷たかったお母様。
だけど、やっぱり、何か事情があったんだ……。
お母様は、私を気にかけてくれている……!
◆◇◆
森の木の隙間にクレアの姿が見えた。
泣いて立ち尽くしているようだ。
寝巻き姿だと思っていたクレアが、男物のマントを羽織っていた。
僕、アイゼルはカッとなった。
「クレア!」
僕が叫ぶとクレアがすぐ振り返った。
泣いていたのが分かったが、僕を見るとすぐに笑顔になる。
僕に駆け寄ろうとするけど、森の草木が多い足元に転びそうになる。
僕が急いで駆け寄ると、僕が抱きしめるよりも早くクレアが抱きついてくる。
「アイゼル、お母様が私の事を気にしていてくれたのよ! エドが教えてくれたの!」
そう言って、全く悪びれることのない笑顔を向けてくる。
僕は、クレアが男と歩いて行ったと聞いて真っ先に浮かんだのがエドだった。
エドがクレアの継母の命令で動いていないと言ったのは、ミアだったが、きっとクレアを監視してるだろうと思っていた。
森に行くにつれて足跡は分からなくなったが、クレアと当初は一緒にいると思われていた男よりも、別の複数の足跡の方がクレアに近い事がわかった。
クレアの危険に男の事など忘れていたが……。
「エドさんが助けてくれたの……、トーマス司祭を付けていた三人組はあっちでまだ倒れていると思う」
クレアの言葉に、三人組の男たちが倒れている場所に、コリンとダリルを向かわせる。
僕はクレアを抱きしめた。
「アイゼル?」
興奮が落ち着いて来たクレアは少し戸惑っている。
「クレア、僕がどれ程心配したかわかっているのか?」
「あ、ごめんなさい……。でも、あの時、出て行かなかったら、エドにはもう会えないと思って、必死だったのよ……」
グレンの言った言葉が蘇る。
『クレア様に継母からの愛情を届けられたら、俺を見てくれるかもしれない——』
本当にそうなるのかもしれない。
僕は、クレアがエドにかけてもらったというマントを僕は脱がせる事が出来ない。
クレアはマントの下は寝巻きのままで、僕は代わりにクレアにかけられるような服は持っていなかった。
ただクレアを無言で抱き上げて、巡礼宿に戻る。
「アイゼル、ごめんなさい」
クレアが僕に何度も謝っていたけれど、気づいたら僕の腕の中で眠っていた。
なんの不安もなさそうに眠る姿に、僕は少しだけ安心できた。
◆◇◆
私、クレアが目覚めるとふかふかのベッドの上だった。
朝方の侵入者騒ぎに紛れて出て行ったのは私なんだけど、侵入者に連れ去られた事になったので、特別待遇のベッドが用意されたらしい。
寝巻きも汚れていたものは着替えさせられて、新しい寝巻きなっていた。
トーマス司祭を付け狙っていた三人組は、コリンとダリルによってつれてこられて、
トーマス司祭が話を聞いているらしい。
私は着替えさせてもらったのはいいけど、着ていた服がないのに気づく。
アイゼルが部屋に入ってくる。
目覚めるまでは外にいるように言われていたらしい。
私を見ていてくれたシスターがアイゼルが入ってくると入れ替わりで外に出て行った。
「アイゼル! エドの服がないの! どうしよう」
部屋に入ってくる時は普通だったアイゼルの顔が、不機嫌になっていた。
「あんな汚いマントの事はいいだろう。今は洗濯をしているだけだ」
「洗濯って……、エドさんの匂いがついてたのに……」
なんだか懐かしい匂いがして、安心できた。
「……匂い?」
アイゼルが怖い顔で私を見てる。
「継母のことを気にして、仮面の男を追ったんじゃないのか? あの男の臭いに安心するって、どう言うことなんだ、クレア」
アイゼルは私の手を掴んで言う。
「そんなの分からないわよ。ただ、ホッとしたの。暖かいマントと匂いがすごく懐かしくて……」
アイゼルが私を自分の身体に引き寄せる。
「僕の匂いじゃダメなの? クレア」
意識してみるとアイゼルの匂いもとても安心できるし、大好きだった。
「ちょっとエドの匂いと似てるかも……」
私が言うと、アイゼルはもっと嫌な顔をした。
「アイゼルと似た匂いだから安心できたのかも」
アイゼルはもっと強く私を抱きしめる。
「クレア、僕は君と同じ匂いの人がいても安心しないよ」
アイゼルに言われてハッとした。
アイゼルとエドさんを比べた事なんてないけど……。
「アイゼル、エドさんに嫉妬してたの?」
アイゼルは真面目な顔して、私をまっすぐ見つめる。
「君に近づく男には全員嫉妬してるよ」
私は顔が真っ赤になってしまう。
「アイゼル、大好き!」
そう言って、私も強く抱きしめる。
「アイゼルに嫉妬されるの嬉しいから、もっとして! エドさんのアイゼルに似ているところはね……」
「ちょっと待って、クレアちゃん! なんで僕に嫉妬させようとするんだ!?」
アイゼルが慌ててる。
アイゼルと戯れあってると、コリンとダリルが来て、三人組のことを報告してくれた。
あと数日、巡礼宿に泊まるつもりだったけど、急いで出発する事になった。




