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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由  作者: 唯崎りいち
第三章 静かなる聖地、それは光

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聖宿に眠る、言えない真実

 私たちはあたりが暗くなって巡礼宿の中に戻った。


 夜は食堂で食事が出される。

 硬いパンと豆のスープ、少しの干し肉。


 こんな食事もあるのかと驚いてしまう。


 アイゼルたちも黙々と食べる。


 精霊への感謝を捧げるために、私語は厳禁なのだ。


 シーンとした食堂は、外と同じくらいに暗く誰かのスープを啜る音だけが響き、とても静かだ。


 食事が終わると礼拝堂に集まる人も多く居たけど、巡礼者ではない私は部屋に戻る事にする。


 アイゼルが暗い廊下を手を引いて送ってくれる。


 部屋の鍵を確認すると、アイゼルの顔が少し険しくなる。


「僕らが交代で廊下にいるから」


 アイゼルは元々心配していたけど、夕方頃に中庭に出た後から、ますます警戒するようになった。


 コリンやダリルとも話していたみたいだけど……。


「ここは巡礼者ばかりよ。心配ないわよ」


 昼間に見た巡礼者たちの様子や、夕食の後に礼拝堂に向かう人たちの信仰に厚い姿に警戒する所なんてないと思うけど。


「クレア、君は教会に操られたルークに襲われたんだよ。特別な魔法を使わなくても、信仰に厚い人間こそ操りやすい」


 そうなのかもしれないけど……。


「巡礼者を装っている者だっているさ。僕らみたいに」


 それは返す言葉もない……。


「……アイゼルは大丈夫なの?」


 心配になって聞いてみる。


「大丈夫だよ」


 なんでもない事のように言うけど……。


「心配になった、怖がらせるつもりはなかったんだ……」


 そう言ってアイゼルが私に触れようとする……。


 ゴト


 何処かで音がした。


「……」


 たぶん、誰かが何かを落とした音だ。

 怪しい音じゃない。


 聞き耳を立てたり、様子を伺っている人はいるだろう。


 ただの巡礼者でも、ここは極端に娯楽がないし……。



 アイゼルはそのまま行ってしまった。


 暗い廊下で私の方を見ているんだと思う。


 交代で見守ってくれると言うけど……。


 心配しても私には何も出来ないし、眠るしかなさそう。


 『隠された皇子とメイドの愛』を読みたかったけど、明かりが極端に少ないからここでは読めないわね。


 巡礼宿では食事も質素だし、灯りも少ない。


 こう言う世界もあるのね。


 ベッドは藁の詰まったただの袋でシーツと毛布らしきものがあるけど、触ると知っているシーツと毛布の手触りではない。


 ガサガサと腰おおろしだけで藁が落を立てる。

 寝てしまえば気にならないんだろうけど、寝るまでは気になるわ。


 ただ、私には考えなければいけない事があるから、不快さは意識しないようにできる。


 まずは、ルシアンのこと。


 この物語の黒幕で、二年後に行動を起こすことになっている。


 今回、私とアイゼルにあった事で、二年後の計画にはどんな影響があるのか?

 フェルゼンには何をしに来ていたのだろう?


 分からないわ。


 とにかく、私はグレンを好きって毒を撒いた。

 成り行き上の事だったけど、ルシアンに近づく口実は持てた。


 後は実行犯だ。


 ルシアンに操られている人たち。

 だけど、思い出せない。


 会えば分かるのかな……。


 ルシアンは、この二年間、実行犯と会ってるのかもしれない。

 フェルゼンに来たのもその一環だった?


 本の通りになるように動いているのかな……。


 ちゃんとこの世界で生きてるんだ……。


 私が介入した事で、何かを変えてしまったかもしれない……。


 アイゼルとマーシャルが結ばれなかった。


 原作ヒーローと原作ヒロインの仲を引き裂くって言うとんでもない事をやってしまったんだ。


 黒幕の行動も変えてしまったかも。


 ガサガサと藁の音が大きく響いている。


 ベッドの不快さを紛らわすた為に考えを整理するつもりが、とんでも無いことになった……。


 いや、すでに帝都からの赤ちゃんの父親と母親が違ったんだ。

 影響は、私が気付かないだけで、すでに起こっていたはず……。


 むしろ、ルシアンとのつながりを作れたのは本当に運が良かったのかもしれない。


 グレンの事を口実に帝都でルシアンに会いに行ける道筋が出来てる。


『すぐに噂が広がって、グレンにも伝わるさ』

『周りが君とグレンを善意でくっつけようとするだろう』


 アイゼルが私の嘘にこんな事を言っていたけど、ルシアンがグレンに接触したり、私たちをくっつけようとはしないでしょう……。


 黒幕がそんな親切なわけないと思うけど……。


 グレンにこの事が伝わったらどうしよう……!


 考える時間がなかったから、深く考えていなかったけど……、グレンが私を好き……?


 そんな風に思った事もあったけど、本当に私を……?


 しかも、アイゼルも知っていて、アイゼルから教えて貰うなんて!


 ガサガサガサガサ!


 トントン


「クレア! どうしたんだ!」


 アイゼルのが扉の前で小さな声で呼びかける。


 ガサガサと藁の音が外にも異様に聞こえるくらい鳴り響いていた。


 ベッドから立ち上がり、扉の前まで行く。

 扉一枚向こうにアイゼルの気配がした。


「ご、ごめんなさい……」


 私はいろんな意味を込めてアイゼルに謝った。

 アイゼルの心配はもっともだった。


『君がそんなだから、グレンに……』

 

 でも、アイゼルはまだ色々私に隠してるし……。


「もうすぐ僕はコリンと交代するよ。おやすみ、クレア」


 アイゼルの優しい声が聞こえる。


 グレンが私を好きな事とか、私が知る必要があるとは思わない。

 私はアイゼルだけが好きで、グレンの気持ちに答えられないから、どうすればいいかわからなくなるだけだもの。


 だから、アイゼルが私に話さないのは知る必要がないからだと思う。


 でも、秘密があるのって嫌だな……。


 なんだか寂しい。


 転生者って、絶対に言えない秘密を抱えてる、私が言える事じゃないんだけど……。


 私を秘密ごと受け入れてくれたアイゼルってすごいのかも……。


 私ってアイゼルに負けてるのかも……?


◆◇◆


「私、アイゼルに負けないから!」


 扉一枚隔てた先にいるクレアが僕、アイゼルに言う。


「負けないって、何が?」


 寝ぼけいるのか?


 藁のベッドなんてクレアには縁がなかっただろうし、寝心地は最悪だろう。


 僕だって出来れば避けたい。


 でも、コリンと交代したら大部屋の藁のベッドでしっかり眠らないと明日にクレアを守れない。


 周りに声を響かせる事は避けたい。

 今だってもう騒ぎすぎだ。


 ガサガサ


 クレアの部屋じゃない所からも、藁の音が聞こえる。

 騒がせて起こしてしまったかもしれない。


「おやすみ、クレア」


 口の中で言っただけで、クレアの返事は聞かなかった。


 扉の前から離れて、廊下の端で見張りをする。

 コリンが来てそのまま交代した。


 朝には一番にクレアを起こしに来ようと思って、その場を離れる。


 まさか、クレアが朝には消えているなどと思わず——。


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