夫の隠し子と愛人
か、隠し子〜!!
隠し子!
隠し子!
隠し子ー!
意外な言葉に頭がいっぱいになる。
「隠し子ってアイゼルに子供が居たって事!?」
私は混乱してミアに叫んでいた。
「そうです。その子を産んだ母親が、アイゼル様が正妻のクレア様と離婚するから、城砦の新しい女主人になる為に来たんですよ」
更に進んだ話がミアの口から飛び出して、ますます混乱する。
フラッ
あまりの情報量に頭で処理出来ずに、私は床に座り込む。
「クレア様っ!」
ミアに介抱されて、ベットに横になる。
とにかく分かっている事をを整理しないと。
天井を見つめながら考える。
1、この城の主人はアイゼル。
2、アイゼルには正妻の私が居る。
3、アイゼルは正妻に離婚の提案をする
4、城を訪ねて来た赤ちゃんと女性。
5、訪ねて来た女性がアイゼルの新しい妻になる。
あ、あり得る!
アイゼルに愛人がいるなんて考えたくは無かったけど、結婚して6年間も何もなかったんだもの!
外に愛人が居たって事は、あり得るでしょう!!
「でも、まだ足りないわ!」
ムクッと起き上がってミアに言う。
「まだ私、離婚するって言ってないもの!」
そう、私と離婚出来なければ、愛人を妻にする事は出来ない!
だから、彼女がアイゼルの愛人である可能性はゼロ!
「離婚の話がアイゼル様からでたのは一週間も前なんですよ。きっと、離婚の承諾を得た頃を見計らって呼んだけど、クレア様が悩みすぎて計画がズレてしまったんですよ」
そう言われては、ぐうの音も出ない。
「おかしいじゃないですか、急に離婚の話を出すなんて! 赤ちゃんが生まれたからですよ!」
ミアの言う事は筋が通っていると思った。
「私も何度も他の使用人たちがアイゼル様の愛人の話を噂をしているのを聞いてましたけれどね」
結婚して最初の頃にミアがそんな噂を聞かせてくれた。
私は相手にせずにアイゼルを信じていたけれど……。
ミアがその話をもう一度、持ち出す事はなかったけれど、使用人たちの間に根強く残る噂は、別の所からも何度も聞こえて来た。
それでもアイゼルを信じたのは、あの日に出会った男の子が不誠実な事をするわけないと信じていたから。
——幼い日に貴族邸宅の庭園で出会った私とアイゼル。
アイゼルには何よりも大切な使命があって、私はそれを応援しようと思ったんだもの——。
「まさか、アイゼル様に限ってと、私も思ってましたよ。でも、赤ちゃんが今、この城砦に居るんですよ!」
ミアが言う。
私とアイゼルとの夫婦仲は最近になって悪くなったわけじゃない。
『君と夫婦になるつもりはない』
アイゼルから結婚式の当日に言われていた。
それでも結婚は決まっていたから、式で誓い合ってキスをした。
それでおしまい。
夫婦になるつもりがないと宣言されているのだから、アイゼルにとって愛人を持つ事は不誠実ではないのかもしれない。
宣言通りに、私とアイゼルは結婚してから夫婦の関係を持った事は一度もないのだし。
私にはそれが当たり前で、結婚してずっと6年間こうだったのだ。
それでも特に何事もなく今まで暮らしてたのに、急に離婚の事を切り出すなんて、やっぱりキッカケがあったのだ。
それが、赤ちゃんだった……。
スッと頭の中に、その考えが降りて来た。
やっと事情が飲み込めた私を見て、熱弁していたミアは満足そうにしたけれど、すぐに複雑な表情をした。
主人の夫が浮気していて、浮気相手と子供が乗り込んできて喜ぶ侍女は居ないだろう。
いえ、主人が嫌われてたらあるかも知れないけど……。
ミアが私の事を慕ってくれて、心配してくれて、それはとても嬉しいと思った。
「大丈夫!」
気合を入れて、少しだけ大きな声で言う。
「夕べ話たでしょ? 離婚する事に決めたって。離婚するつもりだったんだもの、そのまま離婚するだけよ。何も変わらないわ!」
言いながらちょっと寂しくなったけど、離婚の決意は変わらなかった。
むしろもう変えられないと追い詰められた。
離婚した後で、別の女性がこの城砦に住んでいる、そのイメージは何度も持った。
後になるか、先だったかの違いでしかないの。
自分の意思で決めた事だから、もう迷わない!
主人思いの侍女を安心させたいと言う思いもあって明るく言ってみた。
でも、私が振り返った時に、今度はミアの方が沈んでしまっていた。
「クレア様が良くても、こんなの酷すぎますよ」
ミアが言う。
「アイゼル様はずっとクレア様に冷たくて酷すぎるとは思ってましたけど、愛人とか、まして隠し子を城砦に連れて来るなんて! あんまりじゃありませんか!!」
わーっとミアが泣き出す。
「ま、まざか、こ、ここまでひ、酷い人とは思いまぜんでしたー! ひくっ。私がもっと不満を言って、グ、グレア様に分かってもらえだら、ご、ごんなごどにならなかったのにーッ!」
「ミア……」
私もずっと辛かったけれど、大好きな人の側にいられたから後悔はなかった。
でも、ミアは私について来ただけで、私へのアイゼルの態度にずっと怒っていたのに、私の為だと思って我慢してくれていたんだ。
「ミア、ありがとう。私、ミアがいて、悲しい時に代わりに怒ってくれたから、気持ちが楽になったのよ」
そう言ってミアを抱きしめる。
「グレア様ー!」
ミアも抱き返してくれた。
「実家に戻ったらミアの好きな事しましょうね」
実家に帰ったら……。
……あの冷たい家に帰る……。
キュッと胸が締め付けられる。
実家は、この城砦以上に冷たい場所だった。
今はまだイメージが湧かないけれど、実家でも私はずっとアイゼルの事を考えているでしょうね。
「よくもクレア様をこんな辺鄙な所に6年間も閉じ込めてくれたなー! クレア様、帰ったら6年間分、楽しい事をしましょうね!」
泣きやんだミアはスッカリ元気になっていた。
思いつくままにアイゼルの悪口を言った後に、ミアはまた様子を聞きに行くと部屋を出て行った。
私も一緒に行きたい所だけど、女主人がそんな野次馬みたいな事は出来るわけもなく。
不倫されて隠し子を連れて来られた奥様と言う当事者の立場もあり、一人で広い部屋に残っていた。
……。
そう時間も経っていないのに、今の状況に対する不安で帰りの遅いミアが心配になった。
それに、離婚の決意をアイゼルに早く伝えなくては、また迷ってしまいそうで——。
その時、部屋がノックされミアではない使用人がやって来た。
アイゼルが私を呼んでいると言う。




