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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由  作者: 唯崎りいち
第二章 光差す聖堂・仮面の夜

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たった一人で待っている

 城塞都市フェルゼンのホテル『黄金の獅子亭』に戻って来た。


「どうしてダメなんですか! アイゼル様!」

 マーシャルが僕に抗議して叫ぶ。


 大聖堂から教会の魔道具を盗み出すマーシャルの計画は成功して、ギリアムとミアがいくつかの魔道具を持ち帰っていた。


 マーシャルは入れ替わっていたクレアのドレスから着替えて、魔道具を触りたくてウズウズしていた。


 しかし、僕は魔道具に触れる事を禁止した。


「魔道具を盗み出したことがバレていたら大聖堂側は探し出そうとする。ホテルから僅かでも魔道具の魔力が漏れたらすぐに見つかってしまう」


「でも、使われていない魔道具を選んで持って来たんでしょう? 探している人が居るとは思えません!」


 マーシャルは引き下がらない。

 実際に魔道具に関してだけなら心配しすぎだ。

 なんの手掛かりもなく、わずかな魔力の漏れを頼りにここが見つかるとは思えない。


 ただ、

「僕は領主に教会の調査の許可を得たが、領主側も一枚岩ではない、教会と通じている者もいるだろう。見張られていると思って、慎重になるに越したことはない」


 マーシャルは少し考えたあと、納得はしたのか何も言わないが、不満そうだ。


「……辺境伯の別荘がここから数日のあまり人がいない場所にある。そこでなら落ち着いて調べることができる。君の長年の疑問を晴らすためには必要だろう——」


 僕は現実的な提案をする。


「……そうですね」


 やっと心から納得したようだ。

 マーシャルの執着は嫌いじゃない。

 信用できる。


 大聖堂で見て来た司祭たちの魔力の形のメモも細部まで書かれていて正確だ。


「別荘まではどう運ぶんですか? 魔道具からは僅かに魔力が漏れています。どこかで調べられる事があれば気付かれます」


 マーシャルの心配は最もだ。

 辺境伯が魚の密輸を心配するように、どこの領主も魔法を使った犯罪は警戒している。


「僕の魔力で一時的に魔道具の魔力を無効化して先に別荘に運ばせよう」


 マーシャルが何か気付いたように言う。


「アイゼル様が今見せているご自分の魔力の形も魔力で本来とは違うものになっているんですよね……。本当なら、双子の弟のアレイウス様……、いえ、オルフェウス様と近いもののはず……」


 マーシャルとは皇族の血を狙う陰謀の解明の為の共闘関係を結んだ。

 僕の事情も話すことになり、僕が皇帝の弟で、アレイウスと呼ばれている皇弟と双子だと言う事も知られた。


 アレイウスに雇われていたマーシャルには僕の魔力の形が、彼と違って居るのは不思議に思えるだろう。


「魔力を殆ど使えない制限を自分にかける事で、魔力の形を変えている。大規模に魔力を使えば必ず僕の居場所が分かるから、そもそも隠れている限り魔力は使えないがな」


 昔と違って大規模な魔力を使えるものは少なくなっている。

 魔力があっても教会や皇帝など、出所が分からない魔力は必ず感知され捕まり、所属を促される。

 見つかりたくなければ魔力があっても使えず、磨く機会もない。


「そうだったんですか……。魔力を完全に隠すことは難しいですが、さすがに皇族のチカラですね……。私も全く分からなかった」


 それがこの国の皇族の血が狙われる理由でもあるんだろう。


 マーシャルがオートマタ技師として自分の技術に誇りを持っている事がよくわかったが、少し危ういものを感じた。


「とにかく、まずは魔道具が安全に別荘に届けられて、それから、君とルークが怪しなれずに別荘に向かえるようにしよう」


「わかりました……」


 渋々ながら、納得したマーシャルには、別に協力を頼みたいことが出来るまで、仮面舞踏会の街を楽むのが任務だと伝えた。


 マーシャルは護衛と共にルークの待つ、街の宿屋に帰って行った。


◆◇◆


 陽が完全に沈んで街が闇に包まれる。


 ホテルから見下ろす街並みは、昼よりも眩しく輝いている。


 クレアの帰りが遅い——。


 夕暮れまでは騒ぐのは心配しすぎだと思っていたが、完全に陽が沈んだ後は騒ぎ出しても良いだろう。


 そう思った時に、クレアが戻ったと知らせが来る。


 コリンやロイス、ダリルに連れられたクレアはとても可憐だった。


 町娘姿が可愛いらしい。


 ただ、俯いた姿が何かがあった事を物語っていた。


「アイゼル……」


 そう呟くと、すぐに、侍女のミアに連れられて着替えに行く。


 僕はコリン達に何があったのか聞きたかったが、ついて来ていたグレンに2人だけで話があると言われる。



 移動したホテルの応接間は、数日前にグレンが僕の名を騙ってクレアの頬にキスしたと語った場所だ。


「帰りが遅くなったのに、意外と冷静だね、アイゼル」

 グレンは最初から敵意を剥き出しにしている。


「さっき、ここでの調査で確認したかった方とクレア様が会ってしまったよ。詳しくは報告書に書くよ」

 それは問題ではあるが、クレアを俯かせている事ではないのだろう。


 では、何がクレアを俯かせているのか?


「クレア様は未だ継母に心を残している——」


 心臓が止まる。


 グレンの言葉は僕の恐れている確信の横をなぞる。

 クレアと継母が裏で繋がっている——。


 ただ、グレンの言葉は正確には、違う内容を指している。


「クレア様は、ずっと自分を虐待していた継母からの愛情を求めている」


 それは、僕が見ないようにしていた事だった——。


 僕との冷たい結婚式の後も、クレアは故郷に帰る継母を追っていた。


「俺は、君から命令されたクレアの継母の調査に向かうよ」


 グレンが言う——。


「クレア様に継母からの愛情を届けられたら、俺を見てくれるかもしれない——」


 グレンは顔を下に向け、顔にかかる髪が表情をより読めなくしている。


 切実な叫びだけが僕の心に届く。


「クレア様は君のものじゃない——!」


◆◇◆


 ホテルの居間の長椅子に着替えたクレアが座っていた。


 いつもの僕のクレアがいる——。


 近寄ってキスする。


「いやっ!」


 そう言ってクレアは顔を背ける。


「……ごめんなさい、アイゼル」

 直ぐに我に返って謝る。


「何があった?」

 ぼくは優しく聞いた。


 クレアは答えない。

 クレア自身も分からないのかもしれない……。


「いいよ、僕は待ってるよ……」


 ——でも、グレンは気付いていた——。


 10年前にグレンが会った、継母の命令でクレアを見張っている仮面の男。

 街で似た男を見かけて追いかけるクレア。

 継母が自分を見張っていた事に、継母が自分を気に掛けてくれている可能性を見いだすクレア。


 グレンが話してくれた事は不合理だが、クレアをよく現している。


 僕に伝えたのは、自分の方がクレアに相応しいという戦線布告なんだろう……。


 継母に会いに行けるグレン——。

 ……僕に何が出来る——。


 ふと、クレアの手が伸びて僕の顔を包む。


 クレアから僕の唇にキスをする——。

 

 初めての出来事に僕は驚いた。


 クレアはパッと横を向く。


「キスするのって、こんなに恥ずかしいのね……。もう絶対にしない……」


 そう照れているクレアがとても可愛いかった。


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