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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由  作者: 唯崎りいち
第二章 光差す聖堂・仮面の夜

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壊したくないもの

「わ、私がクレア様の代わりに大聖堂に行くんですか〜! 無理ですよ〜!」


 私とルークが泊まっている宿屋にコリン様がやって来てとんでもない事を言う。


「アイゼル様と一緒だし、フェルゼンの大聖堂は仮面舞踏会の街らしく、仮面を被って中に入れるんだ。クレア様とマーシャルなら背格好も髪の色も似てるし、クレア様を知ってる人はここにはいないんだから大丈夫だよ」


 そう言われたらなんとか誤魔化せるとは思うけど……。


 アイゼル様と一緒に……?


 すご〜く、気まずい気がする。


 アイゼル様はクレア様の異母妹のアリシアのお母様を疑っているのよね。

 ちゃんとアイゼル様の口から聞いたわけでは無いけれど、アリシアのお母様はクレア様をずっと虐待していたと聞いている。


 だから、クレア様を愛するアイゼル様が、ルークを使ってクレア様を襲わせた犯人の一味にアリシアのお母様がいると疑うのも分かる。


 ただ、アイゼル様自身も、クレア様を結婚してから6年間も遠ざけていたと言うし……。


 何か複雑な事情があるんだと思う。


 教会を探る件についても、私が元々持っていた教会への不信感と、クレア様が襲われた時に使われた技術が教会のものだったから一緒に調査する事になったけど……。


 それは、クレア様が私とルークを信じてくれたからで、アイゼル様の考えはよく分からない……。


「ルーク」

 私は一歩下がって聞いていたルークに意見を求めた。


「アイゼル様もいるし安全だと思う。犯人に近づけるならマーシャルにやって欲しいけど、何が不安なの?」


「不安と言うか……。ルークが嫌がるんじゃないかと思って……」

 コリン様の前だから、何だか言いづらい。


「何で?」

 ルークは全然気にしてない。


 自分の恋人が他人の妻のフリをするのって嫌じゃないのかしら?


「あはは」

 コリン様が突然、笑い出した。


「ルークとアイゼル様は顔は似てるけど、性格は全然違うんだね! アイゼル様はマーシャルをフリでも妻にするのを嫌がってたのに!」


 コリン様はアイゼル様がクレア様に説得されて渋々と入れ替わりの件を了承したと教えてくれる。


 流石にクレア様が羨ましくなる。

 それだけ一途なアイゼル様にルークが嫉妬しないのも当然だけど……。


「アイゼル様と似てるなんて、俺はあんな美男子じゃないですよ」

 ルークがおかしな事を言うから、私とコリン様は驚いた。

 アイゼル様の王子様然とした輝きは無いけれど、ルークも相当の美男子だ。


 私を揶揄う時のルークは自分の魅力を知ってる様子なのに……。


「アイゼル様以外だったら俺も嫌ですよ。ただ、アイゼル様は、あんな事をした俺を簡単に許してくれる、とても公平な方だから。嫉妬心を向ける相手ではないんです」


 ルークのアイゼル様に向ける純粋な尊敬が伝わる。


 それは私も感じていた。

 クレア様に甘いだけではなく、アイゼル様の公平さが私とルークを受け入れてくれてる。


 皇帝陛下がターニアをアイゼル様の所に預けたのは、アイゼル様のそう言う所を信用してだったのかしら?


 これは、分からない事をアイゼル様に聞く良い機会ね。


 私はコリン様に、クレアさまの代わりに大聖堂へ潜入する事を伝えた。



 コリン様が出て行くとルークが真剣な目で私を見ていた。


「もしかしたら、マーシャルが誤解してるかもしれないと思って」


「アイゼル様の事? それなら、私も尊敬出来る方だと思うし、ルークの気持ちはわかってるつもりよ」

 ルークが嫉妬してくれない! みたいな気持ちはない。


「それだけじゃないんだ。俺はクレア様の事も特別な人だと思ってる」


「え?」


 ルークの真剣な目が事実だと伝える。


「わ、私も、クレア様は特別な方だと思うけど……」


 初めてお会いした時のクレア様の儚い美しさが目に浮かんでくる。


 私も息が止まるくらい見惚れたんだから、ルークが一目惚れしてもおかしくないわ……。


 目の奥がジワっと熱くなる。


「私より、クレア様が好きなの?」


 私は涙が溢れないように、ルークを上目遣いに見て聞いた。


 私を見てルークが優しく微笑んだ。


「誤解してるよ、マーシャル。クレア様とアイゼル様と二人一緒で特別なんだ。絶対に離れられない二人だと見ているから、アイゼル様にマーシャルを取られるなんて心配してないんだよ」


 そう言ってルークは私を抱きしめる。


 思えば、私にとってもクレア様とアイゼル様は二人で一人の存在だった。

 ルークへの想いが見えなくしていた。


「あの二人が、離れるなんてないわね」


 そう言って私はルークを抱き返した。


 私たちの気持ちは一つだった。


「でも、他の男だったら、俺は許さないよ」

 ルークが言う。


「絶対に逃がさないから」

 そう言うルークの顔は、自分の魅力を知ってる人のものだった。


「ふふ」

 私が笑うと、ルークは少し意外そう。


「私の方が逃がさないんだから」


◆◇◆


 私、クレアは、アイゼルとドレスを買いにフェルゼンの通りを歩いた。


 仮面舞踏会の街と言うだけあって、通りには仮面を付けた人々がたくさん歩いている。


「早く私も仮面を着けてみたいわ」

「先にドレスだよ、クレア。マーシャルのサイズに直さないといけないからね」


 アイゼルと腕を組んで何気ない会話をしながら歩くのはとても楽しい。

 だってずっと出来なかったんだもの……。

 6年間の無視の期間は、楽しい時にも少し混じってくる。


 今が楽しいからいいの!

 無理矢理切り替える。


 目当ての店に着くと、色とりどりのドレスが並んでるいた。

 仕立ててもらう時間はないから、この中から私とマーシャルの両方が着れるものを選ぶ。


 ……にしても……、コリンが言っていた通りに変わったデザインの服が多い。


 辺境の城砦で6年間無視されていた時でも、アイゼルが最新のドレスのカタログを贈ってくれていたから、帝都の流行は把握してる。


 比べると、フェルゼンの服はかなり変わっている。


 ——転生者の知識で見ると時代が違う。


 とても短いミニスカートやパンツスタイルの服がある。

 この本のモデルの中世くらいの時代にはありえないデザインだ。


 そう言えば、仮面を被った人の中にはこんな服を着ていた人もいた気がする。

 違和感なく溶け込んでいた。


 仮面舞踏会の特別なスタイルとして、仮装的な要素も混じってる?


 私は仮面舞踏会と言えばイメージするスタイルがあったけど、フェルゼンの仮面舞踏会はちょっと違うみたいだ。


 仮面舞踏会で有名な都市として原作に少しだけ登場するフェルゼンは、イメージの固まらないまま物語の世界で独自の進化を遂げたようだ。


 私が短いスカートのドレスをじっと見つめていると、

「それはダメだよ」

 と、アイゼルが言う。


「変わったドレスだと思っていただけでこれが良いわけじゃ……」


 アイゼルがドレスを手に取り私に合わせてみている。


「マーシャルには合わないだろうが、水色はクレアちゃんに似合う。仮面で顔を隠せば誤魔化せる。

 背中で編み上げになっているから少しふっくらしてるマーシャルともこのまま調整して着れるだろう」


「アイゼル、私とマーシャルの身体のことよく見てる……」


 アイゼルはちょっと止まる。


「……普通に見てたら二人の違いは分かる事だろ。……それに夫が妻の事を見てて何が悪い」


 う、そう言われたら、なんだか恥ずかしくなる。


 後ろに控えたギリアムやミアたちもドレスを真剣に選んでいる。


「この柔らかい生地なら、体型の差もドレープの差で誤魔化せますよ」


「マーシャルちゃんはクレア様より少し背が低いからドレスを引きずってしまうかもしれませんが、パニエの膨らませ方で調整します」


 ヒソヒソと入れ替わりの相談をしながら、購入予定の衣装が山積みになっていく。


 背中が編み上げになったドレスを試着するように渡される。

 ミアに背中を絞めてもらおうと思ったらアイゼルがやってくれた。


「ギリギリまで紐を締めてピッタリなサイズだ。マーシャルなら、少し紐に余裕を持たせなきゃいけないけど、着れるだろう」

 アイゼルは独り言のように言う。


「でも、……アイゼルはドレスになんて興味ないんだと思ってた……」


 夫が妻を気にするって言っても、6年間、私がアイゼルの気を引こうとどんなに綺麗に装っても見てくれなかったのに……。


 潜入捜査に、マーシャルが絡むからこんなに一生懸命になれるのかな……。


「……ずっと綺麗な君を見ないようにしてたんだ……」

 アイゼルが寂しそうに言う。


「やっと君を正面から見れるようになった——」


 そう言ってアイゼルが私の背中にキスをした。


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