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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由  作者: 唯崎りいち
第二章 光差す聖堂・仮面の夜

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仮面の街で、会ってはいけない男

 コリン様をルークの通っている教会近くまで案内する。


 私とルークが一緒に入ると疑われた時に困るので、ここでコリン様とは別れる。


「気さくな方だね」

 ルークがコリン様の後ろ姿を見送りながら言う。


 アイゼル様の従者はみんないい方だけど、真面目過ぎるギリアム様や、無口なダリル様はちょっと話し掛けづらい。


 その点コリン様は話しやすくて、庶民の街にもすっかり馴染んでいた。

 庶民の教会の調査も問題なく出来るだろう。


 フェルゼンの街には、こんな庶民向けの教会が他に2、3ヶ所ある。


 あとは、街の中心に聳え立つ大聖堂——。


 ルークを操ってた上位の教会関係者が居るとすれば大聖堂だけど、私やルークみたいな平民は普段は近づけない。


 近づけるのは、アイゼル様やクレア様。


 大聖堂に向かう前に、上位司祭につながる何かを教会から見つけられたら良かったんだけど……。


「落ち込む事ないよ。マーシャルは俺の治療に使われたホムンクルスの魔力の形を正確に覚えていたんだ。アイゼル様たちの役にはとっくに立ってるよ」

 ルークが優しく笑って慰めてくれるけど、かえってルークの傷がみえてしまう。


 操られてクレア様を襲ってしまったルークの傷——。


 慰める言葉は出てこないけど、私はただルークの腕にギュッと抱きついて歩いた。

 ルークは優しく反対の手で私の手を撫でる。


「変な仮面!」


 通りから男の子の声がする。

 その美貌を隠す為に頭を全部覆ったルークの仮面が奇異に映ったようだ。


 仮面舞踏会の街フェルゼンでは、そこまでおかしな存在ではないけど、子供は素直だ。


 私とルークは顔を見合わせて、クスッと笑う。

 この仮面でロマンチックな雰囲気にはなれない。


「他の教会も見てこようか?」

「うん」


ルークの提案に同意して、私たちは街の大通りに向かって歩き出した。


 仮面を被った観光客が集まる大通りの人の数は帝都よりも多いくらいだ。

 特に通りの派手さは帝都以上だった。


 通りの仮面屋が奇妙さを演出し、服屋は帝都では見ないようなデザインと色の組み合わせのドレスを並べている。


 帝都では着れないけど、この街でならちょっと着てみたい。


 ふと目の前に、ルークを見つける。


 ……ルークは私と腕を組んでいるから目の前に居るはずがない。


 ——仮面だ。


 頭をすっぽり覆う仮面がルークと同じだ。


 以前も感じたこの既視感の正体はこれだったのか。


 ——帝都で。

 ずっと前に、アリシアと街を歩いていた時に声を掛けられた仮面の男。

 帝都では仮面を付けていたら目立つが、アリシアは、彼は顔に怪我があって自分が子供の頃からずっと付けて居ると言っていた。


 ずっとアリシアの母に使えている人だと言うが——。


 今見つけた彼は同じ人だろうか——?


◆◇◆


 僕とギリアムは領主の館の中にいた。


 僕の住む辺境の城砦とはくらべものにならない程の豪華な装飾がされている。


 辺境の父上の居城も豪華だが、それとはまた別な、華美すぎて胸焼けがする悪趣味な装飾だ。


 華やかな仮面舞踏会の街の領主に相応しい応接室には、思った通りの人物が現れた。


「ようこそいらっしゃいました! アイゼル殿」


 領主のフェルゼン卿は狡猾そうな顔を隠し、仮面を被ったような笑顔で僕を迎え入れてくれた。


 僕もまた、“妻に甘過ぎる間抜けな夫”の仮面を被る。


 派手な柄の長椅子に座ると、挨拶もそこそこに本題に入る。

 僕は間抜けな夫らしく、会話をギリアムに任せて室内を観察した。


 過度な装飾以外には変わった物はない。

 装飾も質の良いものではなく派手さを好んでいるようだ。


 辺境からの魚の密猟や細々とした悪事には手を染めてはいるが、皇帝を狙うような事は出来ない、室内の装飾がそう物語っている。


「ご協力いただき、感謝します。フェルゼン卿」

 ギリアムがフェルゼン卿に、教会への調査を黙認させる事に成功して、僕が言う。


 フェルゼン卿の顔には、間抜けな男を出し抜いてやったと言う満足感があった。


 夕食に誘われたが妻が待っていると断った。


 “妻に甘過ぎる間抜けな夫”像にフェルゼン卿はますます気を良くする。

 僕が一刻も早くクレアの元に戻りたいのは本当だから、騙しているのか怪しくなる。


「帰る前に、館内の礼拝堂を見せていただけませんか?」

 僕が言う。


 これにはフェルゼン卿も怪訝な顔をする。


「フェルゼン卿の息のかかった司祭なら信用できる。調査の協力をお願いしたいのです」


 そう言うとフェルゼン卿の顔が明るくなった。

 勝手に調査の状況が向こうから舞い込んで来るのだ、喜ばないわけがない。


 これで僕たちへの監視の目はますますます緩くなるだろう。


◆◇◆


 フェルゼン卿の館の礼拝堂は応接室と違って落ち着いた雰囲気だった。


 礼拝堂を守る若い司祭に挨拶する。


 辺境を悩ませる魚の密漁の件でフェルゼンの教会を調査しているから協力して欲しい。

 そう話すと目の色が変わる。


「もちろん、フェルゼン卿の館の司祭様を疑っている訳ではありません」

 慌てたように僕が言う。


 司祭は後ろに控えていたフェルゼン卿に目配せすると、

「私で良ければ、よ、喜んで協力いたします」

 と、不自然な笑顔を浮かべる。


 この動揺は、さすがに分かりやす過ぎる!


 この司祭が密猟に関わっている事、あるいは魔力を使って実行している当事者なのか、いづれにせよバレバレの反応だった。


 僕とギリアムは無言で、“冷酷な辺境伯の次男”から、“妻に甘過ぎる間抜けな夫”に設定を変えた名采配に安堵した。


 冷酷で冷静な男ならこの茶番は続けられない。

 間抜けな男とその従者だから、この茶番は真実になる。


 クレアがまたしても、僕たちを助けてくれていた——。


◆◇◆


 2つの影がフェルゼンの領主の館から出て行く。

 入れ違いになった礼拝堂で後ろ姿だけは見た。


 輝くような金髪の背の高い男性。


 ——何故こんな場所にアレイウス様がいるのか?


 城塞都市フェルゼンに向かう前に会った時は、また熱を出して寝込んでおられたのに。


 回復して私より先にフェルゼンに着いていたなど考えられない。


 彼はずっと宮廷の籠の鳥だ。


 生まれてからずっと宮廷を出た事がない。


 礼拝堂に入って、さっき出て行った人の事を司祭に尋ねた。


「あの方は、アイゼル様です。北の辺境伯の次男で冷酷な方だって噂でしたが、噂は当てにならないものですね。

 とても間抜け……、いや、奥様思いの愛情深い方でしたよ」


 司祭はホッと撫で下ろしたように言う。

 司祭は、あまり人を見る目はないようだ。


 そうか——。


 あれが辺境伯の次男のアイゼル様か——。


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