狂った運命の歯車は同じ結末に辿り着く【マーシャル編】
アイゼル様に似たルークと休日に帝都に遊びに行った。
帝都には5歳まで住んでいたとはいえ、子供だったからあまり覚えていない。
華やかで賑やかな通りを歩くだけでも楽しかった。
「ルーク、連れて来てくれて、ありがとう!」
私は心からそう思った。
「俺がマーシャルと来たかったんだよ」
ルークの言葉に私はいちいちドキッとさせられる。
ルークは子供の頃に私をいじめていたらしい。
だから、再会して罪滅ぼしに誘ってくれている。
私は近所の子供にいじめられていた記憶はあるけど、ルークが居たかどうか覚えていない。
楽しいけど、ルークの罪悪感を利用しているようでちょっと後ろめたい。
「また、休みの日に一緒に出かけよう」
別れ際に、ルークが誘ってくれる。
「うん!」
後ろめたくても、ルークとまた会えるのが嬉しくて、すぐに返事をする。
「……でも、やっぱり罪悪感を利用してるみたいで、ダメですよね? アレイウス様」
私はオートマタの点検をしながらアレイウス様に聞いた。
「どうして僕が使用人の恋愛相談に乗らなきゃいけないんだ!」
当然のように怒る。
でも、
「……多分、ソイツは罪悪感じゃなくてお前の事が好きなんだろう」
ちゃんと答えてくれる。
「やっぱりそう思いますか!?」
私は喜んだ。
アレイウス様の元で働き始めて数ヶ月。
アレイウス様と私はスッカリ仲良くなっていた。
アレイウス様が言うには、
「コイツを直してくれる奴が居なくなったら困るからな」
と、小さなオートマタのコロロを大事そうに撫でる。
アレイウス様には最初は迫られたりしたけど、私にそう言う興味はなくなったみたいで、オートマタの技術者としてかなり信頼して貰えている。
私がこんな口を皇弟にきけるのも技術と、アレイウス様がオートマタを大切にされる方だからだ。
夕方の鐘が鳴る。
「あ、今日はこれで戻ります。明日はルークと出掛けるので、明後日には報告できると思います!」
そう言って私は扉を開ける。
「別に報告はいらないが、頑張れー」
ちょっと素直じゃなく横を向いてはいるけど、アレイウス様も応援してくれる。
ガチャッ
「あ、ルシアン様!」
扉に先にとても美しい男性がいた。
今日は一人きりだ。
「お久しぶりです。マーシャルさん」
柔和ないつもの落ち着いた微笑みを向けられる。
帰り際にルシアン様や皇帝陛下が尋ねてくる事がたまにあった。
私は最初に会った時とは違って、キチンと挨拶をして入れ違った。
◆◇◆
翌日、いつものようにルークと出掛ける。
自分の気持ちを伝えようと思っていたから少し緊張する。
「今日はどうかしたの? マーシャル」
ルークに聞かれる。
「え!? な、なんでもないよ」
き、緊張し過ぎて私はおかしくなっていたらしい。
なんだかルークが悲しそうな顔をしている。
「俺がいつも連れ出すから、他に用事があった?」
あ、ルークに私が退屈してると思われた?
話すなら今しかない!
「ち、違うよ、ルーク。ルークの方こそ私の為に毎回休みを無駄にしてるでしょう?」
「俺がマーシャルといたいから無駄じゃないよ」
ルークは笑って言う。
「それって私を昔いじめてた罪悪感からでしょ? でも、私、ルークの事を覚えてないのよ。小さな男の子がいたとは思うけど。私が覚えてないんだもん、気にしなくていいんだよ」
「なら、俺も、近所の子に混ざって遊んでただけで、いじめてた事はあんまり覚えてないよ」
「え!?」
「急に居なくなったオートマタ好きの可愛い女の子が居たことしか覚えてないよ。宮廷に若い女の子のオートマタ技師が来たって知って、もしかしてと思って、謝るってキッカケにしただけよ」
「な!?」
「だ、騙したの!?」
驚いて私はそんな事を言っていた。
「騙しては居ないと思うけど、近所のいじめてた子たちに混じってたのは本当だし」
そうだけど、そうだけど!
「ルークって、私の事が好きだったのね」
私は小さい声でつぶやいた。
「そうだよ。気づかなかった?」
真っ直ぐに私を見るルークは少し意地悪そうに笑って言う。
その顔だけだと、いじめっ子じゃなかったって、ちょっと信じられない。
でも、整い過ぎたルークの顔はやっぱりカッコいい。
「そうかなって思ってたけど……」
私は顔が赤くなって、なんだかルークの顔を見れずに小さく言う。
「マーシャルも、俺の事、好きかなって思ってるけど?」
ルークに言われて、顔がカッとますます熱くなる。
「好き……。本当は私が先に言うつもりだったんだよ!」
私は告白の先を越されて、ルークを真っ直ぐ見つめて何故か怒って言っていた。
クスッと笑って、
「マーシャル……! 大好きだよ」
ルークが私を抱きしめた。
私はすごく幸せな気分で抱き返す。
ルークのアイゼル様に似ていると思った顔が私に近づいて、私もルークに近づく。
——アイゼル様に似てるからルークに惹かれたんだと思う。
でも、今はルークが、ルークだから好き!
◆◇◆
「で、門番のアイツとはどうなったんだ?」
ルークと付き合いだして数ヶ月が経っていた。
アレイウス様は思い出したように聞いてくる。
「そ、そんな事、は、恥ずかしくて言えません!!」
私はオートマタの整備の手を止めて赤くなった顔を抑えて言う。
「聞いてもないのに話してたのはお前だろう」
アレイウス様は呆れている。
ジィィィ……
小さなオートマタのコロロも何か言いたげに見えた。
コロロは最初に修理して以来、故障する事なく動いている。
魔石の魔力を十分にしていれば、ずっと動き続けるだろう。
私はルークとうまく行っているし、アレイウス様は相変わらず女性を呼ぶ事はやめないけど、大事なコロロがいて、みんな幸せだ。
こんな幸せが待っているって、帝都に着いた日には想像していなかった。
夕方になり、わたしが戻ろうとすると、
ガチャ
やはり、皇帝陛下がやって来る。
挨拶をして、その場を後にしようとすると、皇帝陛下は私に用があると言う。
◆◇◆
皇帝陛下に呼ばれた先にルークもいた。
「マーシャル! 護衛の仕事って君のことだったのか!」
「護衛? なんの事?」
短く言葉を交わす。
すぐに皇帝陛下がやってきて、用件が伝えられた。
——皇帝陛下ととある女性の間に産まれた赤ちゃんを辺境の城砦まで届けて欲しい——
何故、私たちなのだろう?
選ぶ事も出来ずに私たちは出発する。
——狙われている赤ちゃんを言われるままに届ける為に、私とルークは走った。
けれど——、
ルークが弓に射られて倒れてしまう——
息をしていない——!
ルーク……。
私のルークに触れていた手が震えだす。
何故、こんな事に!?
私は皇帝陛下から託された使命を忘れて、ルークに縋り付く。
そのまま、私と赤ちゃんにも弓矢は向けられていた——。
◆◇◆
倒れた少女と青年を遠くから見つめる2つの影があった。
「またバッドエンドね」
「出会いを阻止してもタイミングを少し遅らせたくらいで、彼女たちを止める事は出来なかったな」
せっかく修理した6体のオートマタが無駄になった。
運命の歯車が狂ったこの世界で、彼女と彼が結ばれる事は止められない。
彼のせいで、物語がはじまらずに終わっていく。
——ねえ、知ってる?
こう言う物語の結末もあったのよ?
あなたが願ったせいで運命の歯車は狂い、物語は終われない——
白い影が彼女たちを覆い、私にもその手を伸ばす。
景色が回転する様に吸い込まれる。
また世界は、はじまりへと戻って行く。
読んでいただきありがとうございます。
44話でも紹介しましたが、44話の続きとして、マーシャルとルークの番外編を書きました。
48話ではバッドエンドを迎えてしまった二人の、本編でも見れない一面です。
R15ですが、心理描写・関係性重視の内容です。
番外編は読まなくても、本編の理解に支障はありません。
引き続き、クレアとアイゼルの物語もよろしくお願いします。




