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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由 〜原作にいない貴族令嬢は世界を変える〜  作者: 唯崎りいち
第一章 忘れていた想い

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白い影が村を飲み込んだ【アイゼル編】

※本話は前話に続き、ホラー要素を含みます

「アイゼル様とここで合流して白い影の話を聞いた後で、結婚式の続く城に戻ったんですよね」

 城砦からの森の道で、コリンが言う。


「そうだ、僕は君たちと城に戻り、結婚式を続けた。そして、翌日に一緒に白い影に消された場所をみんなに見てもらったんだ……」


 僕達は城砦にやって来たターニア、マーシャル、ルークの足取りを確認する為に、城砦に一番近い村まで向かっている所だ。


 ルークが村で白い影を見て、急いで城砦までやって来たと言う。


 あの、6年前の結婚式の日に僕が城から見て以来、ずっと追っている白い影。

 クレアにかかる“呪い”だと、彼女の母親が言うモノ。


「クレア様はご自分にかかっている呪いの事をご存知ないんですよね?」

 ロイスが言う。


「多分、知らないだろう。君たちにも見えなかったように、クレアにも白い影は見えていない」

 僕は答える。


 6年前の結婚式の後で、城下の白い影に消された区画に5人を連れて行った。

 ポッカリと穴が空いたような色のない異様な光景に僕はまた恐怖を覚えた。


「……ここだけ、時が止まっている様な……」

「……な、なんで、アイツは動いて……!」


 ギリアムとグレンも周りを見渡すと、呆気に取られたように立ち尽くした。


 しかし、ロイス、コリン、ダリルには、何があるのか見えていなかった。


 いや、彼らにはいつもの日常の光景が見えていたのだ——。


 正気のない青年が買い物をする様子も、正気のない子供と遊ぶ活発な子供の笑い声が、彼等にはいつもの日常に映っている。


「何がおかしいんですか?アイゼル様?」

「子供たちみんな、無邪気で楽しそうじゃないですか?」


 その様子に僕とギリアム、グレンは恐怖をより一層強くした。


「そうですね……。アイゼル様がクレア様を置いて結婚式を逃げ出すなんて絶対にありません。しかし、それが起こったんです。きっと白い影の話は本当なんでしょう」

 ロイスが言うと、

「ギリアムとグレンにも見えているんだから、嘘だとは思いませんよ」

「本当に呪いなのか、何か別の魔力が働いているのかもしれませんね」

 コリンとダリルも同意した。


 3人は僕達を信じて、冷静な分析をした。

 白い影が見えていないからと言って、3人がおかしくなった訳ではない。


 白い影が見えていない3人の冷静さに、これが何らかの仕掛けで起きている事なのだと、見えている僕達も冷静になれた。


 ——それから数日で僕達は城砦に戻り、クレアも住処を移した。


 ギリアムは僕にクレアと話すように言ったが、僕にはどうしても出来なかった。

 白い影が彼女の継母の言う通りのクレアに“呪い”だとは限らない。

 継母が嘘をついている可能性はある。


 しかし、『私たちはもう限界なの』と言った彼女の言葉は本心かもしれないと思った。


 クレアの継母が、クレアに冷たく当たり出したのは、報告によると僕とクレアが出会った後からのようなのだ。


『——あなたに選ばれた事でずっとあの子は呪われている——』


 僕との出会いで呪われたクレアに嫌気がさし、冷たく当たるようになったと考えることも出来る。


 少なくとも僕には、継母の言ったことが全て嘘だとは思えなかった。


 結婚した事で、僕の事情にクレアを巻き込んでいるのは事実だ。


 白い影がなくても、僕を狙う者がクレアを狙う事は十分に考えられた。



 クレアの継母は、僕達が城砦に戻る少し前に自分の領地へ帰って行った。


「お、お母様……!」

 クレアが必死の思いで継母に何か伝えようとしていた様子を僕は遠くから見ていた。


 継母は彼女を見ない。


「……あ……!」

 彼女の想いが届く様子はなく、痛々しかった。


 これなら、僕と城砦で暮らした方が彼女も幸せだろう——。


 しかし、僕も継母と同じく、彼女を顧みる事はなかった。


 僕はクレアと暮らす城砦から逃げる様に領地を飛び回っていた。


 父である辺境伯は高齢で、後継の兄も病弱。

 辺境の実務をこなすのは僕の役目になっていた。

 クレアと顔を合わせずにいられる理由がありがたい。


 城砦に彼女の気配を感じるだけで僕の心は満たされたが、気を抜くと彼女を抱きしめたい衝動が襲って来る。

 ギリアムにはクレアを守る為に話せないと言ったのに、僕が一番彼女にとって危険なものになっている。


 僕は職務の間に白い影について調べる事も続けた。


 噂がある度に見に行くと、城下町と同じ光景があった。

 しかし、殆ど誰もその事には気付かない。


 気付いて報告した兵士に話を聞いても、他の者に見えない事に戸惑っている。


 極々一部の者にしか、白い影の現象は見えない様だった。


 ロイス、コリン、ダリルも現象が分からないままに手掛かりを求めていた。


「本当に何かが起こっている?」

 定期的にもたらせる白い影の報告書を訝しげにコリンが見つめている。


「信じてくれたんじゃないのか?」

 僕が言うとあわてて言い訳する。

「し、信じてますけど、見えてませんし〜」


 確かに見えない物を確信するのは難しい。

 頻繁な調査に付き合ってくれるだけでも僕は救われている。


「え? あれ? なんだ、これは!」

 コリンが白い影の報告があった場所で叫んだ。

 驚愕の表情で彼も現象を認めていた。


 いつの間にか3人もその現象が見える様になっていた。

 何がキッカケになっているのか分からないが、見える者と見えない者を分ける条件があるのだ。


 僕は、最初に白い影を見た城下町の一画には、辺境城に行く度に訪れていた。

 何か手掛かりがないかと思っての事だが、ある時、その一画が後方もなく消えていた。


 いや、違う。

 驚いた事に、あの色褪せた場所が色を取り戻し、正気に溢れた人が暮らしていたのだ。


 あの正気の無かった青年が人の良い顔で愛想良く買い物し、子供たちは全員が笑い声を上げて駆け回っていた。


 僕は、辺境の白い影が現れた場所を再調査した。

 殆どの場所は変わらず色が失われたままだったが、わずかに元に戻っている場所が確認された。


 少しだけ“呪い”に対する希望が見えた気がした。

 ただ、6年間の調査で分かったのはそれだけだった。


◆◇◆


 城砦に一番近い村は数十人が暮らすだけの小さな集落だった。

 もう少し行った場所に小規模な都市があり、城砦の補給の拠点になっている。


 この村はそれほど重要な場所ではないが、城砦のそばという事で村の規模の割には旅人用の施設が多かった。


 僕とギリアム達の乗ってきた馬を村の入り口にいた男に渡す。

 村には用がある訳でもなく滅多に来ないが、馬を預ける流れは確立されていた。


「数日前に、赤ん坊を連れた男女が訪れたはずだが、いつもの場所に滞在していたのか?」

 ダリルが馬を預けながら男に尋ねている声が聞こえた。


 しかし、僕はもうすでに目の前の光景に目を奪われ全てを把握していた。


 ——村の大部分が色褪せて正気を失っている。


「ルークが見たのは、白い影で間違い無さそうですね」

 ギリアムがすぐ横で囁く。


 男に尋ねていたダリルも唖然と村を見ている。


「赤ん坊を連れた男女なら、いつもの所に泊まってたよ。俺が気付いた時には出発した後だったから、半日もいなかったんじゃないかなぁ。なあ、おまえ」


 男が建物の横に突っ立っていた女に呼びかけた。

 ——女は顔が無かった。


 影で覆われて正気の抜けた顔からは表情が消えていて、彼女の存在に誰も気づいていなかった。


「かみさんも、いつ出発したか知らんそうです」

 男が申し訳なさそうに女の答えを代弁する。


「ありがとう、おじさん」

ニッコリとコリンが人好きする笑顔で礼を言った。


 慣れたものだ。


 白い影に気付かない人たちへの対処は最初の頃は戸惑ったが、正気のない人は相手にせず、話を合わせれば良いだけだった。


「マーシャルさんやルークが持って出れなかった荷物を回収したかったんですが、これでは色褪せて無理でしょうね」

 ギリアムが残念そうに言った。


 色褪せた場所の物は動かせない。

 人も移動はするが、こちらからの干渉は受け付けない。

 これもこの6年間で分かった事だった。


 マーシャルとルークが滞在していた事と、ルークの言っていた白い影は確認できた。

 取り敢えず、この村での最低限の目的は果たした。


「もしかしたら、この村で残ってるのこのおじさんだけかも」

 コリンがつぶやく。


 遠くの方でまばらに人影が見えるが、近くの背景が色褪せている。

 コリンの言う通り、全て白い影に持って行かれたのだろう。


 村の様子をざっと見て周る。

 白い影の新しい手掛かりになり様な事は何もなかった。

 調査らしい調査が出来ないままは、僕たちはおじさんから馬を返してもらうと、出発した。


 マーシャルとルークがここに来る前に滞在した街にも行き、足取りを確認しておきたい。

 白い影は気になるが、マーシャルとルークが何者で、信用できるのかが今は一番の気掛かりだ。


 2人が連れてきた赤ん坊のターニアが、皇帝陛下の子だと言うことは、持っていたペンダントから疑いようがない。

 しかし、2人についてはまだわからない事が多い。


「お気をつけてー!」

 気のいいおじさんが僕たちを見送ってくれる。


 おじさんをたった一人で残していくのは気が引けたが、彼は自分が一人だとは気づいていないのだ。

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