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夜に揺れる静かな幸せ

※本話はホラー要素を含みます

 シスターとミアによるマーシャルへの尋問……、じゃなくて、治癒魔法が終わった。


 幸いマーシャルは健康そのものらしい。

 マーシャルはルークと2人でここへ来た本当の経緯を上手く濁しながら、ルークとの旅のエピソードを語ってくれた。


「ルークくんがターニア様を抱いたマーシャルちゃんを守りながら足場の悪い崖を登るところなんて目に浮かぶようだわ」

 うっとりとミアが言う。


「とってもかっこいい子なのねルークくんって。でも、想像以上に無理をして来たみたいね。やっぱりちゃんと治癒魔法をかけたいわ」

 興味本位に本当の心配が混ざったような事をシスターは言った。


 私も聞いていて、想像以上に過酷なマーシャルの旅路を思い出して胸が傷んだ。


 本の中のマーシャルも同じ道を辿って、崖から滑り落ちながらも必死に赤ちゃんを守るエピソードがあったのだ。


 本の中では1人だったマーシャルにルークが付き添うと、崖から滑り落ちる事なく守られた。

 大変だけど安心出来る旅路になっていた。


 ルークがどれほどマーシャルとターニアの安全に気を配ってここまで連れて来てくれたのか。

 私が夢見た理想の男の子はとても素敵だ。


「やっぱり無理させちゃったし、ルークの事、治癒魔法で診てもらった方が良いですよね」

 心配そうにマーシャルがシスターに聞く。


「そうね。でも、会った事は無いけど、元気そうな様子は聞いてるから、もう少し落ち着いてからでもいいわよ」

 シスターの答えにマーシャルがホッと胸を撫で下ろした。


「ここまで愛されているなら、告白しちゃえば良いんですよ」

 ミアが急になにか言いだした。


「大丈夫! 私も保証しますよ」

 とシスターもニッコリ。


 これがこの二人の本題なのよね。


「いえ、今、告白しなくても、いつか自然に気持ちが通じ合う時が来ますから、焦らなくていいんですよ」

 私が言う。

 二人の興味のために告白を急ぐ必要はないもの。


「クレア様! いつか結ばれるなら、今結ばれてもいいじゃないですか!?」

 ミアに怒られてしまう。


 怒りながら近づくミアがそっと囁く。

「旦那様がルークくんに嫉妬してるんですよ。早くふたりには正式に婚約するなりくっついてもらった方が良いんですよ!」


 シスターも密かに私に話をする。

「城砦の混乱を避ける為でもあるんですよ。クレア様。若い侍女はルークに、若い兵士はマーシャルに夢中です。これだけ美しい二人が恋人も居ないなら、自分がなりたいと言う者は多いのです」

 その通りだと思った。


「今はまだ、2人が夫婦だと誤解している者もいるので、混乱はありませんが、バレるのも時間の問題です」

 マーシャルとルークが夫婦と間違われている事に少し動揺した。


 ルークはわたしがこの世界に招き入れた人間だ。

 それが物語のヒロインと本当に正式に結ばれてもいいのかしら?


 私は、自分がこの物語のヒロインになるって決めたんだし、マーシャルとルークが正式にくっついてくれたら、とっても嬉しい事なんだけど……。


 マーシャルが不思議そうにコソコソしてる私たちを見つめている。


「ねえ、マーシャル。いきなり気持ちを伝えなくてもいいけど、ルークと二人っきりになった時には、自分の気持ちに従って欲しいの」


「クレア様も私とルークの事を応援してくれるんですか?」

 マーシャルにまっすぐな瞳で聞かれて、なんと答えようか迷う。


 今までマーシャルとルークと話していて、お互いに惹かれて合ってる事は十分に感じている。

 けど、私の都合の打算もあって、何か言ったら気持ちを操ってしまうような罪悪感がある。


「そうね。惹かれ合っている2人が結ばれたら、とても嬉しいわ。さっきの話で、マーシャルのルークへの想いの強さも感じたから、2人の気持ちが通じ合う日を信じてるわ」


「クレア様! ありがとうございます!」

 マーシャルは素直に喜んでくれた。


 今は、マーシャルとルークが素直な気持ちで進む道を、私はただ見守って行けば良いと思った。

 ヒロインの座を奪うって決めた私にとっては逃げかもしれないけど。


「クレア様〜」


 ミアとシスターの抗議の視線が痛い……。



 その後、それぞれの仕事に戻って行った


 私は考え事をしたくて庭園を散歩して居た。


 夜中のターニアの部屋の護衛の当番のルークは、休憩時間になったようで外に出て居た。

 隣にはマーシャルが居る。


 素直な気持ちに従って行動したマーシャルと、受け入れたルーク。


 幸せな二人の後ろ姿が眩しくて、その後の時間は私まで幸せな気分で過ごせた。

 アイゼルが戻って来たら、あんな風に一緒に過ごせたらいいな。


◆◇◆


 夜中に目が覚める。


 起きているターニアと遊びたいと昨夜は早めに寝ていたのだ。


 ミアは、明日の朝もいつも通りで早いから、夜中に私が起きても気にせず寝ているように言ってある。


 廊下に出ると流石に暗いが、番をしているルークたちのためにターニアの部屋の扉の前は明るくなっていた。


 マーシャルに直して貰った魔石式のランプのほのかな緑の光を手にターニアの部屋に近づく。

 なんの物音もしない。

 静かな夜だ。


 もしかしたら、ターニアは今日は大人しく寝ているのかもしれないわね。

 それならばルークたちに声をかけて、部屋の中の様子だけ確認して自室に戻ろう。

 夜中にぐっすり眠っているなら、明日の昼間には元気なターニアは会えるもの。


 ——扉が近くなるにつれて違和感があった。


 私に背を向けた人影が一つきりなのだ。

 2人で番をする決まりなのに。


 立っているのはルークのようだけれど……。


 私はルークなのか確認しようと人影の頭の先から足元まで特徴的なものを見つけたくて視線を動かした。

 ——足元には、倒れた人影があった。


「!!」


 悲鳴のように息が漏れる。

 声は出せなかった。


 けれど、気配に立っていた人影が振り返った。


 振り返ったのはルークだった——。


 声をかけて何があったのか聞くべきなのかもしれない。

 けれど、直感的にそれはダメだと思った。


 ——ルークなら、倒れた人を放っておかないわ——


 身体が動き、私は振り返って自室に駆けていた。


 何故、兵士が倒れていたの?

 横にただ立っているルーク。


 ルークが、一緒の番をしていた兵士を襲って倒した。


 ゾッとする答えだけどそれしか考えられない。

 でも、何故?


 部屋の中は?

 ターニアは?


 頭の中で疑問が尽きないが、声が出ない。

 恐怖と驚きで声の出し方を思い出せない。

 助けを呼ぶこともできないまま、もつれる足を必死に動かす。


 自室に入りさえすれば、扉を閉めて逃れられる。

 奥の部屋で寝ているミアを起こして、食堂に続く階段を降りて助けを呼びに行かなくては。


 とにかく、自室へ——。


 ガチャ!

 扉に手をかけて開ける。

 落ち着いてミスのないように強張った手で小さく扉の隙間を開く。

 落ち着いて、でも素早く、頭の中で繰り返すが手は震えている。

 身体を中に滑り込ませて、振り返って扉を閉める。


 けれど、扉に向き直ったら、目の前にルークがいた。


 ——追いつかれていた。

 息が止まる。


 両手を掴まれて、逃れようと後ずさると、部屋にルークを招き入れる形になった。

 もつれながら必死に抵抗するが、ルークの手は離れない。

 息が荒くなりながら助けを呼ぼうと試みる。


「……いやっ!」


 微かにだけど声が出せるようになった。


「ルーク、どうしたの!?」

 苦しく小さい声だけれど、呼びかけてみる。

 ルークは答えない。


 その時、抵抗しながらもつれてやって来てしまったベッドの上に押し倒される。


 近づいたルークの顔は生気がなく虚ろだった。


 ルーク!

 私はこのルークには言葉が通じない事を悟った。

 ゾワっと全身を恐怖の波が走る。


 一瞬の抵抗をためらった隙に、ルークの手がスカートをたくし上げて脚を撫でながら登ってくる。

 気づくと両腕は頭の上でルークのもう片方の手で固定されて身動きが取れなかった。


 太ももを撫でられる感覚に悲しみが溢れ出す。

アイゼルにも触られた事のない場所を触られている。


「いや、やめて!」

 小さな抵抗しかできないけれど、必死に身体を動かす。

 脚をバタつかせて逃れようとしても、ルークの足を重ねられて動きを抑えられてしまう。


 無駄のない動きに、ルークの心がここにない事が分かる。

 操られた人形のように、ルークの手が私の身体を這う。


 そうしているうちに、ルークの手はお腹の一点の上で止まる。

 グッと容赦のない強さで子供の宿る場所が握られる。


『ここだ』


 低く、くぐもった声が聞こえた気がした。


 ——ルークの声ではない。


 子宮から離れたルークの手が自身の腰を探り、短剣を探り当てる。

 ルークの顔はただ前を向いて、目は虚ろにどこかを見ている。

 きらりと光った刃先が私の子宮の上に高く掲げられる。


 そして、勢いよく振り下ろされた——。


 何が起こっているのか?

 アイゼル……!


 私は呆然と刃先に視線を向けるだけだった。

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