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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由  作者: 唯崎りいち
第一章 忘れていた想い

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救われた命の代償

 翌朝、私が訪ねると、ターニアは相変わらず可愛い寝息を立てて眠っていた。

 ルークの守る扉を通って部屋に入ると、侍女が疲れた様子で静かに案内してくれる。

 きっとターニアはやっと寝た所なのね。


 私は起こさないようにターニアの寝顔を堪能してすぐに部屋を出る。

 ターニアともっと触れ合いたいなら、起きている夜中に会いに来たほうが良いのかもしれない。


 ターニアの部屋の前で番をしているルークに、教会のシスターが長旅の疲れを治癒魔法で癒してくれると伝える。


「俺はもうすっかり元気ですから大丈夫ですよ。マーシャルも元気にしているけど、無理するから。是非マーシャルには治癒魔法をかけてあげて下さい」


 ルークが来ないとシスターがガッカリするだろうと思った。


「ルークは以前、教会で治癒魔法の治療を受けたのよね? 怪我はすっかり治ったの?」


「え、はい……、スッカリ綺麗になってます……」

 ルークには珍しく、歯切れの悪い返事だった。


 昨日、ルークが疲れているように見えるとマーシャルが話していたのも気になったけど、見る限り今は大丈夫そうだ。


「今日はマーシャルだけにするけど、後でルークも一度診てもらってね」

「はい!」


 魔道具の修理をしているマーシャルを見つけて、教会に一緒に行こうと声をかける。


 魔道具の修理が終わったら行きますと言われたが、ルークにマーシャルには教会の魔道具の修理の話をすればいいと聞いていたので話すと、マーシャルの目がキラキラと輝いた。


「教会の魔道具は少し特殊なんです! なかなか実物を見る機会がなくて」

 オートマタ技師としてのマーシャルの好奇心が刺激されるらしい。


 私が、今、マーシャルがしている魔道具の修理は一旦後にさせて欲しいと侍女に言う。


「使ってなかった道具ですから修理はいつでもかまいません、奥様」

 と侍女が微笑んで言う。


 奥様という言葉にドキドキしてしまう。


 この侍女と直接話した事はあまりないけれど、以前から奥様と呼ばれていただろうか?


 今まではどこか他人行儀な壁があった。


 アイゼルと私の仲を見て、私をこの城砦の奥様と侍女たちが認めてくれたのかもしれない。

 彼女も、シスターが言っていたアイゼルと私の仲を心配してくれていた一人なのかしら。


 侍女の温かな視線に、顔が赤くなる。

 

 本当の夫婦になったわけではないけれど、それを説明するわけにはいかないし。


◆◇◆


 庭園を通ってマーシャルと教会へ向かう。

 城砦と教会も繋がって居るけれど、この道から庭園を歩くのが私は好きだった。


 花の香りが風に運ばれてくる。


「あ、帝都にもある花ですね。よく皇弟殿下の所にも飾ってありました」

 とマーシャルが言う。


 赤い美しい花が咲いていた。


「あ、クレア様の前だから言ったのであって、他の人の前では帝都の事は言いませんから! 私もルークも帝都出身の幼馴染でたまたま辺境に来て同じ屋敷に雇われて再会したって事にしてあります! だから、間違えて言ってしまっても、帝都の事に詳しくても大丈夫なんですけど……」


 言ってから、ハッと気づくマーシャル。


「ああ! なんだか墓穴を掘ってますね、私」

 そう言って両頬に手を当てて反省する。

 マーシャルが可愛くて私はクスッと笑う。


 マーシャルは知らないけれど、私は貴方が主人公の物語をずっと読んでいたのよ。

 出会って数日で立場はこの城砦の女主人の私が上だけれど、昔から知ってる大親友のような気持ちになる。


 早口で話すのは本の中でのマーシャルの悩んでいる時の癖だ。


「何か気になる事があるの? マーシャル」

 私が聞くとマーシャルは少し迷ってから言う。


「ターニア様を連れてくる時にルークが怪我をしたのはお話しましたよね。教会で相談したいんですけど、追われていた事を話さなければいけなくなってしまうのでどうしようかと思っていたんです……」


 マーシャルとルークはアイゼルの愛人の子を連れて来た事になっているんだった。

 本当は皇帝陛下の子だから追われていたのだけど。


 アイゼルの愛人の子が追われていたら何か理由がいる。

 そう言えばミアの前でも追われて怪我をしたと話したけれど、あの時は恋愛話に夢中でミアも疑問に思わなかったんだと思う。


 後で思い返せば何か秘密がある事には気づくだろう。

 ミアには本当の事を話したいと思っていたから、良いんだけど、他の者たちへはどうだろうか?


 アイゼルと詳しく口裏合わせが出来ていないことに気づく。


 気持ちが通じ合ったって浮かれてる場合ではなかった。

 アイゼルと話す事が沢山あった。


 きっとアイゼルは考えがあって手を打っているはずだけど、私が間違った事を言ってしまっては仕方がない……。


 マーシャルの事は言えないわ。

 私も発言には注意しないと。


「ルークの治療で何が気になったの? まずは私に聞かせて」

 私は話を戻す。


「……実はルークの傷が深くてホムンクルスが使われたらしいんです」

 マーシャルの告白にゾクっとした。


「もう動けなくなって処分するしかないホムンクルスだったから役に立つならばと無償での治療だったらしいのですが、ルークは気に病んでいて……」


 さっきのルークの一瞬の歯切れの悪さはコレね。


「ホムンクルスはただの人形と言っても、見た目は人間です。ルークにはその命を使ってしまった事が重荷みたいで……。

 オートマタもただ魔力で人間らしく振る舞ってるだけの人形ですが、私には一人一人が違って見えるんです。だからルークの苦しみも分かるんです……」


 確か、昨日の本にもあったけど、教会のホムンクルスが治癒魔法で治せない程の怪我や病気を治す時の素材として使われる事があるのだ。


 手軽に扱えるものではないけど、ルークの怪我はそこまで重かったの?


 ホムンクルスは教会で使役されている使い魔で、教会のシスターとほとんど変わらない仕事をするが、自我のないただの人形。


 たまたま処分の場に居合わせたのを幸運と思って気に病む必要はないのだろうけど……。


 滅多にある事ではない!


 偶然そこに処分されるホムンクルスがいたのは、彼に生きて欲しいって願っていた私のせい?

 

「ルークは心配だけど、この城の教会にはホムンクルスが居ないのよ。辺境にはホムンクルが少なくて、教会でも馴染みがないかもしれないわ」


「もしかしたら、アイゼルの方がホムンクルスには詳しいかもしれないから、ルークの様子は気になるけど、少し待ってもらえる?」


「もちろんです。ルークも時々思い出すくらいで普段は元気ですから。

 実は私の方が気にしてるのかもしれません。ホムンクルスと引き換えにルークの命が助かって良かったと思っているから……」

 マーシャルはどこか悲しそうに遠くを見つめていた。


 マーシャルがオートマタと家族同様に生活していたことを思い出す。


 皇帝陛下の暗殺未遂事件で帝都では大量のオートマタが処分された。多くのオートマタは帝都のオートマタの墓場と言われる場所に眠っている。


 本来の物語では、後にマーシャルがまた動かす事になるのだけど……。


 マーシャルにとって、いくら自我がない人形と言ってもオートマタもホムンクルスも人間と同じなのだ。

 処分される所だったとは言え、好きな人の命を助ける為に他人の命を使ったような複雑な思いがあるのだろう。


「自分の為に命が使われたみたいで嫌なのね。ルークの事、本当に好きなのね」

 私が微笑んで言うと、マーシャルがほほを赤く染めて小さく頷いた。


「これが他の人なら、命を助けるためにホムンクルスの命が使われても気にしなかったと思います。人間の方が大事だから」


「でも、私は、自分の都合でオートマタを処分する人達を軽蔑してた。なのに、ルークの為ならホムンクルスの犠牲も仕方ないって気持ちになったら、やっぱり私も自分の都合でオートマタを見る軽蔑してた人達と変わらないんだなって。自分が分からなくなるんです」


 物語で読んでいたマーシャルの迫害されてきた辛い日々を想像すると、軽蔑してきた人と同じになりたくない気持ちも分かった。


 でも、優しい人もいた事も知っている。


 マーシャルがオートマタを大切にする人達の為に心を込めてオートマタを直すとオートマタも答えて人々と仲良く暮らす。

 そんな物語もマーシャルの半生にはあったのだ。


「ルークがいなくなっていたらと思うと、どんな犠牲を払ってでもルークを守りたくなる。それはただルークの事が好きだからよ。恋すると利己的になるものなのよ」


 私がそう言うとマーシャルは不思議そうに聞いて来る。

「クレア様もですか?」


「そうね……」

 物語を自分のものに変えようなんて利己的じゃなければ出来ないわね。


 こうやってマーシャルを慰めるのも、ルークと別れて、ヒロインの座を奪い返されたくないからでもあるのよ。


「でも、良いのよ、それで。自分が好きで、相手も好きだって言ってくれたなら、2人で幸せになれば良いのよ。

 動けなくなったホムンクルスは可哀想だけどルークがいてもいなくてもホムンクルスの運命は変わらなかったのよ。ルークと一緒に生きるチャンスを貰ったんだもの、感謝して幸せになれば良いのよ!」


 うーんとマーシャルは考えていた。


「クレア様とアイゼル様は想いが通じ合って素敵だから。私とルークはそんなんじゃなくて。ルークが悩んでいるのに、私が一方的にルークが助かって良かったなんて言ってもルークは喜ばないでしょうから」

 自嘲気味にマーシャルが言う。


 物語の中で知っているマーシャルは明るくて前向きで、必然のようにアイゼルと恋に落ちていた。

 こんな風に恋に悩む女の子だったのね。


 意外な一面も可愛いと思った。

 きっと二人は悩みながら距離を近づけて、思いをつなげて行くのね。


「大丈夫よ、マーシャ……」

 私がマーシャルに言葉をかけようとした時、ガサガサと人の気配がした。


「話は聞かせてもらいました!」

 とミアとシスターがいた。

 なんだか嫌な予感がした。


 シスターは私に挨拶するとマーシャルに話しかける。

「初めまして、マーシャル。私はこの城砦の教会でシスターをしている者です。治癒魔法を受けに来ていただけると言う事でお待ちしていました」

 シスターの話ぶりは穏やかだ。

 とてもシスターらしい。


 でも、きっとルークも一緒に来る事を期待して、待ちきれなかったのだろう。

 ミアもきっとそのつもりで、2人で根掘り葉掘りマーシャルとルークに聞くつもりだったのだ。


 2人の恋バナ好きは知っていて、城砦でも何組かのカップルを誕生させているとも聞いていた。

 それでも目の当たりにすると驚くものがある。


 マーシャはそんな事は知らずに、無難に礼儀正しい挨拶をしている。

「恋の悩みも治癒できますからね」

 でも、シスターの言葉に面食らっていた。


「マーシャル、これはルークくんに思いを伝えるチャンスですよ!」

 ミアが言うけれど、見ていると自然に通じあえる2人よ?

 余計な詮索よ……。


 でも、ミアとシスターの前で、マーシャルの深刻な悩みが、ちょっと和らげばいいと思った。

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