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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由  作者: 唯崎りいち
第一章 忘れていた想い

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アイゼルの秘密と宝物になった名前とキス

 アイゼルとずっと居るって決意したのは良いけれど……。

 アイゼルへの想いはまだ私の一方通行なのだった。


 アイゼルが私をずっと好きで居てくれたかもしれないと浮かれていたけれど、これから私の決意を実行する為には、きちんとアイゼルの気持ちを確認しなければいけない。

 アイゼルに確認して、やっぱり私の事なんて嫌いだって分かったらどうしよう?


 私の浮かれた気持ちは急速に萎んでいった。


「まあ、マーシャルちゃんとルーク君は、このまま上手く行くでしょうからいいですが……」

 とミアが言うと、えー、そうでしょうか? なんて、マーシャルが恥ずかしがってる。


「問題があるとすれば、クレア様とアイゼル様です!」

 と、急にまた私の話に戻って来た。


「アイゼル様がルーク君に嫉妬してるなんて、また誤解されたらルーク君が大変な事になっちゃいますよ!」

「た、大変な事って……」

 と私が聞く。


「この城を追い出されるかもしれないって事ですよ!」

「ええっ?」

 とマーシャルが驚いてる。


 アイゼルが? ルークを追い出す?


 この城での6年間、クビにされた人を何人も見て来たけど、理由はちゃんとある。


 アイゼルは結婚前から悪い噂が絶えなかったけど、転生者の記憶がある今なら、使用人をクビにしたり悪い噂を流してた理由が分かる……。


 それとは無関係に、皇帝陛下の子を連れて来たルークをクビにするなんて、まさかとは思うけれど……。


 マーシャルを見ると不安になっていた。

「クレア様〜」

 と助けを求めるような声があった。


「わかりました。アイゼル様と話して来ます」

 私はそう言って部屋を出た。


「ああでも言わないとクレア様はすぐ悩んで悶々としてしまうんです」

 そんなミアの声が聞こえた気がした。

 流石に、長い付き合いなので良くわかっているわ。


 今からアイゼル様の部屋に行く?


 流石にそんな勇気は出なかった。

 何処かで偶然会えれば……、それでも、何を話していいのか分からないわ!


 ウロウロしていても仕方がないし、ターニアに会いたかったのでターニアの所へ行くとルークがもう一人と護衛をしていた。

 いつも会うのはルークだけど、何人かで交代で番をしているらしい。


「クレア様、こんにちは!」

 いつもの屈託のない笑顔で迎えてくれる。


 ルークに他意はないけれど、アイゼルの誤解を思い出して赤面してしまう。


 私がルークを好きなはずないし、ルークが私を好きになる事なんて絶対ないのに!

 アイゼルってば!


 と、ちょうどアイゼルがいた。


 サーっと青くなる私の横で、

「アイゼル様、こんにちは」

 と、ルークは私に向けたのと同じ屈託の無い笑顔をアイゼルにも向けている。


 アイゼルの方は物凄く不機嫌に私を睨んでいた。


「ア、アイゼル! お話があります!」

 私は悩むまもなく、そう言っていた。


◆◇◆


 昨日と同じ東屋でアイゼルと二人で並んでいた。


 ここまでの道もアイゼルと歩いた。

 こんな事も結婚してから一度もなかったので、見かけた使用人が驚いてた。

 二人の間には気まずい時間が流れていて、知らなかったら誰も私たちが夫婦だとは思わないだろうな。


「……あの、ルークの事をまた誤解していませんよね?」

 勇気を振り絞って聞いてみる。


「していない」

 アイゼルから、そっけなく答えが帰って来た。

 何だか怒ってるような気もするけど。

「良かった……」


 これで話が終わってしまった。

 聞きたい事はあるけれど、言葉が出てこない。


「……すまなかった」

 アイゼルが言う。


「6年間も放っておいてしまって」

 まだ怒っているような顔で言う。


「……何か理由があったんですよね?」

「それは……」

 答えてくれない。


「ねえ、アイゼル? 私の事、覚えてますよね?」

 そう聞くとアイゼルは意外そう顔をした。


 沈黙。


 あれ? 完全に忘れられてた!?


「……ふははは」

 アイゼルから乾いた笑いがもれた。


「そうか、そこまですれ違っていたとはな」

 ひとしきり笑ってそう呟くと、アイゼルは私を見つめて言った。


「忘れるわけないだろ、クレアちゃん」


 名前を呼ばれて、一瞬で昔に戻った気がした。


 昔、一緒に遊んだあの本を抱えた男の子が戻ってきた。


 胸が熱くなる。

 アイゼルは私を覚えて居てくれてたんだ。


 でも、だったらなんで?

 6年間も冷たくしていたの?


「私の事嫌いになったの?」


「違う! それは絶対にない! 君はずっと僕の心の支えだったんだ、嫌いになる事なんてない!」


 キュッと胸が締め付けられる。

 アイゼルがそんなふうに思っていてくれたなんて……。


 アイゼルの言葉に嘘はないように思う。

 だったら何故?

 疑問が深くなる。


「じゃあ、ほかに好きな人が?」

「それもない、君以外に好きになった人はいない」


「でも……」

 アイゼルが真剣に言う。

「君を愛してる。今も、昔も、ずっと」


 身体に衝撃が走る。

 まさかアイゼルからそんな言葉が聞けるなんて。


 けど、それなら。


「——貴方が皇帝陛下の弟だからですか?」


 アイゼルの顔色が変わった。


「どうして、それを……?」


 本で読んでいたから。

 病室でずっと読み耽っていた本。

 私が転生者だから、マーシャルと話して思い出したのだった。


「マーシャルの話を聞いたからと、貴方が小さな頃に言っていた事を思い出して、もしかしたらって思ったの」

 転生者だとは言えない。


 けれど、私はマーシャルが体験していない思い出がある。


「兄と病気の弟が居るって言って居たけど、アイゼルにはお兄様しか居ないでしょ?」


 幼い頃のアイゼルと、辺境伯の家族構成。

2つの話を合わせたら、私が気づくのはおかしな事ではない。


「そこまで分かっているのか……」

 アイゼルがため息を吐く。


「ターニアの名前を付けたくなかったのは、何度も名前を変えられる辛さを知っているからだったのね……」

 本来の物語でもアイゼルはマーシャルの連れて来た赤ちゃんへの名付けを拒んだ。

 弟と自分の名前を変えられた運命を呪っていたから……。


「それは違うよ。君が、子供の頃に赤ちゃんに名前を付けたいって言っていただろ?」


「あ!」


 子供の頃、アイゼルと会ったのは妹のアリシアが生まれた直後だった。

 だから、名前を付けるって行為に憧れて——。


『アイゼルって素敵な名前だから誰かに付けても良い?』


 あれをアイゼルは覚えていてくれたの?


『僕の心の支えだったんだ、嫌いになる事なんてない!』


 さっきのアイゼルの言葉が、もっと胸に突き刺さる。

 本当にアイゼルは忘れてなかった、それどころか、私よりもずっと——。


「あの日から、僕の名前は素敵な名前になったんだ」

 そう言ってアイゼルが笑ってる。


 直視できないくらい眩しい笑顔に、私は俯いてしまう。


「そんな風に思っていてくれたならどうして? 私の事を守る為だったの? 貴方も皇帝……」

 アイゼルの腕が近づいたと思ったら、キスされて居た。


「黙って、ここではマズイ。後で部屋で話そう」

確かに、誰かにアイゼルの正体を知られてはまずいと思った。


「アイゼル様」

 ギリアムがアイゼルを呼びにくる。


 私に気付き挨拶するとすぐに行ってしまう。

 私は寂しい気持ちで見送る。


 アイゼルが私を好きだと、愛してると言って、またキスした。

 これで4回目。


 結婚式で1回だけのキスが、もうこの3日で3回。


 ぼーっと中空を見つめていた。


 アイゼルは私との仲を戻そうとしている。

 そう思っても良いのかしら?

 今まで私に冷たかったのは、皇帝陛下の弟だから。

 ギリアムはアイゼルが皇帝陛下の弟だと知っているのかしら?


 とにかく、アイゼルの気持ちを聞いて私は夢見心地でボーッと座っていた。


◆◇◆


「こんにちは、クレア様」

 見ると東屋にグレンが居た。


 あの離婚の提案の日からずっと滞在している。

 何度か会ってはいたけれど、ターニアが来てからは慌ただしく会って居なかった。


 アイゼルとは何か話したりしているのを見かけたけれど……。


 あれ、グレンはターニアの事をどこまで知ってるんだろう?


「私の事は心配なく。アイゼルの事情はよく知って居ますから」

 私の考えを見透かすようにグレンが言う。


「おかげで、明日、アイゼルと一緒に出発する予定だったのですが、今日立つことになりました。クレア様とまたしばらく会えなくなるのが残念です」

「え、アイゼルはまた出掛けるのですか?」


 私が言うと、グレンは残念そうな顔をした。

 ああ、グレンが帰るというのに私ってばアイゼルのことばかりだ。


「やっぱり貴方はアイゼルを選ぶんですか。まだ、今なら引き返す事が出来ますよ?」

 グレンが言う。


「私は貴方となら何処まででも一緒に逃げて良い」

 なんでグレン様はこんな事を言うのだろう?


「……私は、アイゼルとずっと一緒にいます」

 当惑しながら答える。


 もしかして、私を慰めるためだと思っていた、今までのグレン様の言葉も冗談ではなかったの?


「……では、お幸せに。またお会いしましょう」

 そう言ってグレンは行ってしまった。


 私はグレンがこの6年間、話しかけてくれた事で慰められて居た事を思い出して居た。


 そう言えば、アイゼルと婚約する時に知らせに来てくれたのもグレンだった。


 14歳の時に辺境伯の次男と婚約の話が持ち上がって、彼がアイゼルだと知らなかった私に、それが幼い頃に出会ったアイゼルだと知らせに来てくれた。


 初恋の男の子との結婚を夢見ていたけど、違う人と婚約しなければいけない事に落込んでいた私に素敵な夢を届けてくれた。


 ——アイゼルからだと言う、頬へのキスがとても嬉しかった。


 宝物になったと思い出のキスと、さっきのアイゼルのキスが同時に燃える。


 アイゼルとグレンは、昔からとても仲が良いんだもの。

 私の事を純粋に気にかけて居てくれたのよ。

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