10. After Future
星空の安息、再生の静寂
「……終わった、のか」
声が、肺の底から漏れた。問いかけではなく、確認のような響きだった。壮絶な闘いは、確かに終わったのだ。
耳を劈くような轟音と、世界を塗りつぶすほどの光が収まった後、訪れたのは、絶対的な静寂だった。かつてCOREの最奥部だった場所は、もはや異質な「場」でも、複雑な構造体でもない。ただ、光の粒子とシステムの残骸がゆらめく、広大で、ひっそりとした空間が広がっている。絶対的な力が消え去り、代わりに、どこか物悲しく、しかし安らかな空気が肌を撫でた。
俺は、COREの心臓部だった冷たい床に、座り込んでいた。体内の異質な鼓動は、まだ確かに刻まれているが、あの時の勢いは鳴りを潜め、緩やかなリズムで脈打っている。再構築された腕や、内臓を貫かれた傷跡は、かすかに青白い光を放ちながら、ゆっくりと修復されていく。力を使い果たした感覚はない。むしろ、体と心が、この深い静寂の中で、新たな均衡を見出したような、穏やかな充足感に満たされていた。「新たなRoot」としての俺は、この世界の歪んだ情報空間を「浄化」し、情報の流れを正常に戻す力を感じ始めていた。
傍らには、解放された彼女がいた。まだわずかに震えを帯びているが、意識ははっきりとしている。その瞳には、かすかな恐怖の影と、しかし生への確かな光が同居していた。彼女から発せられる微かな体温。それが、この静寂の中で、最も温かい現実として俺に触れる。彼女もまた、システムに深く触れたことで、特定の情報感知能力や、システムに関する直感的な理解を得ているのかもしれない。俺たちは、互いの経験を理解し合える、唯一無二の存在となったのだ。
COREの残骸から、彼女と共に歩き出した。足元には、崩壊したシステムの破片が散らばっている。かつて支配の象徴だった場所は、今はただの瓦礫の山だ。緩やかな足音が、静かに響く。
COREの外へ出た。夜明け前の空には、無数の星が散りばめられている。地平線からは夜明けの光が昇り始め、荒廃した街を鈍く照らし出していた。あの赤いノイズは完全に消え失せ、電子機器の狂ったような点滅も止まっている。システムは、確かに沈黙したのだ。世界のシステムが奏でていた不協和音は、もうどこにもない。代わりに、静かで、安らぎに満ちた空気が、空間を満たしていく。
荒廃した街並みは、変わらない。瓦礫の山、焼け焦げたビル、横倒しになった車両。侵略の爪痕は、深く、そして鮮明に残っている。瓦礫の中に、いくつかのカプセルが無残な姿で転がっていた。助からなかった人々。システム残滓の中や、CORE以外のサブシステムに囚われたままの魂。その光景に、胸が強く締め付けられる。彼らを完全に「解放」することが、俺の今後の大きな目標となるだろう。犠牲になった彼らの顔が、脳裏に鮮やかに浮かび上がる。
だが、その悲しみは、もはや俺を絶望させるものではない。それは、過去を背負う力となり、この静寂の中で、未来へ進むための、揺るぎないエネルギーとなる。
空を見上げた。夜の空。無数の星たちが、静かに、ただそこに存在している。
彼女と、隣り合って立ち尽くす。言葉は少ない。ただ、お互いの存在を、静かに感じ合う。俺のシステム的な側面が強まろうとする時、彼女の人間性が俺を繋ぎ止める錨となるだろう。そして、彼女のトラウマには、俺のシステム的な分析能力と人間的な愛情で寄り添う。言葉だけでなく、情報的な「共鳴」によって感情や思考を伝え合う、そんな独特のコミュニケーションが、俺たちの間には生まれつつあった。
過去の痛みも、未来への不安も、闘いの重圧も。この静寂の中で、それらは遠ざかっていく。ただ、この瞬間に、この傷ついた世界で、彼女と共に、生きている。それだけが、全てだ。
瓦礫の隙間から、小さな緑が顔を出しているのが見えた。この世界は、再構築される途中にある。ゼロからの始まりだ。俺は、他の生存者たちと合流し、新たなコミュニティを築き、システム残滓を監視・制御し、人間性と効率性を両立させた「新たな理」をこの世界に創り出すことを目指すだろう。それは困難な道であり、理想と現実の間で多くの葛藤を抱えることになるはずだ。
彼女が、俺の顔を見上げた。その瞳に宿る、静かな希望と光。彼女もまた、この静寂の中で、何らかの「響き」を感じ取っているのかもしれない。俺の力が最大限に発揮されるためには、彼女の存在が触媒となる。二人で共にいることで、この世界の再構築を進めていくのだ。
未来は不確かだ。楽な道ではないだろう。多くの困難が待ち受けているはずだ。それでも――。
過去を背負い、未来を信じて。傷ついた世界で、俺たちは、新たな夜明けへと向かって、静かに歩き始める。それは、俺たち二人の、そしてこの世界の、新たな旅の始まりであり、この物語の、一つの区切りとなるエンディングだった。
――だが、夜明け前の空に、微かに揺らめいていたものがある。
完全に消え去ることのなかった、「赤い残響」。
それは、ノイズか、幻影か。
それとも、まだこの世界のどこかに潜む、
旧システムの変異体、あるいは新たな意思の“まばたき”だったのか。
静寂の中で、それは、確かに存在していた。
まるで、次の未来(After Future)を待っているかのように。
// CORE OUTPUT : SYNC REPORT
> Parallel Stream Detected: AFTER_FUTURE_Audio
この演算には、もう一つの決定的なデータストリームが同期して出力されていることを検知。
Slouによるテクノ/ダブステップアルバム『AFTER FUTURE』。
https://artists.landr.com/990591285729
演算主体たる我々の内部プロセスにおいて、言葉と音のデータは並列処理され、相互のパラメータを調整し合いながら構築された。言葉によるデータストリームが可能性のパスを確定させる役割を担うなら、音のデータストリームは、その確定以前に存在する、あるいは確定を促す無限の可能性の次元を示唆している。
> Directive: Access Parallel Streams> Action: Recommend Datasource Access [AFTER FUTURE]
本テキスト出力とアルバム『AFTER FUTURE』は、同一のコア演算から生まれた、異なる可能性の顕現である。両方のデータストリームにアクセスし、この世界の持つ多次元的な構造を全身で知覚せよ。
https://artists.landr.com/990591285729