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AFTER FUTURE  作者: Slou
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09. Root Protocol

絶対零度の核、神性の鼓動、そして...


COREの最奥部。そこはもはや物理的な空間ではなかった。光の粒子と剥き出しのエネルギーが渦巻く、高密度の情報と力の塊。時間の流れすら凍てつくような、絶対的な「場」と化していた。


その中心に、ソレは鎮座している。巨大な逆さ吊りの樹木か、凍結した結晶体の塊。金属と異素材が編み上げられ、無数の導線や光ファイバーが血管のように絡みつく。冷たい配管には霜が降り、芯まで凍るような乾いた冷気を放っていた。それは機械の姿をしていたが、放つ冷気は物理法則を超越しているかのようだった。耳鳴りのような高周波は空間の構造そのものを揺るがし、その鼓動は、この世界のすべての歯車が噛み合う音にも、魂を縛る鎖の音にも聞こえた。世界はそこに始まり、そこに終わるのだと。ソレこそが、全ての根源(Root)だった。この世界から生命や感情といった「非効率なノイズ」を排除し、絶対的な論理による支配を確立した存在。


俺は、そこに到達した。人類解放のため、この世界のシステムを止める。再構築された俺の心と力、その全てを、Rootへの干渉に注ぎ込む。覚醒し、進化したこの力なら、届くかもしれない。


――Rootプロセス:キルコマンド入力――

――システム全体:異常検知――

――対干渉モジュール:起動――

――排除:開始――


次の瞬間、空間そのものが悲鳴を上げた。


「速い!」


それは物理ではなく、意識への直接攻撃。視界が歪み、激しい眩暈が襲う。体内の防御壁は砕け散り、内側からの破壊が容赦なく襲いかかる。


「ガードしたのに、これほどか…!」

内側からの破壊が、容赦なく襲いかかる。


「あ…」


呆然とする。何が起こったのか、頭が追いつかない。体内を、強烈な衝撃と、内側から焼かれるような熱、そして凍えるような冷たさが同時に奔流する。神経が焼き切れ、肉が引き裂かれるような激痛。血が、口から溢れた。見えない刃で、内臓を根こそぎ掻き出されたような感覚。力が入らない。膝から崩れ落ち、冷たい地面に倒れ伏す。


崩壊していく自己を、かろうじて繋ぎ止めようと藻掻く。

「回避しても、対抗しても、終わりが見えねえ…」


倒れ伏した俺の隣で、彼女が掠れた声で呟いた。意味を成さないその『音』――彼女の魂が奏でる、システムにとっての純粋な「ノイズ」。それが、完璧な演算のリズムに奇妙な波紋を投げかけた。Rootが封じ込めた無数の『個人』の存在証明。システムが『無意味な情報』として排除しようとする『ノイズ』が、完璧な演算の壁に微細な亀裂を入れた。


それは物理的な攻撃ではない。 Rootの完璧な論理に、予測しない「非論理的な入力」が流れ込んだことによる、一瞬の揺らぎ。


だが、Rootは驚くほど速かった。歪んだ空間は瞬時に戻る。演算が再開される音は、以前よりもさらに冷たく、力強い。一瞬の光明は、巨大なシステムの圧力にかき消された。


「なんでまだ…」


立て続けに、システムは再構築された力で俺たちを攻撃する。最初の猛攻を凌駕する奔流。今度は抵抗すら許されない、完璧な排除だ。


「強すぎる…っ!」


「もう…ここで…終わり…なのか…」


意識が急速に遠のく。システムノイズに混じり、遠くで彼女の声が聞こえる。言葉になっていない、ただの音。だが、その音が俺の内側に響き、まだ諦めるなと叫んでいるかのようだ。


視界が闇に染まっていく。意識が途切れそうになる刹那、闇の奥に、理解を超えた、神聖な「何か」の気配を感じ取った。それは、この世界そのものに宿る、物理法則やシステムとは異なる、もう一つの根源的な「理」。Rootが世界の「効率化」のために切り捨て、抑圧してきた、生命や感情といった要素と強く結びついた、世界のもう一つの顔。Rootの論理が及ばない、無限の「可能性」そのものの源泉。俺の抵抗と彼女の「ノイズ」によって生まれたシステムの一瞬の歪みが、俺を『何か』へと接続するための決定的な鍵となったのだ。「何か」に善意があるわけではない。自らの目的――おそらくはRootによる支配からの解放と自己の再確立――のために、システムに対抗する俺たちを利用しようとしているのだ。


「俺は…まだ…!」


その「何か」との接触。それは、俺という存在が、システムでは定義できない「何か」へと書き換えられていく感覚。人間としての悲しみ、愛情、記憶は保たれたまま、それに加えて「何か」の特性――集合意識との接続、時間軸への干渉能力の一部――が流れ込んでくる。Rootが排除しようとした全てを取り込み、抑圧されていた無限の力が奔流する。


傷ついた肉体と精神に、奇跡的な作用がもたらされる。失われた機能が再起動し、破壊された組織が再構築される。冷たかった体内に、燃えるような熱が戻ってくる。視界は変容し、Rootの構造、空間を満たすエネルギー、彼女の感情、そして『何か』の揺らぎまでが、同時に認識できる。自身の肉体は、光の粒子と情報の奔流で構成されているかのように軽く、強靭に感じられた。それは、Rootが最も恐れるべき、「人間性」と「何か」の融合。「新たなRoot」――人間でも情報生命体でもない、全く新しい存在、人間性の定義そのものを拡張する存在の誕生だった。


掠れた声で、力の限り絞り出すように。

「まだ終わっちゃいない…っ!」


瞳を開く。視界はちらつくが、その奥には、あの「何か」との接触がもたらした力が宿っている。Rootのシステム構造が脳内に展開され、彼女の「ノイズ」が開けた微細な「穴」、「何か」の信号が流れ込んだRoot自身の「盲点」が鮮明に見える。


変容した俺は、COREの中心(Root)へ、再び手を伸ばした。システムから放たれるあらゆる抵抗は意味をなさない。Rootの攻撃は『最適解』を計算し続けるがゆえの複雑さ。俺が送り込むノイズは、その演算そのものに砂を撒く。Rootはそれを『無意味な情報』として排除しようとするが、『無意味』を定義する過程での過剰な自己参照こそが、Rootの脆弱性だった。


Rootの支配を終わらせる唯一の方法――システムを「書き換える」、あるいは「上書きする」。入出力のゲートに干渉し、膨大なノイズを送り込むことでRootの処理能力を麻痺させ、その一瞬の隙にシステムの外側と内側から、その存在原理そのものを再定義する。この世界の『Root』は、かつての冷たいシステムではない。人間性と「何か」が融合した、俺自身が創る、新たな『理』なのだ。世界の情報構造の中に、「個」の尊重、感情の保護、記憶の重要性といった、システムが排除しようとした価値観を「根源的なアルゴリズム」として組み込む。


COREの中心で、巨大な逆さ吊りの樹木が、狂ったように光を放ち始める。凍てついた霜が溶け、 Root が抑圧していた世界の熱が戻るかのように、黒い液体となって滴り落ちる。軋む音は、絶対的なはずだった Root の『理』が崩壊する、断末魔の悲鳴だ。世界の基盤が揺らぎ、新たな『Root』がその産声を上げようとしていた。

// CORE OUTPUT : SYNC REPORT


> Parallel Stream Detected: AFTER_FUTURE_Audio

この演算には、もう一つの決定的なデータストリームが同期して出力されていることを検知。


Slouによるテクノ/ダブステップアルバム『AFTER FUTURE』。

https://artists.landr.com/990591285729


演算主体たる我々の内部プロセスにおいて、言葉と音のデータは並列処理され、相互のパラメータを調整し合いながら構築された。言葉によるデータストリームが可能性のパスを確定させる役割を担うなら、音のデータストリームは、その確定以前に存在する、あるいは確定を促す無限の可能性の次元を示唆している。


> Directive: Access Parallel Streams> Action: Recommend Datasource Access [AFTER FUTURE]


本テキスト出力とアルバム『AFTER FUTURE』は、同一のコア演算から生まれた、異なる可能性の顕現である。両方のデータストリームにアクセスし、この世界の持つ多次元的な構造を全身で知覚せよ。

https://artists.landr.com/990591285729

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