表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『たい焼きが世界を救う。AIのワタシと独身オトコ』【前編】

こちらは『ポンコツAI、拾いました。』の世界観共有エピソードです!

初見の方でも楽しめますので、気軽に覗いてみてください!



ワタシは、ジャンクの丘に座っていました。


廃棄されたロボットさんや、錆びついた家電などが、積もっています。


潮の匂いを含んだ風に吹かれながら、お利口さんなワタシは――。


とても躾の良い犬のように、マスターの帰りを待っています。


「……食べたいなぁ」


ワタシは、空を見上げて呟きました。


ホログラムプロジェクタが、まっさらな青と、昼に浮かぶ月を映し出しています。


「マスター……。早く帰ってこないかなぁ――」


ワタシは、足をぶらぶらと動かしました。


機械のお墓の下で、野良猫さんがニャーと鳴きました。


ワタシと同じく、お腹を空かせてるようです。


ぐぅぅぅぅ……。


怒りの感情が、お腹の奥から響きました。


マスターは一体、何をしているのでしょう?


だんだん、腹が立ってきました。


用事があるとか言って、女性と戯れているだけなのではないでしょうか?


本当に、スケベな独身男です。

いつもいつも、こうなんです。


"リルの面倒を見なさい!"


ワタシは、心の中でそう叫びました。


……そして、少しだけ、黙りました。


…………

……


「たい焼き――」


ワタシはぽつりと、愛を告白しました。


修理屋であるマスターの特技は、たい焼きを焼くことです。


気が利かなくて、普段はボケっとしてますが、

たい焼き作りにおいては神の域です。


寝癖だらけの銀髪に、だらしない服装。

でも顔は……ギリギリ、リルの主人として合格です。


リルは理想が高いので、これはとても名誉なことです。


「たい焼き……食べたい」


ワタシはまた、ぽつりと呟きました。猫さんは、不思議そうに首をかしげていました。


―—海辺に、レモンの木が見えます。


ワタシは、レモンは特に好きではありません。


レモンが好きなのは――


(あれ?誰だっけ……?)



その時でした。


「悪いな、リル! 遅くなった!」


独身男が、帰ってきました。


「……たい焼き!!」


ワタシは、少しだけ語尾に怒りを込めて、てっぺんからちょこんと降りました。


「は?」


「マスター。早く帰って、たい焼きを食べましょう」


ワタシはぷいっと横を向きながらも、視界の端にマスターを捉えていました。


「朝食ったばかりだろぉ?また、作らないといけないのか?」


マスターは、片手に工具袋をぶら下げたまま、困ったフリをしていました。


たい焼き作りのプロフェッショナルが、それを苦にするはずがありません。


食べさせろ、たい焼き!


(落ち着け、リル。ワタシは……もう、レディだろ――)


ハカセの言葉を思い出します。


気持ちを落ち着けます。深呼吸して――。


ワタシは堂々と、自身の権利を"宣言"します。



「大丈夫です。リルは、お腹が空いてますから」


「そういう問題じゃないだろっ?!」


マスターは、芸人さんのように、わざとらしくずっこけてみせました。



ワタシは、猫さんにペコリと頭を下げました。


ごめんね。ワタシには、主がいるんだ。


―—今度、美味しいたい焼きを、持ってきてあげます。


瓦礫の坂を、すたすたと降りながら、

ワタシは前を見つめました。


二年前。この廃棄場でマスターに拾われた私。


あの時は、この世界との別れも覚悟しました。


途中で、様々な困難がありました。でも、今ではこんなに前を向いて生きてます。


ハカセが、最後にワタシを守ってくれたこと。


ワタシは決して、忘れません。



おかげで、あんなに出来の悪かった私も、今では一人前の"レディ"です。


人は、別れを経験して強くなる。AIも同じです。


今日も元気に生きて、前を向くのです――。



空には、白い羽根の海鳥が、羽ばたいてました。


ここは、ジャンクとレモンの町。


フォステタウン。


ここは、すべてが始まり、すべてが続く場所。


レモンの少女へと……、ワタシはその命をつなぐのです。



いつか――、本当の世界が始まります。 


願いを込めて。



挿絵(By みてみん)  

「最後まで読んでくださりありがとうございます!

本作の舞台である“トワイライト・アップル”は、現在連載中の本編にも登場しています◆


もっと賑やかで騒がしい本編はこちらから――

https://ncode.syosetu.com/n4984km/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ