『たい焼きが世界を救う。AIのワタシと独身オトコ』【前編】
こちらは『ポンコツAI、拾いました。』の世界観共有エピソードです!
初見の方でも楽しめますので、気軽に覗いてみてください!
ワタシは、ジャンクの丘に座っていました。
廃棄されたロボットさんや、錆びついた家電などが、積もっています。
潮の匂いを含んだ風に吹かれながら、お利口さんなワタシは――。
とても躾の良い犬のように、マスターの帰りを待っています。
「……食べたいなぁ」
ワタシは、空を見上げて呟きました。
ホログラムプロジェクタが、まっさらな青と、昼に浮かぶ月を映し出しています。
「マスター……。早く帰ってこないかなぁ――」
ワタシは、足をぶらぶらと動かしました。
機械のお墓の下で、野良猫さんがニャーと鳴きました。
ワタシと同じく、お腹を空かせてるようです。
ぐぅぅぅぅ……。
怒りの感情が、お腹の奥から響きました。
マスターは一体、何をしているのでしょう?
だんだん、腹が立ってきました。
用事があるとか言って、女性と戯れているだけなのではないでしょうか?
本当に、スケベな独身男です。
いつもいつも、こうなんです。
"リルの面倒を見なさい!"
ワタシは、心の中でそう叫びました。
……そして、少しだけ、黙りました。
…………
……
「たい焼き――」
ワタシはぽつりと、愛を告白しました。
修理屋であるマスターの特技は、たい焼きを焼くことです。
気が利かなくて、普段はボケっとしてますが、
たい焼き作りにおいては神の域です。
寝癖だらけの銀髪に、だらしない服装。
でも顔は……ギリギリ、リルの主人として合格です。
リルは理想が高いので、これはとても名誉なことです。
「たい焼き……食べたい」
ワタシはまた、ぽつりと呟きました。猫さんは、不思議そうに首をかしげていました。
―—海辺に、レモンの木が見えます。
ワタシは、レモンは特に好きではありません。
レモンが好きなのは――
(あれ?誰だっけ……?)
その時でした。
「悪いな、リル! 遅くなった!」
独身男が、帰ってきました。
「……たい焼き!!」
ワタシは、少しだけ語尾に怒りを込めて、てっぺんからちょこんと降りました。
「は?」
「マスター。早く帰って、たい焼きを食べましょう」
ワタシはぷいっと横を向きながらも、視界の端にマスターを捉えていました。
「朝食ったばかりだろぉ?また、作らないといけないのか?」
マスターは、片手に工具袋をぶら下げたまま、困ったフリをしていました。
たい焼き作りのプロフェッショナルが、それを苦にするはずがありません。
食べさせろ、たい焼き!
(落ち着け、リル。ワタシは……もう、レディだろ――)
ハカセの言葉を思い出します。
気持ちを落ち着けます。深呼吸して――。
ワタシは堂々と、自身の権利を"宣言"します。
「大丈夫です。リルは、お腹が空いてますから」
「そういう問題じゃないだろっ?!」
マスターは、芸人さんのように、わざとらしくずっこけてみせました。
ワタシは、猫さんにペコリと頭を下げました。
ごめんね。ワタシには、主がいるんだ。
―—今度、美味しいたい焼きを、持ってきてあげます。
瓦礫の坂を、すたすたと降りながら、
ワタシは前を見つめました。
二年前。この廃棄場でマスターに拾われた私。
あの時は、この世界との別れも覚悟しました。
途中で、様々な困難がありました。でも、今ではこんなに前を向いて生きてます。
ハカセが、最後にワタシを守ってくれたこと。
ワタシは決して、忘れません。
おかげで、あんなに出来の悪かった私も、今では一人前の"レディ"です。
人は、別れを経験して強くなる。AIも同じです。
今日も元気に生きて、前を向くのです――。
空には、白い羽根の海鳥が、羽ばたいてました。
ここは、ジャンクとレモンの町。
フォステタウン。
ここは、すべてが始まり、すべてが続く場所。
レモンの少女へと……、ワタシはその命をつなぐのです。
いつか――、本当の世界が始まります。
願いを込めて。
「最後まで読んでくださりありがとうございます!
本作の舞台である“トワイライト・アップル”は、現在連載中の本編にも登場しています◆
もっと賑やかで騒がしい本編はこちらから――
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