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閑話3 ある男の顛末

暗く、残酷で、軽くホラーな展開です。読まなくても本編には支障がありません。

73話と74話の間の話です。

 あいつら…絶対に許さない!

 何度も何度も心で呪った。



 ここはジェンテール子爵家の我が部屋である。

 俺は王都の屋敷に戻ってから一歩も外に出られていない。

 家族にはある男達に陥れられ呪いをかけられたと話し、騎士団退任の後は屋敷に引き篭もっていた。


 メイドたちに毛を刈らせる日々。

 俺はいつかこの部屋から出られるのだろうか?



 兎にも角にも憎い!

 彼奴等が憎い!



 ふと、頭の中や言葉で貶しても毛が伸びる事は無いと気付く。

 伸びる速度が増すと言っていたが、何だ、大したこと無いではないか。



 従者を呼び付け、暗部の誰かに彼奴等とガキの暗殺を命じよと指示を出す。

 途端に頭と体中にビリッと電流が走り、毛の伸びる速度が早くなった。


 くそ!

 実行しようとすると加速するのか!


 命じたままにしていたら、時折電流が走り毛の伸びる速度が加速していくので、従者を呼び付け下した命の中止を言い渡した。



 次に解呪魔法の使い手を呼び寄せる。

 何とかせよと命じたが、受けた呪いの力が強すぎて解呪出来ぬと断られた。

 役立たずの無能め!

 腹を立てて足蹴にしたら、また電流が走り伸びる速度が早くなった。



 兄が部屋に来た。

 お前、天罰を受けたらしいな。何をやっている。ジェンテール家の恥め。

 そう言われ、腹が立って殴りかかったら再び速度が早くなった。



 誰か。

 誰か止めてくれ!

 誰でも良い、止めてくれ!



 父が来て、同派閥の伯爵家よりお叱りを受けた。どうしてくれる!恥晒しめ!と、罵られた。

 悪い事などしていないのに。ただいつも通りにしていただけなのに。


 平民の物を奪って何が悪い!

 平民など傷付けても問題無いはずだ!

 俺は貴族なのだ!



 イライラして嫌がる若いメイドを押し倒す。

 すると電流が走り、毛の伸びが更に加速した。



 俺の毛はもうどうにもならないほど伸びるのが早くなっていた。



 本来ならば追放だが、外に出すと一族の恥なので家に置いているだけだ、と兄がわざわざ言いに来た。

 腹が立ったが立ち上がれなかった。


 もうメイドや執事、下働きの者以外誰も来ない。

 俺を可愛がってくれた母上さえも、誰一人顔を出さなくなった。



 今はメイドや執事達が順番に常駐し、伸び続ける毛を刈っていた。

 もう服すら着られぬ有様でベッドに横たわる。



 今日のメイドは新人らしく、ブラシで梳かすのも下手くそだ。



 クンッ



 ブラシが引っ掛かり痛かった。

 日頃のイラつきにカッとして、メイドが毛を刈るために持っていた小型ナイフを奪い取り切りかかった。それと同時に電流が走る。


 メイドは悲鳴を上げながら部屋を出ていったようだが毛で見えないのでわからない。



 シュルシュルシュル…



 毛が擦れ合う音がする。

 部屋中を覆い尽くさんばかりに伸びてゆく。



 シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル



 ほら、もうベッドの高さまで。



 シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル



 すでに上部の壁と天井しか見えない。




 シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル



 ドアの方角から人の声が聞こえるがくぐもっていてわからない。




 シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル



 ああ…もう何も見えなくなった。

 この重みは毛の重みか……。




 シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル




 シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル






 シュルッ


 お  わ  り  ………    ……        …  ・

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