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深海城の隠し月は甘美な毒

 きらきらと輝く水の泡が宝石のように輝くそんな世界が私の世界。私はちょっと変わった存在。くらげ族の中でも異質の存在。何故かというとくらげ族の中で唯一のトリトン様の加護を受け、もう生まれてから200年という月日が経っている。本来くらげ族というのは同種でのみ結ばれ子孫を残す。だが、私の両親は父がベニクラゲ。そして母がミズクラゲという異種混合によって生まれたのが私だ。本来は異種混合の個体は生まれることがないらしい。そもそも、くらげ族は言葉とかそういうものもを理解しない。触手で意思疎通をする種族らしい。そんな中、私の両親は言葉を理解することが出来たらしい。父は死ぬという概念が存在しない細胞が老化したら細胞が新しく生まれ老化した細胞に代わるを繰り返すため死ぬ事がない。逆に母のミズクラゲという種族は寿命がある。そんな違う種族が言葉を交わし恋に落ちた。その結果的に生まれたのが私だ。生まれてすぐに母は寿命が尽きたらしい。父は母が寿命が尽きたときのショックで細胞を作れなくなってしまったそうだ。そんな哀れな海の子どもにトリトン様は祝福をくださったらしい。くらげ族とは離れて父とトリトン様が住まう深海の城で育った。

 父は、私を心から愛してくれた。言葉の意味……歌の楽しみ。そして何より知る楽しみを教えてくれた。部屋にはたくさんの書物そして、部屋の本棚には隠し扉があった。大きくて古い魔導書が置いてあった。普段は気にならないのに生まれてちょうど100年が過ぎたころに魔導書が光って見えた。不思議に思って、そうっと手に取ると本棚が動いて地下に続く階段が現れた。

「こんなところに、階段?なんで?」

 好奇心に惹かれてそっと地下に続く階段を進んだ。薄暗い階段を下ると広い空間があってそこは、まるで満ちゆくは天の水瓶をひっくり返した様に青白い光が溢れていた。とても不思議なものキラキラとした光の粒が降り注ぐ大きな大きな泉があった。そっと近づくと泉の中から青白い光が輝いていた。泉の奥底に光る粒が眠るのが見え掴もうとしたら泉に落ちてしまった。いつも感じている海とは違う。まるで何か神聖なものを纏ったような不思議な水だった。その泉から見た光の粒はどんな宝石より輝いていた。泉の中にあると思った光は大きな大きな月の光が映し出されたものであった。

 この泉から出ると景色が変わった。今まで光の雫だと思っていたものが違って見えた。それは魚の様な人の様な透明で光を通す不思議な存在だった。これが何なのかわからなかった。ふと魔導書を思い出して、慌てて部屋に戻って読みふけった。

 世話役のお姉さまに呼ばれても上の空で、常に魔導書が頭から離れなかった。そんな姿に呆れたトリトン様についに聞かれてしまった。なにがあったのか……一通り話すとトリトン様は、少し呆れたように手に持っているグラスをクルクルと回した。

「お前が見つけたのは、以前……わたしの姉が使っていた隠し部屋だね。取り壊したはずだったんだがね。まだ残っていたとは……そしてお前は何故か風の精のシルフ。水の精ヴォジャノーイからも好かれてしまっているのだな。こっちおいで……お前は夜の女神オイティリオンにも愛されてしまったのだね。」

「トリトン様……それはどういうことなのです?」

「お前はもともと特別な子だからな。言葉を持たない種族から生まれた特別で愛しい子。きっと愛されてしまうのだろう。愛され好かれてしまうのは悪い事ではない。ただ私には教えられないのだ。それがどういう意味を持つのか。仕方ない……姉に頼むか……」

「お父様!!それは、まさかあの魔女にこの子を託すということですか?」

「お姉さま?魔女とは?」

「いい?魔女は怖いのよ。契約を結んではダメ。覚えておいてね。どんなに甘美な言葉にも裏があるのよ。お父様はもう……決められてしまったのですね。」

「そうだよ。この愛しい子は学ぶ必要があるからね。お前には、これをあげよう……海の底で月の光と太陽の光をたくさん蓄え珊瑚たちに祝福をされ磨かれたガラスで出来た貴重なペンだよ。きっとお前を守ってくれるよ。今夜は満月だ泉で身を清めておきなさい。そしたら明日イルカに送らせよう。大丈夫……お前は愛されるべき蜂蜜酒なのだから。」

 トリトン様はそっと、抱きしめてくださった。その大きな身体が少し震えていたトリトン様の寂しい手放したくないという感情が流れ込んで来た。今までにない感覚だ。

 「トリトン様!大丈夫です!きっと帰ってきます……私は、貴方様に加護を頂き本当に感謝しているのです。」

 「そうか……お前は私から見ても可愛い愛しい子なのだ。どの娘たちと変わらず。まだ……たった100歳だというのに旅に出てしまうと思うと複雑なのだ。しかも、あの悪評高い姉にしか教えられないのが難点なんだ。」

 「トリトン様のお姉さまってどんな方なのですか?」

 「あれは食えない方なのだ。以前はお前の使っていた部屋に住んでいたんだが。ここの暮らしが窮屈だったのであろう……いつの間にか出て行ってしまった。姉は魔法に長けてる方でな……魔法は良き隣人たちと良い関係を築くことが必要なんだ。お前は良き隣人に愛されてしまったのだ。良き隣人との付き合い方を間違えてはいけない。そのために学ぶ必要があるのだ。」

 「そのような聡明なお姉さまなのに何故……悪評が……」

 「私の姉は、その……かなり強欲なのだ。魔法を誰かのために使う場合は必ず対価を得なくてはならないらしい……ただその対価があまりにも高いらしくてな。それが悪評の真相だ。だが悪いお方ではない。安心して大丈夫だよ……ほらお前は清めの泉に入っておいで。」

 自室に戻る途中でお姉さまに呼び止められた。

 「私の愛しい子。これを持っていきなさい……これは私が大切にしていた真珠の髪飾りよ。きっと貴女を守ってくれるわ」

 「いいの?お姉さまが大切にしていた物では……」

 「いいのですよ。私からのお守りなのですから……愛しい子……」

 「ありがとうございます……お姉さま。」

 お姉さまに感謝を伝え自室に戻った……自室に戻ると隠し部屋に降りるといつもより月の力が満ちていた。そっと月の力が満ちている泉に身体を沈めると誰かの声が聞こえた。

 

 ―私の可愛く愛しい子……今宵は力が満ち溢れている……こんな夜には愛しい子に祝福を……さぁ、私の名前を愛しい子……―


 名前……名前を知ってる。なぜ知ってるんだろう?確かあなたの名前は

 「モリガン……冬と夜の主モリガン……」

 名前を唱えるとその姿をはっきりと捉えることが出来た。それはとても美しい黒髪を持ち灰色の目をした女神だった。名を唱えるとその女神に祝福の口づけをされた。口づけを受けると月の光の粒が一つ一つが隣人達であることに気づかされた。とても綺麗な隣人達に魅了された。


 ―私の愛しい子よ。其方を見守るとしよう。その代わり冬の訪れには雫の枝を我に持ってくるのだ。いいね……―


 言葉を残すと女神は姿を消してしまった。

 「一体何だったんだろう……名前をなぜ知っていたのだろう……」

 泉の中は、ヒンヤリと気持ちがいい。ずっと入っていたいような不思議な気分になった……しばらくして泉から上がり身支度をした。

 お姉さま方からもらったお守りの数々、そしてトリトン様から貰ったガラスペン……月の光にかざすとキラキラと輝き隣人達が近寄ってきたが隣人たちの声は理解が出来なかった。そっと手を差し伸べるとこの手に隣人たち触れてくれた。

「よし!これで用意は終わった……。朝になったら……。」

 そっと……意識を手放した。はじめて夢を見た……誰だかわからない人が何かを言っている。怖くはない何故だか暖かいような気がした。朝起きるとトリトン様が少しい悲しい顔をしていた。

 「私の愛しい子よ。何かあったら戻ってくるのだぞ。これを、姉に渡しておくれ。」

 「はい。トリトン様……ありがとうございます。それでは、行ってまいります。」

 トリトン様のイルカで5時間ほど来た。そうすると、一人で暮らすには大きくカラフルな珊瑚とイソギンチャクの庭のあるガラスドームの様な家の前で止まったそこには夢で見たアオザメ族の女性が立っていた。きれいな夜空の様な深い青いローブをが印象的だった。イルカから降りると付き添いのものが荷物を降ろしてくれた。

「お前かい?トリトンからの預かりものは…」

「こっちにおいで……おや手紙かい?…………私に瞳を見せてごらん……これはこれは、愛されてしまったのかい……しかも、厄介な古き母性にも見初められてるのかい。従者達よ!トリトンに伝えておくれ。この小さな愛おしい子は責任をもって預からせてもらうよ。この愛おしい子の名は何という?」

「まだ名前はないよ?みんな愛おしい子って呼ぶよ?」

「まったく。あの子は名前もろくに渡してやれないのかい……この子は皆に愛され特別なくらげ族子……可愛い愛しい子よ。我が愛しき隣人達よ、この者に名を与えてよ。愛しき海の申し子の名はオパーレット・シメールの名を授ける」

「オパーレット・シメール……それが私の名前。私だけの名前……」

「おやおや……涙を流して、名前がなかったのだから仕方がないね。まったく……お前たち、ゆめゆめ忘れるな。名を与えられないと言うことは存在あるようでないのと等しいという事を……」

 そういうと抱きしめてくれた。何故か涙が止まらない……理由がわからなくて混乱してしまった。

「シメール落ち着きなさい。大丈夫だから……貴方は愛されているのだから安心しなさい。まったく、トリトンの奴こんな可愛い子を泣かせて。あの、愚弟に伝えなさい!この子は私が弟子とします。ゆめゆめ戻すと思わないでと。そして対価はこの子に必要なものすべて。いいね!シメール……私の名はサメリアだ。まぁ見ての通り鮫族だよ。お前が知りたいことは教えてあげるよ。ほら、早くこっちへおいで。お前たちは、さっさと城にもどりな!!」

 サメリアについて家に入った。家に入ると見たことのない宝石や海藻がたくさんあって、とても不思議な空間だった……きょろきょろしているとサメリアに笑われてしまった。

「シメールそんなにきょろきょろして、珍しいかい?」

「はい。でもなんで私は……貴女に……サメリアさんに預けられたのかなって思って。」

「なんだい。そんなことかい?シメールお前は、生まれながらの蜂蜜酒なのさ。だから隣人たちが寄ってくる……隣人が寄ってくるだけならいいんだけどね~。お前は、神にも愛されてしまっているから厄介なんだよ。神や隣人たちはシメールの為を思って勝手に動くのさ。それが必ずしも良いものとは限らない。だから、付き合い方を覚える必要があるのさ。つまり魔法使いとしての素質があるということだ。だから私に預けられたのさ。愚弟のアイツは魔法を使うのが苦手なのさ……ほら、部屋は二階の部屋を使いな。シルキー案内してあげて」

 シルキーと呼ばれた銀髪の女性に案内されて部屋に入る。ガラス越しにはたくさんの魚たちが泳いで綺麗だった。荷ほどきが一段落してリビングに行くとサメリアさんがコーヒーを飲んでいた。

「サメリアさん。終わりました……あの私は、何をしたらよいのですか?弟子って……」

「そんなに、ビビるんじゃないよ。弟子って言ったって特に何もないさ。そうだね……あえて言うなら魔法の使い方を教えるくらいかね?シメールお前は、私から見たら姪っ子みたいなもんだ。そんな他人行儀な呼び方はやめておくれ。サメリアって呼んで構わない。」

「サメリア……ありがとう……」

「落ち着かないのかい?シメールお前は本当に可愛い子だ。くらげ族で人魚に変異できるのはシメール以外に見たことない。きれいな海を映した水色の髪……深海の宝石のような青い瞳。おや、その長い髪は少し邪魔そうだね。こっちへおいで……」

 近くにいくと髪を梳いて二つのお団子にして頭をポンポンと撫でてくれた。ソファーに座るとシルキーがハーブティーを出してくれた。シルキーについて聞くと家に憑く妖精で家事などの手伝いをしてくれるんだ。女主人と言ったところらしい。



 

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