なぜ私が異世界から召喚された聖女と結婚せねばならぬのだ?
息抜き作品なのでゆるゆるです。
作者は頭からっぽでかいていますのでご容赦ください
「なぜ、異世界から召喚されたという聖女と私が結婚せねばならないのだ?」
今私の目の前には、教会が勝手に呼び出した聖女がいる。
そして私の隣には婚約者であり王太子妃教育のため、成人してすぐに国に来てくれた隣国の皇姫であるシャルロッテがいる。
異世界から召喚されたという少女は赤茶の髪に濃灰色の目を持ち、一般的な周辺国の女性より背が高く、豊満な肉体をしていた。
問題はその聖女服の着方だ。
本来清楚を演出するために肌の露出などなく、体のラインはわかりにくいゆったりした作りのはずが、体にぴったりとアレンジされた聖女服は、胸のあたりが何故か菱形に開いて谷間を強調し、その体のラインを強調する。
彼女はたびたびこの城に来ては、私はいないのかと騒ぎ立ててきた女である。
対してシャルロッテは貴族令嬢らしくすらりと伸びた手足に綺麗なブルネットストレートヘアを結い上げている。
目は淡い紫色でサファイヤのようである。
身長はこの国でも平均的より少し高い程度。
その代わりこの異世界から来た女と違い、下品な風貌ではなくすらりと細い躯体は貴族女性として人目にあまり肌を晒さない真っ当な衣装だ。
少々コルセットがキツそうで心配になるが…
「ですから殿下、異世界から来た聖女様を守り、国に加護を与えてもらうべく歴代の聖女様は王家に必ず嫁いでおりまして」
「それは何年前の話だ? ざっと数えても100年以上も前の出来事だろう?」
この聖女と共に来たこの国の教会を統べる枢機卿が説明するのを途中で遮る。
確かに、シャルロッテが住む国が100年前に異世界から来た聖女と王族が結婚している。
そのため、シャルロッテにも若干ながら異世界から来た聖女の血というのが流れている。
「ですが、そういう決まりがありまして…」
「だから、それが何だというのだ。私はシャルロッテと来年には挙式をする。
にもかかわらず、その素性も分からぬ異世界から召喚された女を手元に置けと教会は言うのか?
この婚約は国同士の契約だ。それを教会が横槍を入れると?」
私がにらみつけると枢機卿は黙ってしまった。
相手側も無理難題を言っているという自覚があるのだろう。
今回の聖女召喚も枢機卿は知らぬところで一部の過激派が強行した出来事である。
100年前ならいざ知らず、国は議会が取り仕切りその最終決定権を持つ身の象徴的な国王である父の後を継ぐ私のもとに、聖女が嫁いだからと言ってどの勢力に対しても国民の態度は何も変わらないだろう。
というのも、聖女だと偽り国を惑わせた女はこの国だけでなく歴史に残る記録だけでも山といる。
あまり良い感情を抱かない者も多いのだ。
「えっと、どうして“アクバー”殿下は私と結婚するのが嫌なんですか?」
「あたりまえのように嫌だが? 君は話を聞いていなかったのか? 私には婚約者がいると言っているだろう」
「でも、政略なんですよね? そこに愛はないわけですから」
「愛が無い? 何故そう思う」
聖女の発言があまりに腹立たしく、言葉をさえぎって質問してやる。
「え、だってさっき政略だって」
「そうだ、政略だ。だがその政略で婚約したのは10年も前の事。
私とシャルロッテはこの10年間、お互いを理解し、尊重しあえる存在となった。
私達の仲は良好だ。そこに愛が無いと何故言える。聖女は予言の力でもあるのか?」
「え、いや・・・えっと」
なぜか聖女がしどろもどろになる。
何なのだこの女は。
「そもそも、今この時代に何故、聖女が必要なのだ枢機卿」
「わ、我が国を取り巻く環境は厳しく、魔物の被害もありますので、聖女の力を借り国に障壁を張ることで民の安寧をですね」
枢機卿も大変だな、苦し紛れの言い訳でしかない。
「王家が民の安寧をおろそかにしていると?
私とシャルロッテの婚約はまさに、その魔物に備えてのものだ。
両国にあったわだかまりを無くした父王達が、国同士の争いではなく、魔物に対しての防衛に注力するための同盟契約のためだと、枢機卿も理解しているはずだが?」
「えぇその通りです“アクディ”様。私も両国の橋渡しの為にこの10年努力してきました」
ここでようやくシャルロッテが口を開いた。
君のこの10年の努力は私もよく見て知っている。
当初は通いで、そして成人後すぐこの国にやってきた君は美しく、将来の王妃にふさわしいと思っている。
君に負けぬよう私もずっと努力をし続けてきたつもりだ。
「再度聞くが、なぜ私がそこの聖女と結婚せねばならぬのか、具体的かつ明確な理由を述べよ。
述べられないのであれば即刻帰ってもらおう」
私の言葉に聖女と枢機卿は結局退室するという選択肢を取った。
聖女は何か叫んでいたが何を言っているのやら、過去の記録にあるような「私はヒロインだ」とか「こんなはずじゃない」とか言っていた。
異世界から誘拐同然でこの世界に連れてこられた聖女ではあるが、聖女としての役割を本当に理解しているとは思えない。
そして、召喚の責任はすべて教会だ。
教会が責任をもって面倒を見るべきで、国がかかわる話ではない。
そもそも、王族との婚姻などなくても聖女は聖女としての仕事を果たせるのだから、明確な理由などない。
それこそ今の時代において、国政に教会の発言力を増やすことも出来ないだろう。
100年前であれば貧民層の意見を吸い上げる役割を果たした教会だが、科学技術が進み、神に対しての信仰心が低下している現在、聖女を使って政治に参画するだなんて時代錯誤も甚だしい。
「よくわからない聖女でしたわね」
「まったくだ。シャルロッテがいるのに挨拶もしなかった。
私自身名乗ってもいなければ名を呼ぶ許可もしていないのに、勝手な名を呼ぶしな」
「記録にある“ゲーム”の世界だと思われたのではないでしょうか?」
「だろうな、私の名前をアクバーと呼んだ。それは曾祖父の名だ。それこそ100年前の王太子の…私は絵姿を見る限り、よく似ているようだからな」
翌年、私とシャルロッテは無事に結婚式を行い、幸せな家庭を築くことができ、国民からも象徴として敬われる存在となり得た。
異世界から来た聖女はずっと私の事をアクバーだと思い込んでいたようで、「イベントが起こらない」だとか、「なんですでに結婚しているんだ」「貴族学校は?」などと愚痴をこぼし、聖女としての仕事もろくにしなかった。
教会が勝手に召喚した聖女に当初は同情的だった国民も、仕事をしない聖女に興味を無くし、教会に対する不信感だけを募らせることとなった。
召喚した教会側は仕方なく彼女の世話を続けるしかないが、年々減るお布施と時代錯誤の浪費をする聖女にいよいよ嫌気がさしたようで、何とか異世界に送り返せないかと苦心していると聞く。
このような事件はあったが、当初の予定通り、両国共同の軍隊によって魔物討伐の効率化が図られ、街道や村々の安全が確保されたことで、互いの国は発展することとなった。
代わりに教会の権威だけが失墜することになったのだった。
ちょーっと直しました