似ている!? 6
私たちは、並んで、校門を出た。
校門の前では、正装した何人かの男たちが、また花束を持って立っている。
今朝の我が家の前と一緒。
そういえば、今、校門前に立っている男たちのうち何人か、朝にも家の前で見かけたような・・・・・・
校門を出た私を見つけて、男たち、わっと近寄ってきた。
『愛してます!』とか、『あなたに夢中です!』とか、『結婚してください!』だとか、口々に歯の浮くようなことをいいながら、私たちに迫ってくる。
いつもなら、学君かありさちゃんと一緒なのに、今日はさすがに学君と一緒に帰る気にはなれなかった。かといって、ありさちゃんは、用事があるとかで既に帰宅した後だったし。
ともかく、日中陽があるうちなら、このおバカな男たちでも、馬鹿な真似をしないだろうという希望的観測で、帰ることにしたのだ。
でも、でも、やっぱり、こんな風に迫られちゃうと、すごく不安になってくる。
本当に、なんとか無事に、家に帰りつくことができるのかしら?
と、ともかく、ここでおびえていたのじゃ話にならないわ!
私のかたわらには、頼りになるか、ならないか分からないけど、ひかりんだっているのだし。
ファイトよ! つかさ!
私、男たちから花束を受け取り、お礼にひとりひとりに笑顔をプレゼント。
途端に、脳裏に声が聞こえてきた。
――お前って、男のこと全然信用してないくせに、やたらと媚を売りまくる、困ったやつだと思っていた。
な、なんですって!
佐野君の言葉を思い出した途端、胸の中にムカムカした気分が広がる。
でも、表面は、優しい笑顔の美少女戦士つかさちゃん。
男たちは、私の愛らしい笑顔に夢中になって、盛んに話しかけてくる。
「ねぇ、これからどこかへ食事に行かない?」
「映画にいこうよ! 映画! いますごくいいのやってるからさ!」
「俺のベンツでドライブいこうぜ! これから海とか気持ちいいぜ!」
はぁ~ 全部間に合ってます! できれば、私の笑顔だけで満足して、私の前から消えてくれない?
「ごめんなさい。私、これから彼女の買い物に付き合うので」
うふ。
なんて、ぶりっ子仮面。自分でも気持ちわる~!
「そう、じゃ、店まで送っていってやるよ!」
「俺、荷物もちしてあげるよ!」
「ついでに、ボクもなにかショッピングしようかな?」
ったく! しつこいんだから・・・・・
ひかりんも見かねたみたいで、
「ねぇ、つかさちゃん、そろそろ急がないと、お店しまっちゃうよ!」
「え、ホント。みなさん、ごめんなさい。私たち、急ぎますので」
私、ひかりんの手をとって、葉桜の坂道を駆け下り始めた。
「あ、待って! 俺もいっしょに!」
「急ぐんだったら、僕の車に!」
「送っていってあげるよ!」
なんて声を振り切って、一生懸命駆けていく。
大量の花束を抱えた美少女たちが、葉桜並木の坂道を、手をつないで走りぬけ、その後ろを正装した男たちが追いかけるなんて・・・・・・
すごくシュールな光景かも。
悪夢にでそう。
私たちがようやく歩道橋までたどり着いた時には、男たちは既に、私たちに追いついていた。
「ねぇ、待ってよ、逃げることないじゃん!」
って、見知らぬ男たちに追いかけられたりしたら、普通の女子高生は、逃げるってぇの!
男たち、私の肩をつかんで、グイッと押しとどめようとする。
「ちょ、ちょっと、放してよ!」
私、抵抗して、腕を振り回した。もちろん、その腕の中には、大量の花束。
その大量の花束が、私の肩をつかんだ男の顔を打った。もちろん、こういう花束、中に多くのバラが含まれているのがお約束。トゲのある綺麗なバラ。
ぐぇ!!!
何人かの男たち、思わぬ痛さにのけぞって、しゃがみこんでやんの!
いいきみだわ!
なんとか、男たちがひるんで、自由をとりもどした隙に、歩道橋を上り、渡った。
でも、歩道橋の上では、また新たな男が、花束を抱えて待っているし。
「あ、じん・・・・・・ お嬢さん、ひさしぶり。こんなところでお会いできるなんて、奇遇ですね」
ん・・・・・・・
頭痛くなってきそう!
今度は、観桜会のときに小芝居打ってきた男だ!
今日は、ハエと一緒じゃないみたい。
「あ、お久しぶりです。こないだは、危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
「いやいや、別に、当然のことをしたまでですよ。気になさらないでもいいですよ」
はい、そうですか、もちろん、全然気にしていませんよ!
「そういえば、すごく喧嘩がお強かったですよね? 私がヘンな男に絡まれていたときに、助けていただきましたし」
「え? ええ・・・・・・」
顔が引きつっているよ。
「私たち、今、ヘンな男たちに追われているんです。助けてください!」
私、そういうと、ひかりんの手を引きながら、その男の横を通り抜けていった。
ついでに、腕の中の花束を全部、その男に押し付けたりして。
「え? えっと・・・・・・」
私、それから一切後ろを振り返らずに、家まで駆けていった。
なんだか、背後の方から、ぐぇ! だの、げぇ! だの、ひでぶ! だの悲鳴が聞こえていたような気もするけど、聞こえなかったことにしよう。
まあ、これで、二度とあの人に会うこともないでしょうしね。
南無阿弥陀仏・・・・・・
ん? もしかしたら、南無妙法蓮華経?
あの人の宗教、キリスト教だったりして、アーメン!