似ている!? 5
それから、私、ショックで記憶がない・・・・・・
次に気がついたら、ちゃんと着替えも済ませていて、呆然と、生徒会室の席に座り込んでいた。
隣で、ひかりん、心配そうに私を見ている。
黒板の前では、熊坂会長がなにか話していた。
「で、あるから、我々は、現状に危機感を持たねばならない! このままでは、栄光あるさく女組が、神宮寺のバカどもにひきづられて、まともな勉強ができなくなってしまいかねない!」
やっぱり、会長も今の授業レベルには、不満がいっぱいって感じだね。
「しかし、前から、バカだバカだとは思っていたが、あいつらがあそこまでバカだったとは・・・・・・」
うん、まったくだ!
よりにもよって、私と学君をいいなづけだなんて、思われていたなんて・・・・・・
なんとか、清貴さんの誤解を解いておかなくちゃ!
「で、だ、これから我々、さく女生徒会として、対策を講じなければいけない! そこで、明日から、ここで自習会・勉強会を行うものとする。各自、放課後、勉強道具を持って、集まるように!」
とにかく、次、清貴さんに会ったら、私と学君はただのいとこ同士なだけで、全然いいなづけとか、そういう関係ではないって伝えておかなくちゃ!
「それから、さく女系の同級生や知り合いで、我々の勉強会に参加したいものがいれば、積極的に声をかけてもらいたい。みんないいね」
部屋の中の女生徒たち、一斉にうなずく。
とにかく、清貴さんが各部活動の指導にくるのは、一日おきで、週3回。今日来ていたってことは、次は、あさって。
あさっては、何が何でも私たちのこと、しっかりと伝えなくちゃ。
テーブルの下で、ぎゅっとこぶしを握ってみたりして・・・・・・
「こらそこ! さっきから、なにブツブツつぶやいてるんだ! ちゃんと私の話を聞いてたのか?」
ポコッ!
熊坂会長に、丸めた紙で殴られてしまった。
今日の生徒会はお開きになり、私たちの周りでは、女生徒たちが、それぞれに帰り支度をはじめたり、友達とおしゃべりをしたりしている。
「ねぇ? つかさちゃん、大丈夫?」
ひかりん、心配そうに私を見ている。
「え? あ、うん、大丈夫・・・・・・」
「そう、そう? でも、その・・・・・・」
なにか言いにくそうに、私のブラウスの襟元を見ているし。
ん? なんだろう? なにか私の襟についているのかな?
「ねぇ、つかさちゃん、それ、裏返し」
一瞬、ひかりんが何を言ったのか、分からなかった。
でも、私の頬に徐々に血が上っていくのが自分でも分かる。
「え? ええ!?」
「つかさちゃん、本当に大丈夫? なにかあったの?」
「ご、ごめん!」
私、慌てて、部屋を飛び出して、近くのトイレに飛び込んだ。
個室に入って、私の着ているものを確認すると、ブラウスは裏返し、スカートは後ろ前だ。
し、しかし、まだ衣替え前で、制服の上着を羽織っている時期で本当によかった。もし、これが夏場、上半身が半袖ブラウスだけの姿だったら。
ぞ、ぞぞぞ・・・・・・
超絶美少女つかさちゃんが、ブラウスを裏返しに着て、ボタンを留めることもせず、前をはだけさせて、学校内を歩いているなんて図。
男の子たちにしたら、夢のような光景なのかもしれないけど、そんなの絶対やだ!
なんだか、なんだか、すごく情けない!
私、どうしちゃったのだろう?
やだ! やだ! やだ!
ブラウスをひっくり返し、急いでスカートを元に戻して、改めて、全身を確認。今度こそ、完全に身なりが整ったはず。私、ひとつ深呼吸して、トイレのドアのノブに手をかけようとした。
と、そのとき、ふいに目に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
え? うそ! なんで?
慌てて伏せた視線の先を、足元めがけて水滴が落ちていくのが見える。
ど、どうしよう・・・・・・
私、ごそごそとスカートのポケットの中を探り、お気に入りのハンカチを取り出す。
それを目の下に当てた。それから、私の意志とは関係なく、唇が動き、私の声が個室の中にあふれるのを耳にした。
清貴さんのバカ!
佐野君のバカ!
学君の大バカ!!
清貴さんなんて、嫌い!
佐野君なんて、大っ嫌い!
学君なんて、大大大っ嫌い!!
男の子なんて、みんな、みんな、みんな、大っ嫌い!!!!
なにが、いいなづけよ!
なにが、もっと素直になれよ!
なにが、まなピーよ!
バッカじゃない!
くだらないわよ!
最低ッ!
みんな、みんな大っ嫌いなんだから!
みんな、みんな・・・・・・
私、両手で顔を覆い、しゃがみこんでいた。
嗚咽がとまらなかった。
ようやく、落ち着き、私がトイレのドアを開けて外に出ると、窓の外の風景は、夕日に赤く染まっていた。
明日は、きっと晴れるわね、なんてぼんやり思いながら、生徒会室へもどってみると、ひかりんがひとり、夕映えの中、ぽつんと椅子に座り読書している。
そういえば、初めてひかりんにあったときも、彼女、読書していたっけ。
「あれ? みんな、もう帰っちゃたの?」
「うん」
「そう、さっきはありがとうね」
私、ひかりんの方を見ずにお礼をいった。ブラウスが裏返っていることを教えてくれたお礼。
「ううん。もう、気分は落ち着いた?」
「え?」
「さっき、トイレで泣いていたみたいだったから・・・・・・」
ひかりん、やわらかく微笑んだ。
「う、うん・・・・・・」
さっき私がつぶやいていたこと、聞かれちゃったのかしら?
「声をかけようか、迷ったけど、かけずに待っていることにしたの」
「そ、ありがとう」
「ううん。いいの。なにか困ったことがあったら、いつでも私に相談してね。いつでも、私、つかさちゃんの味方なんだから」
私、慌てて後ろを向き、顔を上げた。目の端にまた涙が浮かびそうになったから。私の涙をひかりんに見られないように・・・・・・