初恋の終わり 7
どれぐらい、そうして私は泣いていたのだろう?
静かに、泣き声を上げることもなく、ただただ涙をこぼすだけ。
ハンカチを握り締めた手は、涙でベトベトになっていた。
と、突然、場違いな音が、体の奥から聞こえてきた。
ぐぅぅ~~~
え? ウソ! こんなときなのに・・・・・・
こんなに悲しんでいるのに、なんでお腹って減るの?
信じられない!!
と同時に、なにか納得するものも感じていた。
夕食をとらずに学校へ来たのだし、すでに、いつもの夕食時間はとっくにすぎているだろう。
どんなに悲しくても、体は正直に反応するのだ。
「ふっ、ふふふ、ふふふふふ、ふふふふふ」
私、とうとう笑い出してしまった。
すごく滑稽なものがそこにはあった。
「あははは、ははははは、はははははは」
お腹を抱え、足をバタバタさせ、私は一人笑い転げていた。
と、突然・・・・・・
「お、おい? 神宮寺、大丈夫か?」
部屋の隅から、遠慮がちに声がかけられた。
「え?」
ビックリした。もしかして、私が泣いている間に先輩がもどってきていたのかしら?
私が泣いているのを見られたりしたのかしら?
もし、そうなら、私の涙の意味、さとられちゃったのかしら?
そう考えると、その場に固まってしまう。それから、目尻に涙を浮かべたまま、首だけで、その声のした方をみた。
先輩ではなかった。
「佐野君!?」
「大丈夫か、神宮寺? 泣きすぎて、頭おかしくなったのか?」
気味悪そうに私を見ている。
「さっきまで、大人しく泣いていたかと思ったら、急にバカ笑いして、わけ分かんね。本当に、大丈夫か?」
「ど、どうして・・・・・・」
「ん? ああ、そろそろ帰ろうかと思って、念のためここまで様子を見にきたら、お前が泣いていたから、そこに座って、泣き止むのを待ってたんだよ」
部屋の入り口脇の椅子を指差す。
「そしたら、急に大笑いしてさ。気色悪いヤツだな! お前って」
「な、な、なんですって!」
この美の女神・エンジェルつかさちゃんを捕まえて、気色悪いだなんて!
こ、こんな無礼で不愉快な男って、初めてだわ!
絶対、絶対、今の言葉、死ぬまで忘れないからね!
覚えてらっしゃい!
私、佐野君の顔を強くにらんだ。
でも、佐野君、そんな私に、やわらかく微笑みかけて、
「もう立ち直ったみたいだな。そんな顔をできるなら、もう大丈夫。安心したよ」
手を差し伸べてきた。
でも、その手を無視し、立ち上がったのは、ちょっと大人げなかったかしら?
とにかく、私、気取った足取りで、机の上に放り出してあったカギをとって、入り口へ歩いていった。
私の背後で、佐野君、肩を軽くすくめて、ついてきたみたい。
部屋の明かりのスイッチを消し、カギを掛け、廊下を歩きはじめた。
「ほら、神宮寺。そんな顔で学校内を歩いてたら、何事だって思われるから、一旦、顔洗ってこいよ! ほれ、これ使いな」
そういって、投げて寄越したのは、くしゃくしゃになったハンカチ。
あ、そういえば、私、さっきすごく泣いていたのだっけ?
きっと目元を赤く泣きはらして、すごいことになっているかも・・・・・・
きゃぁ~~~
悲鳴を上げながら、近くのトイレに駆け込んだ。それから、洗面台でジャブジャブ顔を洗った。
涙と一緒に、私の想いも洗い流すかのように。
水の冷たさが心地よかった。