初恋の終わり 4
うちに帰り着き、いつものように、4人で私の部屋に集まった。
「なんか、拍子抜けだな」
「うん、そうだね」
「でも、ちょっとホッとしたかも」
「きっと私たちの勝利ね」
なんて、口々に感想を言い合う。
「でも、これで、もう、私が泊り込む必要はなさそうね」
「ああ、そうだな。それに、俺が女装しなくてもよさそう」
「ええ!? あんた、あの格好、結構似合ってたのに~ うちのクラスでも、何人かあの姿見て、まなピーファンクラブに入会した子いたんだよ」
「ぶっ、ファンクラブって! なんだよ、それ?」
「決まってるじゃない! 神宮寺学って変態男がいいっていう、悪趣味でマニアックな頭のおかしな連中のあつまりよ! どこがいいのか知らないけど、あんた、うちの学校の男子じゃ、結構、人気のある方なのよ」
それ聞いて、学君、ニヤニヤしちゃって、いやらしい。でも、ありさちゃん、そんな学君をすごい目でにらんでる。ちょっと怖い。
「そっか、俺って、結構、もてるんだな」
「そうみたいね。きっと、みんな目がどうかしてるのだわ。なげかわしい」
さもいやそうに首をふっちゃって。そんなひかりんをも、物騒な目でありさちゃん見つめてる・・・・・・
こ、怖い!!
「まあ、うちの学校の男子の中で、今は、あんたのファンが一番多いわね。あと、うちのクラスの竹田がいいっていう子も多いかな」
「へぇ~ D組の竹田っていったら、前に、つかさにコクってきたヤツじゃん?」
「え? そうだっけ?」
「ほら、4月のはじめ頃に、ナヨナヨとした感じのヤツで、体育倉庫の裏によびだして、付き合ってくれなきゃ、自殺するとかなんとかほざいていたヤツ」
「う~ん・・・・・・ そんな男子いたっけ? 覚えてない」
「あらら、竹田もかわいそうに。あの後、早まったことをしないように、なぐさめたり、励ましたり、大変だったんだぞ」
「そうだったんだぁ」
「本当に覚えてない?」
「うん」
がっかりしてる。
学君がこんなにがっかりするなんて、実際に、よっぽど大変だったみたいね。
「あんたの女装姿を見てさ、みんなかわいいって騒いでいたわよ」
「う~ん・・・・・・ なんか、それは、微妙にヤだな」
「もうみんな、あの姿に夢中よ」
ひかりん、なにか企んでいるのかしら、うすく口元に笑いを張り付かせて、楽しそうにしている。
「毎朝のあの姿が見れなくなったら、みんながっかりして暴動がおこっちゃうかも」
「ははは、まさか」
「ううん、本当よ。それぐらいみんなあの姿、楽しみにしているのよ」
「そ、そっかぁ~」
学君、照れてるし。
「あんたの女装を見た子たち、みんなあの美少女男子に恋しちゃったって」
「ははは、てれるなぁ~」
「神宮寺学は俺の嫁! とかなんとかいっちゃってさ」
「ん?」
学君、動きが止まった。なんか眉根を寄せて、険しい顔。
「ホント、うちの学校の男子たち、男だろうが女だろうが、見境なしなんだから。バカッみたい!」
「・・・・・・・?」
「なにが、『人を愛するのに、性別なんてつまらないことを気にするのかい?』なのよ! ああ、気持ちワル! あの変態男どもには、むしずが走るわ」
「って、俺のファンってのは、男かい!!」
「当たり前じゃない! どこの世界に、あんたなんか好きになる奇特な女子がいると思うのよ! バカな妄想は捨ててしまいなさい! 変態男には、変態男がお似合いなのよ!」
「な、なにを!」
って、また、喧嘩だ。この二人は、いつも、いつも・・・・・・
そもそも、その手の恋愛感情に関しては、ひかりんには、四の五の言う資格がないと思うのですけど。私としては。
まさに、人を愛するのに、性別なんて気にしなかったのではなかったっけ?
で、でも、ありさちゃんのひかりんを見る目に、ますます殺気が・・・・・・
こ、こ、怖すぎる~!!!
「それは、そうと、学君」
「え? なに?」
「日曜日、清貴さん、ヒマかどうか分からない?」
学君、目をぱちくりさせる。
ありさちゃんも、ひかりんも、私の唐突な質問を、なにごとって様子で見守っている。
学君は、すぐに真剣な表情で、私に向き直った。
この中で、多少なりとも事情を知っているのは、学君だけ。
可能性がないことを承知の上で、まだ清貴さんを追いかけるつもりか? 覚悟はついたのか? って目で訊いてくる。
私も、うんと小さくうなずく。追いかけはしないけど、とうに覚悟は決めてある。
そっか、って小さくつぶやいて、
「たぶん、日曜日の夜なら、空いてると思うよ。大学院休みだし、道場も夕方までだし」
「う~ん・・・・・・ そっか、やっぱり夜でないと、ダメかぁ」
「あとで、道場行くから、清貴さんに訊いてみようか?」
「え? うん、お願い。じゃ、メールで教えて」
「ああ、はいよ」
気安く、請け負ってくれた。
他のふたりは、不思議そうにしているけど、なにも説明はしなかった。
その日の夜。
私のケータイに学君からメールが届いた。
『清貴さん、日曜日は、夜7時以降なら、なにも用事がないらしい。どうする? 清貴さんのケータイの番号か、アドレス、そっちへ送信しようか? それとも、俺が誘う?』
ホント、学君は気がきく。
でも、私、清貴さんのアドレスなら、既に知っている。
『ありがとう、学君。清貴さんのアドレス知ってるから、直接メールしてみる』
学君に感謝のメールを送信して、ケータイに大事に保管してあったデータを呼び出した。
今まで、何度、このアドレスを眺めて、ため息をついたことだろう。
何度、途中までメール文を書き、完成させることもできず、送信もできずに、消したことだろう。
生まれて初めて好きになった人に送る、最初で最後のメール。
ボタンを押しこむ指が震えた。
なんども書き直し、なんども見直して、メールを書き上げた。
『清貴さん、神宮寺つかさです。会って、お話したいことがあります。日曜日の夜7時、今日お会いした学校の裏庭のベンチでお待ちしております』
結局は何の変哲もない文章。無味乾燥なメール。私の気持ちを必死に抑えて、書き上げた。
初めて、清貴さんに送るメールなのだから、もっと感情のこもった感動的な文面になるだろうなって、今まで想像していたけど、書き上げてもなんの感想も湧かなかった。
ただ、淡々と事務的に送信ボタンを押しただけだった。
後は、熊坂会長宛てに、夜の7時になったことを伝えるだけ。
これで、私のできることはすべて、終了。
私は後悔しない。
前を向いてすすむ。決して、後ろを振り返らない!
次の日、目を覚ますと、私のケータイに清貴さんと熊坂会長から了解の返事が来ていた。




