表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/43

初恋の終わり 1

 私の住んでいる町は、思っているより、ずっと小さいみたい。

 次の日、会う人、会う人みんなに、『昨日は大変だったね!』だとか、『辛い目にあったね、かわいそうに!』だとか声をかけられどおし。

 仕舞いには、どういう噂になっているのか、『野良犬にでもかまれたと思って、すっぱり忘れてしまいなさい!』だとかいう人もいた。

 う~ん・・・・・・

 なんか、ヘンな噂が一人歩きしないといいな。

 ともあれ、昨晩は、警察のパトロールがまじめに行われていたみたいで、一晩中、家の前の通りから、なんども職務質問を行っている声が聞こえてきた。

 一応、ありさちゃんが泊まっていってくれたし、今朝も学君と服装を入れ替えて登校したのだけど、いつもの男たち、今日は一人も現れなかった。

 やっぱり、可憐な絶世美少女つかさちゃんってイメージを壊すような、暴力場面を眼前にして、多くの男たちが幻滅してしまったのがひとつの理由。

 それから、犯罪行為に走ってでも、私を手に入れたい! と極端な行動に出てしまうほど執心していた男たちが、実際に誘拐未遂事件を起こし、逮捕されてしまったことも大きな理由かも。

 あの人たちは、朝から、家の前で待ち伏せしていた男たちのリーダー格。そんな人間がいなくなってしまったのは、仲間と固まってないと何もできない、気の小さな彼らにとっては大きな痛手。

 そして、一番大きな理由は、事件を受けて、警察が本気で取り締まろうっていう姿勢を示したこと。

 待ち伏せする男たちっていうのは、本質的には、優柔不断な小心者。警察がパトロールを強化し、頻繁に職務質問するようになれば、おびえて、退散してしまう。

 だって、もし、芯の強い大胆な人間だったら、私が嫌がっているのを分かっていて、待ち伏せたりしないし、好意を受け入れられる可能性がないなら、すっぱりとあきらめて、次の素敵な女の子を口説こうとするもの。

 まあ、もっとも、彼らが、私ぐらい素敵な女の子に出会えるとは思えないけど・・・・・・

 可能性がないのに、いつまでも一人の女の子に執着するなんて、自分では、なにも決めることのできない小心者でしかない。

 とにかく、こんなに簡単に、問題が解決するのなら、私が最初に相談したとき、警察がしっかり動いて、取り締まっていてくれればよかったのに!

 ほんと、警察って、肝心なときに頼りにならないんだから!


 学校では、同級生たちや先生たちが、いつも以上に優しく接してくれて、ちょっとうれしかった。

 それから、昨日の功労者のありさちゃんと島崎君、一時間目の途中に呼び出されて、お昼まで帰ってこなかった。

 お昼休みにもどって来たありさちゃんに尋ねると、市役所へ行って、表彰状をもらい、市長さんと握手してきたんだって。

 その後、地元の新聞記者さんたちに生まれて初めて取材されたなんて、興奮気味に話していたし。

 うんうん、よかったね、ありさちゃん!

 学君も委員長も、なんだか、自分たちのことのように、鼻高々にしている。

 で、放課後、私たちは、いつものように旧館の生徒会室。

 雑用をチャッチャと済ませて、今日も勉強会が始まった。

 みんなは真剣に参考書に取り組み、ノートにカリカリと書き込んでいるけど、私は、いまいち集中できない。

 清貴さんが一目ぼれした相手はだれなのか?

 この秋に予定されている交換留学に参加するかどうか?

 私には、いろいろと考えるべきことがあった。

 みんなと同じように、参考書を広げ、勉強しようとするのだけど、いまいち気分が乗らなかった。

 ついつい窓の方へ目が行き、空を流れる雲が、どんどん変形していくのを眺めていた。

 最初は、ソフトクリームの形、それから、いびつなハート、ウサギがぴょんと跳ねる寸前の姿勢をしたかと思うと、馬がいななき、四分休符なのに、変形は中断されない。

 もちろん、群れ飛ぶパンツなんて見えはしなかったけど・・・・・・

 ふっと、視線を地面の方へさまよわせると、裏庭の植物棚のベンチに人影が見えた。

 もうほとんど満開といってもいいような、見事な紫の花房が垂れ下がる植物棚の下、花房のひとつひとつを確認するかのように、見上げている男性の姿。

 ・・・・・・清貴さん。

 心臓がトクンと跳ねた。

 私、静かに立ち上がり、部屋を出て、廊下へ。

 私ではなく、他のだれかの面影を追い求めている男性のもとへ。

 たぶん、傷ついてしまうかもしれない。

 それでも、私の気持ちはとめられない。

 私、何も考えず、考えようともせず、ずっと憧れ続けた人のもとへいそいだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ