留学!? 6
今日も無事に授業が終わった。
何度も清貴さんのことをふと考えてしまって、先生たちの説明を聞き逃したりしたけど、でも、このレベルなら、別に授業をちゃんと聴かなくても、十分挽回できる。
そんなことより、今日も参考書に集中! 集中!
自分自身に、そう言い聞かせ、清貴さんのことを考えないように、必死に参考書に取り組んだ。
今日は、いつもより、長い一日だった。
授業が終わり、私たちは生徒会室へ、まずは連絡事項の伝達があって、勉強会の開始。
お互いに分からないことや苦手な分野を教えあって、そして、いつの間にかおしゃべりタイム。
今日もグダグダで勉強会は終わった。
そういえば、熊坂会長、梅田先輩のことを結構尊敬しているみたいだけど、先輩がアメリカの大学へ留学するって、知っているのかしら?
「会長、梅田先輩のこと聞いていますか?」
「ん? 梅田会長が、なんだって?」
「あの、今度、アメリカの大学へ留学するって・・・・・・」
熊坂会長キョトンとしちゃって、知らなかったみたい。
「今朝、参考書借り出しに来たら、梅田先輩が来ていて、なんでも向こうの大学から留学の誘いが来たんですって」
熊坂会長、目をまん丸に見開いちゃって、
「え? そうなのか!」
「はい、向こうに留学しているときに書いた小論文が、コンテストで1位になったので、それでお呼びがかかったとか」
「ああ、それでか。まあ、当然だよな。なんてったって、小論文コンテスト優勝だもんな。すごいよなぁ~」
「ええ、すごいですよねぇ」
私も心から感心しちゃう。
「生粋のアメリカ人たちを抑えて、交換留学でアメリカへ渡ったばっかりの会長が、1位をとったんだもんなぁ~」
熊坂会長もなんだか自分が1位になったかのうように、うれしそうな表情している。
「あれは、確か今年の1月だったかな。快挙だっていうので、うちの学校にもなんどか取材が来てたっけ」
「へぇ、そうだったんですか?」
「ああ、私も、会長が留学している間の生徒会長代理というので、インタビューを受けたし。あの時は、結構大きな騒ぎになっていたんだぞ!」
「そう、だったんだぁ」
まあ、そうだろうなぁ。ただの日本の高校三年生がアメリカの小論文コンテストで優勝したのだから。
ん? 高校三年生? 受験生。
「あ、じゃ、梅田先輩は、受験どうしてたんですか? 高校三年生でアメリカへ留学していたなら、受験できなかったのでは?」
「ん? ああ、受験か。梅田会長は、確か、留学前の去年の秋のはじめには、学校の方から推薦入学の内定が出ていたから、別に受験であくせくしなくてもよかったんだよ」
旧さくらヶ丘女子高校は県下でも一、二を争う進学校。優秀な生徒が集まり、毎年、学校の推薦という形で何人かの生徒が、試験免除で大学へ進学できた。
その推薦枠に梅田会長も入っていたらしい。
「さく女の生徒会長になると、希望すれば、推薦もらえるんだけどな。今年は、どうなるか・・・・・・ 神宮寺に推薦枠なんて、割り振ってもらえるのか、どうか・・・・・・」
ちょっと心配そうな表情。
「あ、大丈夫ですよ。会長、優秀ですし。たとえ、推薦枠なんてなくても、どこの大学でも十分、受かっちゃいますよ」
ちょっとリップサービス。
「ん? ああ、ありがとう。でも、推薦枠があると、留学しやすくなるのは確かだからな・・・・・・」
「え? じゃ、会長も留学されるつもりなのですか?」
「ああ、先生たちに教えてもらったけど、神宮寺になっても、交換留学の制度自体が廃止になったわけじゃないから、今年も秋に留学生が派遣されるらしいぞ」
「へぇ、そうなんですか」
「去年は、私、会長代理を務めなきゃいけなかったので、応募できなかったが、今年こそは留学するつもりだ」
「じゃ、梅田先輩の後を追いかけるんですね?」
「はは、かもな。できれば、そうしたいけど、あの人は別格だからな。私は、あの人の見た景色を見て、感じてくるだけしかできないさ」
すこし、遠い目をしてる。
「まあ、なんにせよ、10月の文化祭が終わってからの話なんだけどな」
不意に会長、私に向き直った。
「そうだ、神宮寺、お前も交換留学、応募してみないか?」
「え?」
「ルックスだけでなく、頭の中身の方も、かなり優秀って話じゃないか? お前なら、応募すれば、選ばれると思うが・・・・・・」
「そ、そうですか?」
考えてもいなかった。留学なんて。
でも、日本ではない国の学校。日本では味わえない空気。
怖いような気もするけど、なんだか、すごく魅力的。
「6月ぐらいに募集が始まって、8月までに交換留学生の選考が行われるから、募集が始まったら、改めて教えてやるよ」
「あ、はい、お願いします」
「ああ、分かった。ともかく、9月には、あっちの学校へ通うつもりで、今からしっかり英語だけは、勉強しておけよ」
「はい、そうします」
「それと、こちらから派遣される生徒は、みんな一人ずつ別々の高校へ派遣されるから、普段から、一人で何でもできるようになっていないと、かなりつらいぞ」
「え? みんな同じ高校へ派遣されるのじゃないのですか?」
「はは、みんな同じ高校へ派遣されたら、かたまってグループになっちゃうから、異なる生活体験をし、文化を吸収するって、本来の目的の達成ができなくなっちゃうだろ? そうなると、留学する意味がない!」
「は、はあ・・・・・・」
一気に不安になってきた。
「だから、派遣される学校は、それぞれ別なんだ」
「そ、そんなぁ」
「不安になってきたか?」
私、小さくうなずく。
「だろうな。私も、最初聞いたときは、不安だった。でも、あっちでは、他の学校から来る日本人もいるし、ときどき同じ学校の生徒が集まって、パーティーとかもするみたいだから、それほど心細くはないって梅田会長がおっしゃってたぞ」
「そ、そうなんですか・・・・・・」
「まあ、いい経験だと思って、楽しんでくるのが一番。もし交換留学生に選ばれるなら、いっぱいあちらの生活を満喫してこないとな」
「そ、そうですね・・・・・・」
ど、どうしよう、私、交換留学に応募しようかしら?
それとも・・・・・・
あ、そういえば、会長、今ちょっとヘンなことを言ったような。
私に対しては、9月から留学するつもりで、準備しておけって、言っていたのに、自分自身の留学は10月の文化祭以降とか、なんとか?
「あの、そういえば、さっき、会長、文化祭がどうとかって、なんなんですか?」
「え? ああ、お前たちが留学するのは、9月の向こうで新学期が始まってからだけど、こっちの生徒会の主な仕事が文化祭で終わりになるから、それが終わってからしか、生徒会の幹部は向こうへ行けないんだ」
「ああ、なるほど・・・・・・」
「すくなくとも、文化祭までは、キチンと生徒会の責任を果たさないとな」
熊坂会長、ポンとひとつ自分の胸をたたいた。