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留学!? 5

 そんなことを考えながら、ひとりで旧館にある生徒会室へ向かった。

 学校に着いてから、1時間目が終わるまで、自分の気持ちを整理するだけで精一杯で、参考書を借り出していなかった。

 朝のホームルーム前には、生徒会室へ行って、今日使う分を借り出さなきゃいけないのに。

 私、足早に、旧館の廊下を歩いていく。

 生徒会室の前、用務員室から借り出してきたカギを鍵穴へ差し込む・・・・・・

 でも、

「あれ?」

 今日もドアは開いていた。

 だれか、他にも来ているのかしら?

 私みたいに、朝のホームルーム前に参考書を借り出し忘れた人?

 ん? でも、用務員さん、そんな人が私より先にカギを借りに来たなんて言ってなかったし。

 そもそも、誰かが先にカギを借りているのなら、私がカギをもっていること自体おかしい。

 誰か他に、この部屋のカギを持っていて、自由に出入りできる人といえば・・・・・・

 熊坂会長?

 でも、こんなに朝早くの授業の合間に、麓から上ってくるなんて、ヘン!

 じゃ、だれなのだろう?

 私、深呼吸して、ドアに手を伸ばした。

 そして、大きく開けた。

「失礼します」

 部屋の中へ一歩踏み出した私の視界に、奥の窓際に立つ私服の女性が、ゆっくりと振り返るのが入った。

 だれだか、すぐに分かった。

「あ、梅田先輩」

「あら、神宮寺さん?」

 梅田先輩、一昨日と同じように窓のそばに立っている。

「どうしたの神宮寺さん、忘れ物?」

「あ、はい、いえ。ちょっと参考書借りようと・・・・・・」

「そう、一生懸命勉強しているのね。えらいわ」

「いいえ、そんなことは・・・・・・」

「ふふふ」

 軽く笑って、梅田先輩、裏庭に面した窓の方に向きなおった。

 開いた窓から、風が通り抜けて、彼女の長い髪の毛を揺らす。朝日を浴びて、髪の毛の一本一本が光の粒をまとったようで、思わず見とれちゃうほど綺麗。

 でも、すぐに私、この部屋に何の用事で来たのか思い出した。

 目を二、三度しばたたき、ぺこりとお辞儀をひとつして、奥の部屋へ入っていった。


 奥の部屋。2時間目以降に使う参考書をいろいろ物色し、借り出しの手続きを済ませて、教室へもどるためドアのノブに手を伸ばそうとした。

 そのとき、扉の向こうで、誰かが入ってきたみたい。

「梅田さん、お待たせ。コレね。あっちから梅田さん宛へ届いた書類」

「あ、先生、お手数をおかけします」

「ええ、いいのよ。なんてたって、あっちの大学から直々にお呼びがかかってくるような優秀な生徒を教えたのって、私たちの誇りなんだから。これはまたとないチャンスだし、私は行くべきだと思うけど、あなたにも、今の大学のこととか、いろいろと考えなきゃいけないことがあるだろうから、おうちに帰って、じっくり考えて、ご両親とも相談して、決めなさいね」

「は、はい」

「まだ春なんだし、迷う時間はたっぷりあるわ。しっかり、あれこれ考えて、あなたがベストだと思う道を選択していきなさい」

「はい、ありがとうございます」

「あなたは、あなたの道をしっかりと歩んでいきなさい!」

「はい!」

 え~と・・・・・・

 あっちの大学ってことは、やっぱり外国の大学ってことだよね?

 ってことは、梅田先輩、どっか外国へ留学しちゃうのかな?

 今の話からすると、外国の大学からわざわざ指名されて、留学の誘いが来ているみたいだけど・・・・・・


 扉の向こうで、誰か、たぶん先生が出て行った後、私、おずおずと扉を開けた。

 梅田先輩、分厚い書類を近くの長机の上に置いて、また、窓の外を見ている。

 長いまつげの影を目に宿らせながら、静かに視線を窓の外へ。

 とっても、さびしげ。

「先輩?」

 私、なんとなくドギマギしながら、おずおずと声をかけた。

 梅田先輩の視線が、部屋の中へもどった。私のいる方へ。

「先輩、留学されるのですか?」

「ええ、たぶん」

 ぽつりと答える。

「へぇ~ すごいですね」

「ん? そう?」

「ええ、すごいですよ。それに、向こうの大学からお誘いが来たとか?」

「そう、今、先生と話していたとおりね」

 軽くあごで、机の上の書類をしめした。

「すごいなぁ 日本の高校に通っていても、あっちの大学からお誘いが来るなんて、そんなことあるんですねぇ」

「ああ、私、去年の秋から半年ほど交換留学でアメリカの高校へ通っていたから、そのせいよ」

「え?」

 びっくりして目が丸くなっちゃった。

「向こうの高校に通っていたときに、たまたま、小論文コンテストっていうのがあってね。それに応募したら、1位になっちゃったの。それで、大学から誘いが来たってわけ」

「す、すごい!」

 アメリカでの小論文コンテストってことは、やっぱり英作文。私、高校にいる間に、英語で作文できるなんて自信はまったくない。それどころか、1位をとっちゃうぐらい、論理的な文章、間違いのない文法をマスターするなんて、絶対ムリ!

 梅田会長のこと、尊敬しちゃう!

 私をだますようなことして、写真部からお金を巻き上げているどこぞの会長なんかより、何倍も、すごい人!

 圧倒されちゃう!

「最初は、向こうの通っていた高校へお誘いの書類が届いたらしいのだけど、私、日本に帰った後だったし、公式には、さく女の生徒だったので、こちらへ転送されて、今日、受け取りに来たのよ」

「そ、そうなんですか・・・・・・」

 ほんと、すごい人。

 やっぱり、どこぞの会長さんとは、まったく違う。

 梅田先輩、なにか、ふっと思いついたみたいな表情をした。

「それはそうと、神宮寺さん、もうすぐ休み時間終りになるけど、いいの、こんなところで、のんびりおしゃべりしてて?」

「あ! 遅刻しちゃう!」

 私、慌てて、参考書を抱えなおし、入り口のドアへと向かった。

「ここのカギは、私が閉めていくから、つまづいたりしないよう、足元気をつけてね」

「はい、ありがとうございます。お先、失礼します」

 入り口で振り返って、ぺこりと頭を下げ、廊下をかけていった。

 梅田先輩、ふふふと含み笑いを浮かべたまま、再び窓の方を向いた。

 窓から吹き込む風に、髪をなびかせながら。



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