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留学!? 3

 私たち3人は、やがてゾロゾロとドアを開け、学校へ歩き始めた。

 そのころには、家の前で失神していた男たち、気がついて、よろよろと帰っていく。

 しょんぼりとしちゃって、ちょっとかわいそうな気もしないではないけど、もう、コレに懲りて、二度と私の前に現れてくれないといいな。

 でも、でも、ちょっとそこの電柱に抱きついている男、なに恍惚とした表情浮かべてるのよ!

 まるで、ありさちゃんに投げ飛ばされた学君みたいな表情を浮かべちゃって・・・・・・

『う、うう・・・・・・ 最高!』って、アンタ!

『つかさ様、もっともっと俺をいじめてぇ~!』なんて、寝言を・・・・・・

 ヘンなの!

 で、今日も本多のおばあちゃんとすれ違ったので、挨拶。

「いつもいつも、あんたも大変だね~」

 だなんて、言われてしまった。


 途中、やっぱり何人か道端で伸びていた男たちがいたけど、昨日よりかは断然少ない。

 膝を抱えて、さめざめと泣きながら、『あんな暴力女、二度とごめんだ!』なんて、つぶやいている男もいたので、ちょっぴり喜んじゃった。

 そうそう、あなたたちでは、私とは釣り合わないのよ。

 もっと、あなたたちにお似合いの女たちを捜しなさい!

 そう忠告してやりたいのだけど、声を出したりしたら、変装してるって、ばれちゃいそうな気がして、私、黙って、通り過ぎてきた。

 いつもの交差点で、私たち、学君に追いついた。

 散々暴れたはずなのに、どこも傷めた様子がない学君。

 いつものように、爽やかな笑顔で、

「お、来たな!」

 って手を振ったりして。

 う~ん・・・・・・

 私の顔で、男っぽく笑顔を浮かべて、手を振られちゃうと、つくづく魅入っちゃうよ。

 これは、危険だわ。

 って、ひかりん、なにポッと頬を染めてるのよ! あれは、私じゃなくて、学君なのよ! あんたの言うところの変態ストーカー男なのよ!

 ありさちゃん? 大丈夫? なんか失神寸前って、感じだけど?

 こら! そこの男子、学君は、アンタに手をふってるんじゃないの、耳まで赤くなって、手を振り返したりするんじゃない!

 はぁ~ まったく、もう!


 両側が葉桜並木の坂道。

 ひかりん、家を出てから、ずっと私の腕をつかんで離れなかったのに、学君が強引に間に割って入ってきたら、なぜか大人しく私の腕を放して、ありさちゃんと並んで歩き始めた。

 いつもなら、『なにするのよ!』とか、『近くに来ないで、ヘンタイ!』とか、学君に暴言の数々を浴びせるのに、今日はなし、ヘンなの!

 で、学君、私の隣を歩きながら、小声で話し始めた。

「昨日、あれから道場へ顔出したら、清貴さんがいたんでさ。つかさが聞いたベガの人とかいうのどういう意味か訊いてみたんだけど・・・・・・」

 最初のころは、清貴さん、話をはぐらかして、なかなか話してくれなかった。

 昨日は、学君と清貴さん、二人一組で組稽古をしていたのだが、ふっと学君が、ベガっていうのは、もしかして、清貴さんの大事な人かなにかかって、モノのついでのように口にした途端、清貴さんガードを忘れて棒立ちになっちゃったらしい。

 ちょうど学君が拳を撃とうとした瞬間だったので、もろに顔面にヒット。

 そのまま、倒れてしまった。慌てて、清貴さんの部屋に連れて行って、介抱してあげると、ようやくいろいろと学君に話してくれる気になったらしい。

 なんでも、去年の秋10月、清貴さん、学校の裏庭の植物棚の剪定に園芸業者の人が来たとき、ベンチの移動を手伝っていた。だけど、剪定作業が終わり、ベンチを元に戻そうとしたら、そのベンチには、星を見ていたさく女の制服を着た少女がいた。

 清貴さん、一目ぼれだった。

 笑顔が素敵で、まるで花がこぼれるみたい。

 清貴さん、思わずその少女に、来年の春、つまり、今年の春、植物棚にまきついている花が満開になったころ、また会おうって、約束したそうな。

 で、二人はその一度きりの出会いだけで分かれたわけだけど、清貴さん、肝心のことを尋ね忘れていた。その少女はだれなのか? 

 慌てて、あちこち学校中を探し回ってはみたのだが、二度と、少女に再会することはなかった。

 だから、あのときの約束を思い出し、再び会えることを願って、もうすぐ満開になる植物棚の下で、その少女を待っていたらしい。

 清貴さん、濡れタオルで、顔を冷やしながら、さびしそうに笑っていたそうだ。


「・・・・・・」

 私、言葉を失っていた。

 清貴さんが、私の大好きな清貴さんが、想いを寄せる人だなんて。

 ずっとその面影を追い求める人がいたなんて・・・・・・

 私、鼻をすすり、目をぎゅっとつぶる。

 泣きたい気分。

 隣で、学君、そっと心配そうに私の顔をのぞきこんでいる。

 ここで泣いてしまえば、すごく楽だろうな。

 でも、まだ校門の前、こんなところで、泣いてしまったのでは、女の子のように涙をこぼしてしまえば、私と学君が入れ替わっていること、バレてしまいかねない。

 どこで、どんな風に、私たちのことを男たちが見ているか。

 それに学校では、常に注目の的の私。そんな私が、泣きながら登校すれば、何事か!? って学校中が大騒ぎになっちゃう。

 とにかく、今は泣いちゃダメ!

 私、泣いたりしないで、笑わなくちゃ。

 笑え! 笑え、私! そう、いつものように、だれをも魅了してしまう天使の笑顔・エンジェルスマイル!

「よっ! まなピー」

「つかさちゃん、おはよう!」

 いつものように、友達たちと朝の挨拶を交わす。

「おはよう!」

 満面の笑顔で。私のトレードマークの笑顔で。

 今日も朝から上機嫌なつかさちゃん。

 でも、私の隣で、学君、そんな私を痛々しそうに見守っていた。



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