留学!? 2
登校時間よりも1時間早く学君が我が家にやってきたのは、昨日と同じ。
私、なんどもあくびをして、目をしばしばさせつつ、学君の男くさい制服に着替えた。
学君も、廊下で私の服に着替え、とっくに着替え終わったありさちゃんが、偵察ついでに、朝刊を取りに玄関へ出て、家の前の様子を報告してくれた。
んん・・・・・・
今日も家の前には、男が何人か。
昨日よりはずいぶん減ったとはいえ、今日も男たちが待っていた。ただ、昨日と違うのは・・・・・・
家の前の男たち、みんなプロテクターをつけている。
野球のキャッチャーがつけるようなものや、アメフトの選手用のもの。中には、西洋の甲冑を身につけている人まで。
う~ん。
学君、今日は大丈夫なのかなぁ~?
こんなのを相手にして、学君自身が怪我しちゃわないか、すごく心配。
学君、ムリしないでね?
ひかりんはというと、いつの間にか、台所でママと一緒にいて、みんなの朝食とお弁当を作っていた。
すっかり、ママと仲良しになっちゃって。
「まあ、包丁使い上手! つかさも光ちゃんのつめの垢でも飲めばいいのに」だとか、「そう、そこで隠し味にゴマ油を一滴たらすの」だとか、いろいろとママから教わっているみたい。
「光ちゃん、きっと将来いいお嫁さんになるわね。つかさみたいな子より、光ちゃんがうちの子だったらよかったのにね」
って、ちょっと、ママ! 言っていいことと、悪いことがあるでしょう!
少し傷ついたぞ!
「いえいえ、私もまだまだです。つかさちゃんの代わりなんて、とんでもないです」
って、ひかりん、あんた、私の代わりになろうとしてない?
「ホント、お嫁さんにほしいぐらいだわ」
「えへ、照れちゃうなぁ~ でも、私、喜んで、つかさちゃんのお嫁さんになりますわ、お母様」
「ああ、なんて、いい子なんでしょう。絶対、お嫁に来てあげてね」
「はい、お母様」
二人して、手を取り合って、あさっての方を見上げたりして。
みんなで朝食をとり終わり、身支度を整えた。
順番にトイレを済ませ、準備万端整った。
あとは家を出るだけ。
そんなときに、廊下ですれ違った学君、私に素早く耳打ち。
「昨日のベガの話だけど、清貴さんに訊いてきたぞ」
「え?」
思わず、振り返った私。その視線の先で、無表情な学君がいた。
な、なんだったのだろう?
清貴さんの言っていた、ベガの人って、どういう意味だったのだろう?
やっぱり、七夕のような話だったのだろうか?
学君の顔からは、結局なにも読み取ることはできなかった。
「それじゃ、今日も一丁暴れてくるわ」
「うん、いってらっしゃい。気をつけてね」
「学、今日はあいつらプロテクターつけてるけど、大丈夫?」
「ああ、まあ、何とかなるっしょ。危なくなったら、ありさが助けに来てくれるんだし」
そして、見つめ合う二人、瞳が潤み、頬に血の色が・・・・・・
お、おーい、お二人さん!
「ほら、いつまでもたもたやってるのよ! 早くでかけなさいよ!」
って、ひかりん、傘立てから抜いて、学君を殴った傘、私のお気に入りじゃない!
やめてよ! ひん曲がったりしたら、どうするのよ、もう!
慌てて、ひかりんの手から傘を奪い取って、ひかりんの手が届かない私の背後へ。
「っつ、いてぇ~ なにすんだ! このヘンタイ女!」
「うるさい、あんたがぐずぐずしてるからでしょ!」
「はいはい、はい、二人とも、そのぐらいで、学君、そんじゃ、お願いね?」
「ああ、任せとけ」
なんて、親指立てて、爽やかに玄関のドアへむかった。
ドアの前で、大きく息を吸い込むと、一気に吐き出しながら、家の外へ。
ドアがバタンと閉じた途端、家の前ではいつもの『好きです』とか、『愛してる』とかの騒ぎが起きたのだけど、すぐに、うわっ! とか、ギャァァーーー! だとか、絶叫が聞こえてきた。
そういえば、かすかにドタン、バタンって何かが地面に打ち付けられてる音も聞こえるような。
私たち、ドアをわずかに開いて、表の様子を確認すると・・・・・・
今日も、家の前、地面に叩きつけられ、男たちが失神していた。
「プロテクター着けてもムダだったみたいだね?」
「うん、投げ飛ばす分には、プロテクターあってもなくても変わらないし。ただ、叩きつけられたときのダメージが小さくなるだけ」
「って、その割りに、今日もみんな伸びちゃってるみたいだけど?」
「そりゃ、昨日は学、怪我しない程度に手加減して、投げ飛ばしてたけど、今日は手加減抜きで、思いっきりいっても大丈夫だしね」
「へ、へぇ・・・・・・」
素人とはいえ、プロテクターつけている相手でも失神させられるって、どんな実力なのだか。
小学校のときから、私を守ってくれていた学君、前々から結構強いとは思っていたけど、想像以上なのかもね。