つかさ1/2 3
私たち、いつもの交差点で合流した。
道すがら、何人か、失神している男たちや、『う、うそだー! 俺の女神様が、ただの暴力女だったなんて!』って絶望に打ちひしがれていた男たちがいたけど、そんなのは無視、無視!
家の前の通りでは、日課の掃除をしている近所の本多のおばあちゃんと、目が合ったので、いつものように『おはようございます』なんて、挨拶は忘れない。でも、おばあちゃん目を白黒させてビックリしている様子。
まあ、無理もないわ。私、こんな格好だし。
私と学君とありさちゃん、無事合流した後、三人連れ立って、葉桜並木の坂を上っていく。
こんな風に歩いてこの坂を上っていくのって、すごく久しぶり。
風が爽やかで気持ちいい。雲も穏やかに流れて、うららかな陽射しが、私たちにやわらかくふりそそぐ。
ホント、春のいい陽気。
このところの懸案だった、わずらわしい朝の男たちから自由になったし、すがすがしい解放感を満喫できて、私、しあわせ!
自分の両足をつかって、この坂道を上るなんて、なんて心地いい気分なのかしら! これって、最高!
ついつい、華のような微笑を浮かべて、まわりに明るい笑顔を振りまいて。
たまたま目が合った男の子、「よお!」なんて、片手を上げて、挨拶してくれる。
うふって、お返しにエンジェルスマイル!
でも、その子、いつものように、目をハートにすることなく、ちょっと居心地悪そうに、どんどん坂道を上っていった。
う~ん・・・・・・
なんか、妙な気分だわ。
一方、私の隣の学君は、暗い表情で、うつむいちゃって。すごく恥ずかしそう。
「ほら、顔あげなさいよ! 恥ずかしがってないでさ?」
「ば、バカ! 俺のあご引っ張るんじゃない!」
うふ、恥ずかしさで目元を潤ませて、私を見上げてくれてる学君、なんかかわいい。
あれ? でも、私の周りの生徒たち、妙な声を上げてる。
『えぇ! まなピーとつかさちゃん、付き合ってるの!? こんな場所で、キスしちゃうの?』
って、なわけないじゃん!
ひゅーとか、わぁ~! とか、まわりではやし立てられ、慌てて、私たちはなれた。
また、今日もヘンな噂、立てられちゃいそう。参ったな。
でも、なんか、今日は私を見る男の子たちの視線がすごく痛いんですけど・・・・・・
バス停まで上ってくると、やっぱりこの娘、いました。
『つかさちゃーん!』なんて、私に飛びついてくるかと、思いきや・・・・・・
学君の方を指差して、
「あははははははははは」
お腹を抱えて笑い出しちゃった。
学君もたちまち真っ赤になり、
「こら! ヘンタイ女笑うな!」
「あはは、なにが、ヘンタイ女よ! 自分の方が、よっぽどヘンタイのくせに!」
学君、今日はそれ以上何も言い返せない。
目の端に涙を浮かべて、じっと耐えるしかない。
自分自身、ヘンタイと言われても仕方ないと思っているのだもんねぇ。
わかる、わかるよ! 学君!
「ほら、ひかりん、学君をいじめないの! 学君は、今日の主役なんだから」
「ええ! でもぉ~」
ひかりん、唇をとんがらがして、すねちゃって。あんたは子供か! まったく!
「ほら、学校いくよ!」
私、ひかりんの肩に手を回して、学校への坂道をどんどん上っていった。
途中、何人かの女の子たちが、私のことを、涙を浮かべて見送っていたような気がするのだけど。それに、なぜだか、彼女たちのひかりんを見る目に殺意を感じる・・・・・・
ひかりんと分かれ、私たちは、教室へ入った。
いつものように、友達におはようって、挨拶しながら自分の席へ。
でも、今日はなぜだか、挨拶された友達、はにかんじゃってるよ。
ともかく、私の席についた途端、まわりの席の子が驚いている。そして、隣の席の子が話しかけてきた。
「ねぇ? まなピー、そこ、つかさちゃんの席だよ」
ふっと見ると、学君の席でも、
「つかさちゃん、そこまなピーの席」
なんて、親切に教えている男子がいるし。
「うん、そうだよ」
なんて、うなずきながら、帽子を取り、アップにしている髪留めを外すと、肩までの私の髪がパラリ。
「え?」
またまた、まわりの席の子たち、目をまん丸にして、私を見つめてるし。
学君の席の方でも、ウィッグをとった学君に周囲の子らはのけぞって、一斉に椅子からずり落ちた。
そう、みんな気づいていたとは思うけど、私たち、入れ替わっていたのだ。
家を出たときから、ずっと、私が学君の制服を着て、髪を帽子で隠し、学君に化け、学君が私の制服をつけて、ウィッグを被り、暴力女・神宮寺つかさを演じていた。
発端は、あの佐野君の一言。
私と学君が似ているって言葉がヒントになったのは確か。
あの後、学君と本当に似ているのか実験してみて、どうやら似ているらしいので、替え玉計画を立ててみたのだけど・・・・・・
うん、いままでの感触からすると、この計画成功みたい。
でも、ちょっと、私は暴力女であるって噂が立つことになりそうなのは、不本意ではあるのだけど。
まあいいわ! 朝からうっとうしい男どもに追いかけられるよりかは、はるかにマシだから、我慢することにしてあげるわ。
その日は結局、昼休みまで私と学君、制服を入れ替えたまま授業を受けた。
私が男子の制服を着て、ウロウロしていても、あんまり奇異の目でみられることはなかったのだけど。学君の場合は・・・・・・
休みごとに別の教室からも、生徒たちが女装少年を見物に集まり、入り口に鈴なりになっちゃって。
大変だったのが、トイレ。
まさか、そんな格好で、男子トイレで用を足すわけにもいかないし、かといって、女子トイレってわけにも。
学君、午前中ずっと、ウィッグ被って、遠く離れた体育館横のトイレに通っていたみたい。
男子トイレを使っていたのか、女子トイレだったのかは、ナゾだけど。
でも、ただちょっとムカついたのが、体育館のトイレからもどってくるたびに、胸元の様子がどんどん変化していくこと。
最初、学校に来たときは、例のぬいぐるみ巾着だったはずなのに、2時間目に現れたときは、ソフトボール二つ。
3時間目には、サッカーボール。4時間目にはバスケットボールって!
「ちょっと、胸元がさびしかったから、大サービス!」
なんて、言いやがって!
ったく! ちくしょう! そんなサービスなんて、いらんわ!
こら、そこの男子、学君が、授業の終わりごとに、胸に手を突っ込んで、ボールを取り出すたびに、興奮するんじゃない! 鼻血噴き出して、倒れるんじゃない!
まったく、もう!