つかさ1/2 2
今日もいつもの登校時間。
いつもなら、家のガレージに直行して、パパの車の助手席に飛び乗るところだけど、今日はパパがいない。車があって、ママも家にいるけど、残念なことに免許をもっていないし。
今日から、私は、歩いて学校へ行かなくちゃいけない。
そして、その私の行く手に待ち構えているのは、私に想いを寄せる男たち。恋人候補に立候補する男たち。私を妻に迎えたい求婚者たち。って、まだ私、高校一年生15歳なんですけど・・・・・・
結婚なんて、まだまだ先!
そんな私に結婚してくださいって、申し込むなんて、どんな神経しているのかしら?
しかも、明らかに私、迷惑顔しているのに、毎朝毎朝、しつこく付きまとうなんて。
男って、ヤな生物!
パパや清貴さんや学君みたいな人たちと、同じ種族だとは全然思えないわ!
こいつらのことを考えるだけで、気が重くなるし、虫唾が走っちゃう!
ヤダなぁ!
とにかく、今日からは、学校へ行くために、この人たちを掻き分け蹴散らし、していかなくちゃね。
面倒くさいんだから!
神宮寺つかさは、「いってきまーす!」なんて、明るく言いながら、玄関を飛び出していった。
その姿を見かけ、たちまち家の前に集まっていた男どもが、神宮寺家の門に殺到する。
「つかさちゃん、好きです! 俺と結婚してください!」
「愛してます! 俺の妻に!」
「あなたに夢中です! 昨日、妻と別れてきました。ぜひ、私と再婚を!」
そんな男たちの中へ、門を出た可憐な美少女、神宮寺つかさは飛び込んでいくことになる。
でも、
「おお! いとしの君、俺の胸に! げほっ!」
最前列の大学生風の男が膝から崩れ折れたのを皮切りに、
「好きです! 好きです! 大す・・・・・・ どわっ!」
投げ飛ばされて、その場で気を失うもの。
「君のような女神に、ずっとそばにいてほ・・・・・・ あべし!」
秘孔を突かれて、倒れふすもの。
惨憺たる惨状がものの5分ほどの間に現れた。
その5分が経過した後に、神宮寺家の門前に立っていたのは、神宮寺つかさただ一人であった。
もちろん、このような状況を生み出したのは、神宮寺つかさその人。
「あらぁ? もう終わりなのかしら? みなさん、私を愛してらっしゃるなんて、おっしゃられてるけど、この程度で、伸びてしまうような愛情しかもっていらっしゃらないのですわね? 残念ですわ」
なんて、ちょっと低い小馬鹿にした声をもらして、神宮寺つかさは、歩み去っていくのだった。
それから、10分。
再び、神宮寺家のドアが開いた。
帽子をかぶった少年とスレンダーモデル体型の少女が連れ立って出てきた。
そのとき、家の前の道路では、ひとりの少女に散々叩きのめされたばかりの男たちが、みな一様に涙にくれていた。
「あの子、ちょっとやりすぎじゃない?」
「ううん、これぐらいでないと、この人たち、目が覚めないわよ」
などと、少年と少女がささやき交わす。
やがて、少女がつかつかと進み出ると。
「ちょっと、あんたたち、そこどいてくれない? 通行の邪魔なんですけど!」
軽蔑しきった冷たい声。さらに、
「それと、ああ見えて、あの子、相当強いから、これ以上付きまとっていると、どうなってもしらないわよ。それでもかなり手加減してくれた方なんだから」
男たちは、目をしばたたいている。ようやく、自分たちが、どんな女の子に恋をしてしまったのか、気がついたみたい。
「いいこと、あの子を本気で怒らせたら、命がいくつあっても足りないわよ! ほら、あそこの鉄の柵みてよ。ひん曲がってるでしょ? あれ、こないだ、あの子を背後から襲おうとして、逆に、投げ飛ばされた人がぶつかって、曲がっちゃたの」
随分前に、パパの車が接触して、曲がった部分を指していう。
「う、うそだぁ!」
「うそじゃないわ! あの子の本性を、あなたたち、自分自身で、今体験したばかりでしょ?」
「うっ・・・・・・」
「そ、そんなぁ~ 俺の女神さまがぁ~!」
「あ、あんな暴力女がボクの運命の人でなんかあるはずない!」
だ、だれが暴力女よ!
「つかさちゃんが、つかさちゃんが、壊れた!」
な、なんだと! だれが壊れたって!
「とほほ、また、ヘンな女にひっかかっちゃったよ! ママぁ~」
だれが、ヘンな女よ! それに、ママぁ~ってなによ!
まったくもう! 額に血管がピキピキ浮かび上がりまくりよ!
散々な言われようだわね!
ありさちゃん、やっちゃってよ! こいつらに分からせてあげて、口の利き方には、もっと注意しなさいって!
少年が、強い目で、少女を見た。
それだけで、少女には、通じたみたいで。ひとつうなずくと、
「ほら、どけって言ってんだろ! ぶっ殺すぞ!」
なんて、ドスの利いた声を響かせながら飛び出して行く。さっきの神宮寺つかさと違って、手加減なんてしない。次から次へ投げ飛ばして、道路の隅へ男どもを片していく。
「う、うわぁ~~~!! 男おんなだぁ~~~!」
その姿を見て、逃げていった大学生風の男。また、余計なことを。
たちまち、少女に追いつかれて、バックドロップ。
う~ん・・・・・・ 口から泡吹いて伸びちゃったよ。
首の骨、ぐにゃりと曲がってない?
と、ともかく、これ以上、この日二回目の惨劇の様子を描写したら、食欲がなくなるので、もう終わり。
ただコレだけは言える。
このあと、町の中でも、どこでも、少女の姿を見ただけで、男たちが慌てて逃げていくようになったそうな。
伝説の凶暴男おんな、斉藤ありさ。
そんな噂が町中に広まるのには、それほど時間がかからなかった。