勉強しましょう! 9
その練習試合が終わり、ようやく、図書館へたどり着いたのだけど。
すぐに、ありさちゃんと学君がやってきた。
「おっす! つかさ。それに熊坂も」
「つかさちゃん、ひかりん、お待たせ~」
二人並んで、閲覧室の私たちに近づいてきた。
なんか、なんか、ふたり、絵になるというか、お似合いのカップル。
すれ違う男の子も、女の子も、二人を見て、うらやましげな様子。
う~ん・・・・・・
私もうらやましいかも。
「ううん、大丈夫、今来たとこ」
「ありさちゃん、やあ!」
もちろん、ひかりんは学君、無視。
読んでいた本を書架の元の場所へ戻し、私たち、四人連れ立って、帰宅することに。
校門前とか、下校途中、私を待ち伏せしていた男どもが今日もいたけど、優れた格闘家の学君とありさちゃんの敵ではなかった。
「あっ、つかさちゃんだ! つかさちゃん、ボクの気持ちを・・・・・・ おわっ!」
「好きです、この花束は・・・・・・ひえぇぇぇっ!」
学君も、ありさちゃんも容赦がない。
私を見つけ、殺到してきた男たち、みなまで言うことができず、あっという間に、地面にはいつくばっていることに。
「ご、ごめんなさいね。ごめんなさいね」
なんて、私、ぺこぺこ謝りながら、二人の後ろをついていった。
って、そこの地面に伸びている男、ドサクサにまぎれて、私のスカートの中をのぞこうとするんじゃない!
「キャッ!」って、私が悲鳴を上げて、スカートの裾を押さえた途端、その男を踏み潰して、ひかりんが歩いていく。
「あ~ら? 私、なにか虫でも踏んじゃったかしら?」
う~ん・・・・・・ いくらなんでも、顔の上を乱暴に歩いたら、怪我しちゃわない?
まあ、別にいいのだけど・・・・・・
これに懲りて、二度と私の前に現れてくれなければいいな。
とはいえ、そうは問屋がおろしてくれないのだよねぇ。これが。
ホント、男って、しつこい!
そのまま、どこへも寄り道することなく、私たち四人は、私の家へたどり着いた。
いつもなら、玄関先まで送ってくれると、学君もありさちゃんも帰って行っちゃうのだけど、今日は私、話があった。
みんなを私の部屋へ招き入れる。
部屋の真ん中の小さなテーブルを囲んで、四人、思い思いに座り込んだ。
「で、つかさ、話ってナニ?」
「うん、えっとね。今朝、パパが急な出張で、アメリカへ行っちゃったの」
「え? アメリカ? それは、さびしいなぁ~」
「バカ! さみしいなんて、問題じゃないでしょう。お父さん、もうアメリカへ行っちゃったの?」
「うん。午後の便で」
「ってことは、今晩、お母さんとこの家で二人だけ?」
私、ちいさくうなづいた。
「・・・・・・」
四人分の沈黙。
「って、それ、メチャクチャあぶねぇじゃん!」
「た、大変じゃない! どうするの!」
「えっと、えっと、えーと・・・・・・」
三人とも、身を乗り出して、私を心配してくれる。
当然だよね。セキュリティサービスに加入していて、侵入者とかいれば、ホームセキュリティの人が駆けつけてくれるとはいえ、前を見知らぬ男たちがウロウロしている家に、母と娘(それもとびっきりの美少女)、二人っきりで生活するのだ。
まだ、パパという男性がいたので、それなりに抑止力となってはいたけど、今晩からは、男っけのない家。あ、危なすぎる・・・・・・
「とにかく、今日は、私、お泊りしようか?」
「え? いいの?」
「うん、いいよ、大丈夫、大丈夫。後で、一旦、家に帰って、着替えを持ってくるね」
「ありがとう!」
私、ありさちゃんに感謝の視線を投げた。
「えぇ~!? じゃ、私もお泊りするぅ~!」
「なに言ってるんだ! お前の家、ここから結構遠いだろうが? 着替え取ってもどってくるだけで、真夜中になっちゃうぞ!」
「でもぉ、つかさちゃんの家で、私もお泊りしたーい!」
「ダメだ! 着替えを取りに行ったとして、大体、お前をだれが駅まで迎えに行くんだ?」
「大丈夫だもん! 私、一人でもここまでこれるもん!」
「ああ、これるだろうな。お前でもな。そして、家の前にたむろしている男どもを掻き分けて、つかさの家に入ろうとするわけだ」
学君、窓の外を指差す。とたんに、うへぇ~っと表情をゆがめ、青くなるひかりん。昨日の夜、学君に駅まで送ってもらったこと、思い出したのだねぇ、きっと。
「学君、今日も帰り、ひかりんを駅まで送っていってあげてね」
「ああ」
「ひかりんも、お泊りするの、また今度にしよう? 夜、ひとりで来るのって、すごく危ないし、ね?」
「う、う~ん・・・・・・ウン」
ひかりん、しぶしぶって感じ。
「でも、親父さん、いつ日本へ帰ってくるの? すぐ?」
「ううん。分からない。急に出張が決まって、いつ帰ってこられるか、分からないんだって」
「そ、そうか・・・・・・ それは、大変だ。じゃ、朝、もう親父さんに車で送ってもらえないんだな?」
「うん」
「となると、明日から、この家まで迎えに来た方がいいのかな?」
「うん、できれば・・・・・・」
「オッケェ~! 明日から、来るよ」
学君、軽くウィンク。でも、ホントやさしくて頼りになる。
いとこで、小さな頃から知っていて、幼馴染。兄弟みたいに思っていなければ、ここまで尽くされちゃうと、絶対、恋しちゃっているのにな。
「で、それでね。ちょっとみんなに頼みがあるの・・・・・・」
というわけで、私、三人に、今日一日考えてきたことを説明した。
「えぇ~!? うっそー! 絶対、そんなのうまくいきっこないよ!」
「ちょ、ちょっと待てぇ! そ、それは・・・・・・・」
「あはは! おもしろーい! それ、絶対、おもしろいよ! マジうける! あはは」