勉強しましょう! 8
ともかく、その後の試合は、相手チームにとって、散々な内容になった。
相手チームの選手たちは、ゲームに集中するなんてことがもう不可能なっちゃってて、しきりに、私の方を見ている。
たまに、そういう選手たちの一人と目が合ってしまうと、棒立ちになり、その場で足が止まる。
たちまちボールが神宮寺の選手たちに奪われて、そのまま相手のゴール前までつながれ、シュート!
見ている間に、2点、3点とどんどん点が入っていった。
う~ん・・・・・・
こうなるとなんか、相手のチームに申し訳ないような気になってくるね。
私がピッチ脇にいるせいで、ゲームに集中できず、実力を全然出せなくなっているのだから。
ごめんなさいね。
でも、神宮寺の選手たちも、私の方をチラチラ見てはいるのだけど、普段から見慣れているせいか、相手チームほどの影響はないみたい。
だから、どんどん点が入るのだねぇ。
美人は、三日で飽きるとかなんとか、失礼な言い回しがあるけど、どうやら本当みたい。
なんか、ちょっと悔しいな。
そんなことを思いながら、グラウンドを見回していると、相手チームのゴール裏に、カメラマンの姿が。
神宮寺の制服を着てカメラを構えているのだから、当然、神宮寺の写真部だよね?
写真部といえば、観桜会のときに、勝手に私の写真をとって、商売をしたところ。
文句のひとつも言っておかなくちゃ!
私、相手チームのゴール裏へ歩いていった。
私の動きに合わせて、相手チームの11対の視線も、動いたのは言うまでもないかな。
「おっ! 神宮寺つかさだ!」
なんて、写真部の生徒たち、カメラ小僧よろしく、私にレンズを向け、パシャパシャ撮りまくってくれてるし。
あ、あのねぇ。あんたたち、サッカーの試合を撮りにきたんじゃなかったの?
なんで、私を撮影してるのよ!
「ちょ、ちょっと、やめてください! 私を撮らないでください!」
私の抗議の声を無視して、写真部の部員ども、何枚も何枚もシャッターを切っている。
「こら! 写真部、なにつかさちゃん撮ってるんだ! サッカーの試合を撮りに来たんだろうが! しっかり仕事しろ!」
なんて、喚きながら、委員長、こちらへ猛然と突進してきた。そして、写真部の部員たちに鉄拳制裁!
ちょ、ちょっと、委員長! やりすぎ!
写真部の部員の頭を両脇に抱え込んで、ゴツンゴツンあたりに音を響かせて、ぶつけ合ってるし。
抱えられてる部員さんたち、なんか白目剥いてない?
だ、大丈夫?
ともかく、委員長の乱入のおかげで、写真部たちの即席神宮寺つかさ撮影会、終了となった。
負傷者2名を残して・・・・・・
「ねぇ? みなさん、写真部の方たちですよね?」
「ええ」
ゴール前に陣取っている写真部の中で、一番威厳のあるいかにも部長って感じの女生徒が代表して答える。
「観桜会のとき、私の写真を撮ったでしょう?」
「ええ。どれも素敵な写真になりましたよ」
そんなことは、当たり前だっていうの! 私が写っていれば、どのような写真だって、たとえ、ピンボケ写真だって、すばらしい写真になっちゃうのだから!
だって、だって、私は、美の女神、つかさ様なのだから!
「そう、でも、勝手に、私の写真を売ったりしないで、ほしいのですけど」
「え? というと?」
「だって、私にだって、肖像権みたいなものがあるわけでしょ? 公の場で、正式な身分のもとに行動しているときならともかく、あなた方の撮った写真のほとんどは、私たちがプライベートで観桜会を楽しんでいたときの写真ばかりでしょ?」
「ま、まあ、確かに・・・・・・」
「なら、私の許可もなく、勝手に撮影して、商売をするなんて、おかしなことじゃありません?」
「ああ、こないだの写真撮影で不快な思いをおかけしたのでしたら、申し訳なかったですね。でも、許可と販売の件ですけど、たしか、さく女生徒会から、許可をもらっているはずなんだけど?」
「・・・・・・」
びっくりして、目がまん丸になった。どういうこと、さく女生徒会から許可もらっているって?
「え? 瞳に話つけてあったのだけどねぇ~? 聞いてない?」
「えぇ!? そんなこと、全然聞いてませんよ」
「おっかしいなぁ~ 写真の販売で、さくらヶ丘歴史伝統研究会へ収益の一部を支払っているのだけど・・・・・・」
・・・・・・か、会長。
いつのまに、そんな裏取引を。
会長の裏の姿を垣間見た気がした。
ともかく、締まらない練習試合、一方的に、神宮寺高校チームが攻め立て、大量得点を挙げて、終了した。
27-0
一体、何の試合をしたのだか・・・・・・
もちろん、島崎君は、デビュー戦でいきなり、ハットトリック3回分。
つまり、ハットトリックのハットトリック。9得点。
う~ん・・・・・・
相手チームは確か、前回大会で県予選ベスト8だったはず。
うちのチームって、もしかして強いのかな?
なんて、はずもなくて・・・・・・
試合終了後、神宮寺のコーチが私のところへ真っ先に来た。
「君、神宮寺つかささんでしたよね?」
「え? はい、そうですけど?」
サッカー部のコーチが私になんの用なのだろう?
まさか、まさか、この人も、私に一目ぼれしたとか言うのじゃ?
こ、困っちゃうなぁ~。どこも、かしこも、私に夢中になる男ばかりで。
でも、コーチが話しかけてきた理由は、まったく違うものだった。
「君、よかったら、試合のときだけでいいから、マネージャーをやってくれないか?」
「え?」
「君がいてくれるだけで、どんな相手も見とれちゃって、腑抜けになっちゃうからね」
そういって、スコアボードを指差す。
27-0
って、なんじゃ、そら!
自分たちの実力で勝ち抜こうと努力するのじゃなくて、私の魅力を使って、勝ちを目指すのかい!
ん~~~!!!
頭痛くなりそう。
結局、その翌年の成人の日、とある地方の無名私立校が、国立競技場で、史上初めて地方大会からの全試合、二桁得点して優勝したという。
選手個々の能力やチーム力が圧倒していたからではなく、ベンチに陣取るマネージャーの微笑みによって。