勉強しましょう! 6
午後の授業もまったりとした時の流れの中で終了し、帰りのホームルームも終わった。
今日もまた、生徒会室へ。
って、今日は二度目だけど・・・・・・
今日から、熊坂会長発案の勉強会スタート!
勉強会、ありさちゃんも誘ったけど、もう絶対いかない! って涙眼で断られてしまった。
ともかく、ありさちゃんが借り出していた分も、参考書を資料室に戻し、私たち1年生がかたまっている一角に自分の席を確保。
筆箱・ノートを取り出し、あらたに借り出してきた参考書を広げ、黙々と勉強開始!
ホント、この先輩たちの参考書、すごく役に立つ。すごく勉強になる。
どこが重要項目で、それぞれがどういう関係になっているのか、要領よくまとめられているし、教師たちが説明しているのよりも、はるかに分かりやすい。
とくに、私が読んでいて、疑問に思ったこと、引っかかった部分には、余白に簡単な解説が添えられていて、大抵、的確な疑問点への回答が添えられている。
う~ん・・・・・・
勉強になるなぁ~
あ、でも、私も卒業すれば、こんな風に参考書を後輩へ贈るかもしれないけど、これぐらいキチンとした解説が書き込めているのかしら?
なんだか、すごく不安になってきた。
あの神宮寺先輩、顔はいいのだけど、勉強の方はからっきしね。
なんて、後輩たちに言われたりしないのだろうか・・・・・・
き、気合を入れねば。
同程度の頭脳レベルの女生徒たちで集まって、勉強会をするっていうのは、結構よいアイディアだったかも。
大体、同じようなペースで勉強が進み、誰かがわからないところがあっても、周りの誰かに質問すれば、丁寧に教えてもらえる。
ある人がつまずく場所は、他の人にとっても、理解が難しい場所。その部分を理解できている人にとっては、どのあたりが理解の妨げになるのか、大体の感覚でつかめていることになる。だから、仲間に教えるときも、どうして理解できていないのか、ある程度、予想できるし、それを乗り越えるコツを的確に指摘することができる。
これが頭脳のレベルに大きく違いがある人たちでの勉強会になると・・・・・・
たとえば、神宮寺系の偏差値40台前半の生徒と、私たちさく女系の生徒たちで勉強会を開いたとしても、神宮寺の生徒たちが、分からないって言っていることは、私たちには、完全に理解不能なんだよねぇ。
なぜ、こんな当たり前のことを理解できないのだろう? ってことになるのがオチ。それでも、めげずに、懇切丁寧に、これはこう、あれはそう、っていう風に教えたとしても、彼らには、チンプンカンプン。私たちの説明自体が、理解不能の異星人言語とみなされてしまう。
ホント、勉強ひとつとっても、神宮寺とさく女の合併って、ムチャな話だよねぇ。
で、私も、なんどかつまずき、そのたびに委員長に教えてもらっていた。
委員長の説明は的確だし、実に分かりやすい。
私が、これどういうこと? なんて質問すると、二言三言ヒントをくれるだけでも、すっと参考書の説明が頭の中に入ってくる。
まるで魔法みたい。
って、委員長のまわりに、いつの間にか人だかりができているような・・・・・・
一年生たちが、こぞって自分が分からないところを教えてもらおうと、集まってきている。
ん? あれ? 一年生ばかりじゃないぞ!
上級生たちも、チラホラ委員長まわりにいるし。
おーい、そこの3年生、微分・積分の本をもって、一体、一年生になにを質問しようっていうの? いくらなんでもまだムリでしょうに!
って、委員長、不定数Cがどうこうって! 微分・積分まで理解できてるのかい!
恐るべし、委員長!
一年生にして、三年生の教科ですら、人に教えられるほど、理解しているとは・・・・・・
しばらく、私たち、生徒会室にこもって勉強会を開いていたのだけど、1時間もすると、集中力が途切れてきて、しだいに仲のよいもの同士でおしゃべりをしはじめた。
「ふぅ、結構、進んだねぇ」
「うん、こうやって、みんなで勉強すると、教えあったりできるから、すごくはかどるよねぇ~」
「そうだねぇ。家で勉強していると、分からないところは、一人で悩んで、じっくり考えて、それでも分からなくて、勉強がそこでストップしちゃうもんねぇ」
「うんうん、そうそう」
「みんなで勉強していると、分からないところは、分かっている人に訊けば、分かりやすく教えてもらえるし、勉強がストップせずに、どんどん進めていけて、いいよねぇ」
「うん、でも、ちょっと進みすぎちゃった。今日だけで、私、数学の参考書四分の一ぐらい済んじゃった」
「わぁ! すごーい。私、やっと40ページ消化したかどうかってぐらい」
「それも、結構すごいんじゃない?」
「ええ!? そうかなぁ~?」
「うん、すごいよ! でも、ちょっと疲れちゃったねぇ~?」
「うん、こんなに勉強したの受験のとき以来かも」
「うんうん、ほんとそうだねぇ~ あ、そうだ、帰りクレープでも食べにいかない?」
「うん、いくー! クレープ食べたーい!」
なんていうような会話が、部屋のあちこちから聞こえてくるように・・・・・・
まあ、私も疲れちゃったし、そういうような会話を委員長やひかりんとしていたのだけど。
でも、なんか委員長、そわそわしだしてきた。
「ん? 委員長、お手洗い一緒にいこうか?」
「え? あ、ううん、ありがとう、そうじゃないの・・・・・・」
トイレじゃないなら、なんだろう?
しきりに、携帯を開いては、時間表示を確認している。
「なにか、用事でもあるの?」
「え? あ、その・・・・・・」
委員長、耳まで赤くなっちゃって。
は、はぁ~ん! 委員長が真っ赤になるといったら・・・・・・
「さては、デートだな?」
「えぇ! ち、違う! デートなんかじゃ・・・・・・」
「ぐふふ。口ごもるところがあやしぃ!」
委員長、もじもじしちゃって、かわいい。
「まあ、デートかどうかはともかく、用事があるのだったら、そう会長に言えば、いいと思うよ。まさか、あの会長だって、用事のあるって言っている人を引き止めたり、しないだろうし」
「え、えーと、たぶん、そうだろうと、思うのだけど・・・・・・」
なんだか、いまひとつ思い切れないって感じ。
そんなことを言い合っていると、ちょうど目の前を、その会長自身が通りかかったりして。
「お? 神宮寺? なにか用事でもあるのか?」
「え? 私? あ、いいえ、用事があるのは、私じゃなくて」
委員長を指差す。
「ああ、用事があるのだったら、ムリに引き止めたりしないぞ。今日は、特に差し迫って処理しなければいけない案件があるわけでもないしな」
委員長の表情がパッと明るくなった。
「委員長、よかったね」
「うん、じゃ、私、これで帰りますね?」
「ああ、帰り、気をつけてな?」
「はい」
「島崎君によろしくね」
って、委員長、私の一言に頭から湯気をあげちゃったりして。