勉強しましょう! 5
熊坂会長が相手をして、梅田先輩が手続き用紙にいろいろと記入している間に、私たちおびえるありさちゃんを引っ張って、奥の部屋へ移動した。
奥の部屋、資料室の壁には大きなスチール棚が何台か設置されていて、歴代の生徒会の活動記録やら、議事録、その他もろもろが所狭しと、並んでいた。
古い書籍が保管されている場所。ちょっぴりカビ臭いような、一種独特の匂いがこもっている。
でも、私にとっては不快な匂いではない。むしろ、心地いいぐらいの匂い。まだ接したこともない、すばらしい知識の世界が、私を呼んでいる。
未知の世界への扉の前に、今、私は立っているの!
後は、その扉を押し開くだけ!
ギィィィ~~~~!!
で、私たちが探していたものも、もちろん、その他もろもろの中に含まれるわけで。
「あった、これこれ」
「すっごーい! いっぱいあるねぇ~!」
「そう、どれでも手にとって見てみるといいわよ」
「す、すごいわね。本屋さんが開けちゃいそう」
なんて、4人でワイワイいいながら、参考書をいろいろ見てまわった。
各出版社から発行されている様々な参考書。すべての教科がそろっており、なおかつ、ほとんどすべての版がそろえられている。
「この中から、気に入ったのを選んで、あっちの机の上のノートに、日付と借り出した本の認証番号とクラスと名前を書けば、借り出せるのよ」
「はーい。じゃ、私、次の生物のために、コレ借りていこっと」
「私も、私も!」
「って、あんたは別のクラスでしょうが?」
「ええぇ~ 私もつかさちゃんとお揃いがイイ!」
「はいはい、ひかりん、そんなところで拗ねないの。ひかりんは梅田先輩の参考書を借りるのでしょ?」
「あ、そうだった」
ぺこっと頭をたたく少女が一人。
カビ臭い資料室の中に春風が吹いたみたい。
「あ、ついでに参考書を選ぶヒントなんだけど」
委員長、手近な一冊を取り出して、私たちを見回した。
「教科によって違うけど、なるべく5年から10年ぐらい前の版の参考書を選ぶ方がいいわよ」
委員長が言うには、さくらヶ丘女子は、県内有数の進学校だっただけあって、卒業生たちのレベルが高く、参考書へのマーキングや書き込みなどは、的確で、見やすく要領よく行われている。
なので、そういう卒業生たちが何代も何代もマーキングし、書き込んだ参考書の方が、つまり古いものほど、勉強になるのは確かなのだけど、今の学問世界、次から次へ進歩し、新しい知識・考え方が登場して、どんどん古いものと置き換わっている。
その結果、10年前よりも古い版になると、そこに掲載されている知識があまりにも古すぎて、役に立たない場面が多くなるのだとか。
もちろん、一年生で習うことであれば、基礎的なことが主なので、多少古くても、勉強に影響するなんてことは、ほとんどないのだけど・・・・・・
たとえば地理なんて、10年前の産業構造だとか、国際貿易体制とか見ても、はっきりいって、全然役に立たないんだよねぇ。
大体、10年前、中国経済が今みたいに日本のGDPに追いつき追い越すなんて、だれが想像していただろう?
「だから、勉強したいのなら、古いものを選んだ方がいいけど、あまり古すぎてもだめだから。適度に古いものを選ぶようにしてね。それと、うちに帰って復習する都合もあるから、家にある参考書と同じタイプのものを選んでおくと、後で便利よ」
だそうな。
なるほど、なるほど・・・・・・
古本の参考書選びにしても、奥が深いものがある。勉強になった。
私たちそれぞれ、午後の授業用に借り出す参考書を選び、奥の机の上のノートに、日付と本の扉にスタンプされている認証番号とクラス・名前をそれぞれ書き込んで、ぞろぞろと資料室を出た。
生徒会室では、熊坂会長、梅田先輩が持ち込んできた参考書の一冊一冊の表紙をめくって、扉部分にどんどんスタンプを打ち込んでいく作業をしている。
「ほら、光たち、コレ資料室へ運ぶの手伝って」
「はーい」
というわけで、スタンプ打ちが終わったものから、順番に資料室へ。
ありさちゃんが手伝おうとすると、熊坂会長、
「あっ! その本、表紙が血でベトベトに・・・・・・」
「ひぃぃぃ~~~」
って、やっぱり性格悪いな、この人!
そんな会長にあきれた声で、梅田先輩、
「こらこら、かわいい後輩をからかうんじゃないの!」
ぺこりと、会長の頭を叩いたのはいいのだけど。急に真剣な表情になって、だれもいない部屋の隅を指差して、
「あっ、ねぇ~ あそこに立っている女の子はだれ? こんにちは」
って手を振ってみせるし。
「え? だれかいますか?」
「ええ? あんた、見えないの、あそこ! ほら、足が透けて見える昔のさく女のセーラー服着た女の子」
「ええ!? あ、本当だ、だれだろう、こんにちは」
って熊坂会長まで・・・・・・
はぁ~
ホント、さく女の生徒会長って、こういう人たちばかりなのかしら?
まったく、もう!
どうでもいいけど、ありさちゃん、あの人たち、単に冗談を言っているだけなのだから、そんなに本気でおびえないでよ。
「お化けなんていない! 幽霊なんて存在しない!」
ハァ~~~
頭痛くなってきた。