勉強しましょう! 1
次の日も、パパに学校まで送ってもらった。
運転手付きの車に毎朝送ってもらって、登校するなんて、どこぞのお嬢様にでもなった気分。
学校の裏門脇の駐車場に車を止め、ドアを開けて、元気よく飛び出したのはいいのだけど・・・・・・
「パパ、気をつけてね」
「ああ、明日から、お前も気をつけるんだぞ」
「うん、分かってる」
「声掛けられても、絶対、ヘンな男についていくんじゃないぞ!」
「うん、分かったよ」
「絶対だぞ! 忘れるなよ! なにしろ、お前はあの母さんの子供なんだからな」
って、それどういう意味よ! まったく!
「大学時代、俺が見初めて、声かけたら、ほいほいついてきて、そのまま嫁に来た女の血を引いているんだから・・・・・・」
ったく、自分の奥さんのことを、野良犬かなにかみたいに言っちゃって。パパだって、ママに声かけられて、興味がないのに、大学の文芸サークルに入会しちゃったくせに!
「はいはい、分かってますよ」
「俺みたいなイケメンがナンパしてきても、ポーとなって、ついていったりしちゃダメだぞ! いいな?」
「はい、はい」
「本当に、分かってるのか?」
「もう、分かったから、そろそろ行かないと、飛行機乗り遅れちゃうわよ!」
私、乱暴に車のドアを閉めた。
バイバイって軽く手を振って、足早に校舎の方へ歩いていく。
パパ、しばらくあきらめ切れないみたいに、私の方を見ていたみたいだけど、やがて、家へ引き返して行った。
パパがやたらと私のことを気にしていたのにはわけがある。
昨日の夜遅く、パパが帰ってきて言うには、『明日から、しばらくアメリカへ出張することになった』のだそうな。
急な出張話。
会社の庶務部に勤めているパパにアメリカ出張だなんて・・・・・・
ヘンなの?
たとえば、会社の営業だとか、研究・開発部門とか、そういうところの人が海外出張なら、なんとなくありえるように思うのだけど。庶務。会社の備品を管理したり、株主総会の手配をしたりするのが主な仕事。
一体、アメリカへ行って、なにをするのだろう?
なんでも、アメリカの取引先の直々の招聘でパパが行くことになったそうなのだけど・・・・・・
でも、パパ自身、その取引先の人と会ったこともないし、ましてや、相手の社長さんから指名を受けて呼ばれる覚えなんてなにもない。
一体、なんなのだろう?
考えれば、考えるほど、分からなくなっちゃう。
で、その影響で、明日からは、パパに車で送ってもらえなくなっちゃった。
今日だけは、午後からの飛行機の予約が取れたので、送ってもらえたけど、明日からは、パパはアメリカ。
私、学校へ行くのに、前のように自分で歩いて通わなくちゃ。
はぁ~ 毎朝、男どもを掻き分けて、振り切って、学校へ行かなくちゃいけないのね。
最悪、パパが帰国するまで休学してもいいとか、パパもママも言っていたけど、いつパパが帰ってくるのか自体、分からないし。
なんか、ヤダなぁ。
そんな憂鬱な気分で、グラウンド脇を歩いているときに限って、不幸は頼んでもいないのに、やってくるもので。
「あぶない!」
そう誰かが叫ぶ声が聞こえたのは、サッカーボールが私の頭を直撃した後だった。
「おーい、大丈夫かぁ」
遠くから、慌てて走ってくる島崎君の姿が見えたような気がするけど、そのまま私、気絶してしまった。